就活の今後6つのポイント~「五輪が言い訳にならずに済んだ」の意外な真相

就活ルール廃止で早期化などはどうなる?(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

そもそも就活ルールってなんだ?

経団連は2018年10月9日の会長・副会長会議で就活ルールの廃止を決定しました。

10/9(火) 15:27配信の時事通信記事「経団連、就活ルール廃止決定=政府主導の新方式に―21年春入社は現行通り」にはこうあります。

経団連は9日の会長・副会長会議で、現在大学2年生である2021年春入社以降の新卒者を対象とする就職・採用活動のルールを策定しないことを正式に決めた。1953年に始まった「就職協定」以来の就職・採用活動の「目安」はいったん廃止。政府主導で新たな方式作りを行う。政府は21年春入社については現行ルールを維持する方針だ。

就活ルールの見直しが円滑に進まなければ、学生・企業双方が活動を本格化させる時期を大幅に早めかねず、学業への影響が懸念される。

いくつか、ツッコミどころあるのですが、そもそも、就活ルールとは何でしょうか?

経団連は就職倫理憲章、採用選考に関する指針などを定めています。

この中にスケジュール(3年3月広報解禁・4年6月選考解禁)も明記されています。そのため、就活ルールとは、このスケジュールやそれに付随するルール、と一般的には理解されています。

日本経済新聞の2018年9月5日配信「日経速報ニュースアーカイブ」の「きょうのことば」では、「経団連が企業の採用活動に関して定めるルール」としています。

就職協定以外の空白期間はあったはずだが

時事通信記事では、「1953年に始まった「就職協定」以来の就職・採用活動の「目安」はいったん廃止」としています。

が、これにはちょっと違和感が。

1962年には日経連(その後、経団連に統合)が好景気もあって就職協定野放し宣言を出します。

そのため、1962年ごろから1974年ごろまでは実質的には就職協定が機能していなかった、つまりなかった、と言っていいでしょう。

それと現行の就職ルールの中に含まれる就職倫理憲章、こちらは1996年の就職協定廃止と同時に経団連が策定しています。

が、現状の倫理憲章と異なり、内定日(4年生10月1日)以外のスケジュールは一切書いていませんでした。

2005年卒に選考について「卒業学年に達しない学生に対して、面接など実質的な選考活動を行うことは厳に慎む」と明記しました。合わせて、経営者名による共同宣言を630社で出したことで早期化に歯止めがかかります。

2013年卒には、広報活動の後ろ倒しと合わせてその時期(3年12月)を明記。そして2016年卒では倫理憲章が指針に改めるようになりました。

こうした経緯から、目安がずっとあったとも言えますし、ない時期があった、とも言えます。

「五輪が言い訳にならずに済んだ」の意外な真相

さて、2016年卒から「3年3月広報解禁・4年8月選考解禁」となりました。大学関係者はこの時期変更によって、学業の阻害などがなくなる、と快活を叫んだのです。

もっとも、8月選考解禁は暑い時期に、と大不評で、2017年卒から4年6月選考解禁に変更、現在に至っています。

この相次ぐ時期変更の間に、東京がオリンピック開催都市に決定。そこで、「2020年にはオリンピックが開催される。大型イベント会場が就活で使えなくなるが大丈夫か」との話が出始めます。

オリンピックのために、就活の時期変更が必要では、との意見も大学関係者の中で強くなっていったのです。

ただし、結論から言いましょう。これは全くの言い訳にすぎません。

と言うのも、大学関係者からは、「結局、一番マイナスが少ない(学業に影響しない)のは以前のスケジュール、つまり、『3年秋か冬に広報開始・3年3月か4年4月に選考開始』なのではないか」と考えだしたからです。

現状のスケジュール(4年6月選考解禁)だと、理工系学生は卒業研究に影響が出てしまいます。

それから、教育系学部の学生は教育実習をいつにするか、という問題があります。受け入れ学校側としては一番収まりがいいのが5月~6月あたり。ところが現状のスケジュールでは思いっきり重複します。

