泥沼化の日大劇場で受験者数は1万人減少も~大幅減か、微減か、過去データから検証

自主創造を掲げる日本大学、世論への「自主想像」は?(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

2トップの意固地さで騒動は長期化

誰がどう考えても原因は明らか。それを本人は意地でも認めない。

これが子どもの喧嘩であれば微笑ましいですし、町内会や銭湯などにいる頑固おやじであれば「しょうがねえなぁ、おやっさんには」とあきらめもつきます。それほど実害もありません。

ところが、頑固おやじ2人のせいで窮地に立たされている、それが今の日本大学ではないでしょうか。おっと。理事長と元・常務理事という要職のお二人を頑固おやじとまとめたのは失言でした。謹んでお詫びします。

5月29日にはとうとう、関東学生アメリカンフットボール連盟(以下、関東学連)によって内田・井上両氏が除名、森琢ヘッドコーチが資格はく奪、という想定以上に重い処分が出てしまいました。

内田・井上両氏の言い分は「虚偽」「指導者失格」など、これまでの言い分を全否定されています。

関東学連の裁定に対して、日本大学は裁判で言うところの上訴によって不服申し立てをすることは可能です。が、客観的な証拠を数多く突き付けられた以上、覆すことはできないでしょう。

今後はアメフトについては裁定を受け入れ、経営幹部としての責任が議論されることになります。

もっとも、6月1日には、理事会開催とスポーツ庁へ大塚吉兵衛学長が赴きました。が、AERAdot6月2日配信記事(日大の大塚学長のお粗末会見にアメフト部選手らが「もう黙ってろ」転校先探す1、2年生続出〈週刊朝日〉)によると、大塚学長は大塚学長で関東学連裁定にご不満のご様子。

スポーツ庁への説明後、記者会見に応じた大塚学長は、「(文科省、スポーツ庁は)大学のことを理解しているのか」と不満げな表情。

そして、関東学生アメリカンフットボール連盟が宮川泰介選手の危険