あ、教育実習と就活、両立すればいいのでは、というのは机上の空論です。教育実習は忙しすぎて、その間に就活を進めるのはほぼ不可能です。

現在の教育系学部生は教育実習と就活時期を重複させないように3月以前などにしています。が、これもこれで受け入れ学校からすれば「早すぎる」「受け入れできない」など色々不満がある模様。

 などと考えていくと、以前のスケジュールの方がまだましだったことに多くの大学関係者は気づいてしまいました。

 ところが、以前のスケジュールに戻すとなると、「現在の就活は学業を阻害しているから時期の後ろ倒しを」と主張した、当時の大学関係者のメンツをつぶすことになります。もちろん、現在でも引退せずに現役の方が相当いらっしゃるのは言うまでもありません。

ここで賢明な読者の方はお気づきでしょう。そう、オリンピックで会場不足だから時期変更を、というのは単なる言い訳、方便なのです。

実際にはたった1年だけ、それも東京という限られた地域のみ、しかも代替施設は幕張メッセを含めいくらでもある、などなどわかっていても、それを無視して「オリンピックがあるから時期変更を」としておけば、大学関係者のメンツが潰れることもなく、丸く収まるのです。

そのため、今回、経団連が就活ルール廃止を決めたことで一番安堵したのは大学関係者でしょう。後述しますが、表向きは「早期化が懸念される」などもっともらしいことを話します。が、実際には、「どうせ時期は変えるべきだった。経団連が泥をかぶってくれたおかげで、大学のメンツは潰れずに済む」と安どする関係者が多いのです。

ポイント1 就活時期は早期化して学生が大変→8割ウソ

現状を追認するだけで言うほど早期化せず

さて、ここからは就活ルール廃止による影響とその見通しについて5点、まとめていきます。

なぜか、俗説も多いのでここは丁寧に検証していきましょう。

まずは就活・採用の時期について。

「早期化して学生が大変」とのコメントがなぜかマスコミでは多数を占めます。

が、これはウソ。

若干、早期化することは確かです。どれくらいか、と言えば、3年秋から冬にかけて広報開始→3年3月~4年4月ごろに選考開始、というスケジュール。

実はこれ、現在の2019年卒の実態とほぼ変わりません。リクナビ・マイナビなど大手ナビサイトのグランドオープンは広報解禁日の3年3月ですが、それより前からインターンシップサイトとしてオープンしています。

企業も企業でインターンシップを3年夏から秋・冬にかけて実施していきます。これが事実上の広報活動になっています。

こういう実態を知らないと、早期化批判・学業影響への懸念などが出ていきます。

が、実態のスケジュールを考えれば、私はそれほど早期化するわけではない、と見ています。

ポイント2 学生への学業にまた影響が出る→ウソ

内定を得る学生は実はよく勉強している

ポイント1の続き。

学業への影響ですが、早期化によって、就活の悪影響がなくなるのは理工系学部、教育系学部です。

それから文系ですが、3年夏のインターンシップが現状よりも盛んになればゼミ合宿などで影響があるでしょう。

ただ、現在の就活は勉強をちゃんとしている学生ほど希望企業に内定を得やすい、という実態があります。

これも、大学関係者はぼちぼち気づきつつあります。

ポイント3 通年採用が進む→ウソ

すでに通年採用化の実態をなぜか誰もツッコまない

通年採用は企業が採用したい時期に採用する、というものです。

新卒一括採用の否定論者はやたらと通年採用を持ち上げます。

が、今の企業は学生有利の売り手市場もあって、採用時期を大学受験と同じように分割するようになりました。コアとなるのは4年生5~6月ごろなのですが、それでも時期をいくつか分割する、というのは実質的には通年採用化しているといっていいでしょう。

それと、通年採用の対義語として新卒一括採用が使われています。が、現在の大半の企業は一括採用か通年採用か、そこは意識しません。結果的に採用したい時期が他の企業とほぼ同じとなる、というだけです。

それと通年採用を本気でやるとしたら、現状よりもさらに採用担当者を増員するなどしないと企業側は対応できません。それか、少ない人数でブラック企業ならぬブラック部署化していくか…。大半の企業はそれが無理とわかっているので、これ以上の通年採用化は進みそうにありません。

ポイント4 1年生採用が進む→ウソ

目立つだけで導入企業はユニクロ・ネスレ日本と一部ベンチャーくらい

通年採用と同じ文脈で1年生採用が注目されています。有名な企業だとファーストリテイリング、ネスレ日本など。

で、この1年生採用が就活ルール廃止でさらに進む、という見通しですが、これもウソ。

1年生採用は就活ルール廃止とは無関係に導入されています(ファーストリテイリングは2011年、ネスレ日本は2012年)。

その後、ベンチャー企業やIT業界の一部を除き、追随する企業はさていかほどでしょうか。決して主流を占める、というところまでは行っていません。理由は簡単で、企業からすれば1年生採用は労多くしてナントカ、という程度だからです。

もし、1年生採用が企業にとってメリットあり、ということであれば、多くの企業がすでに導入しているはず。寡聞にしてそうした企業が多数派になっている、とは聞いたことがありません。

ポイント5 就活ルールに縛られない外資系・IT・ベンチャーと採用が互角に→ウソ

採用力の有無の問題です

中西宏明・経団連会長や経団連企業からすれば、経団連未加盟の企業、具体的には外資系やIT業界、ベンチャー企業などが就活ルールに縛られない、ということに不満をお持ちのようです。

本日の記者会見でも

「経団連の会員企業は不満を持ちながら順守してきた」と、ルールに縛られない新興・外資系企業との人材獲得競争で後れを取ってきたことへのいら立ちを見せた。

(時事通信記事)

とあります。

こちらも、就活取材をしていれば、企業の魅力をどう伝えるか、学生をどう引き留めるか、という問題と就活時期に因果関係が薄いことは明らかです。

就活ルール廃止で、外資系・IT業界・ベンチャー企業と採用が互角になる、というのは、誤った認識、と言わざるを得ません。

ポイント6 優秀な学生しか採用されない→半分ホント

指定校など水面下に。ただ、企業に余裕はない

就活ルール廃止によって、優秀な学生しか採用されない、という観測もあります。こういう話をするのはなぜか就活塾など就活ベンチャー関係者が多いような。

さて、こちらは半分くらいは当たっています。

時期が自由になるので、「3年秋~冬に広報開始・4年4月(か3年3月)に選考開始」というところで収まるにしても、です。

収まるまでに、多少は混乱しますし、その間に、特定の大学の中でしかセミナーをしない、という企業も出てくるでしょう。

当然ながら、その大学はいわゆる難関校。その難関校の学生も全部が該当するわけではなく、ごく少数の学生しかセミナー開催情報を知りません。そのため、優秀な学生に内定が集中し、そうでない学生との就活格差が生まれる、というのはなくはないシナリオです。

ただ、現在の売り手市場を考えると、企業側にそこまで強気になれる余裕があるのか、疑問。

大学名・偏差値がどうこうよりは、早めに就活を意識する学生とそうでない学生との差が出るのは確実です。

まあ、これも現状ですでに言われている話。なので、就活ルール廃止でそこまで影響あるのか、というツッコミももちろんあります。

結論 現状の追認に終わるだけで、それほど意味はない?

中小企業はどうなる?

こうして6点、考えていくと、なんだか現状を追認するだけでそれほど大きな変化はなさそうです。

せいぜい、早期化がちょっと進むかどうか、というところ。だったら、無理に廃止しなくても、と思うのは私だけでしょうか。

まあ、経団連からすれば、ボランティアで就活ルールを決めて、何かあれば悪者扱い、というのが耐えられないのでしょう。

就活ルール廃止と言えば影響が出るのが中小企業の採用です。大企業の就活・採用が一段落してから始まるのが中小企業採用の黄金パターンです。これが時期がどうなるかで、混乱が生じるのは否定できません。

ただ、こちらも現状の実質的なスケジュールを踏まえていけば、そんなに採用時期を外すこともないでしょう。

今回の就活ルール廃止、色々言われてはいます。が、就活取材の長い私からすれば、大山鳴動鼠一匹、というのが一番しっくりきてしまうのです。

せっかく変えるのですから、鼠一匹ではなく、せめて三匹くらい捕まえるくらいの効果があればいいのですが。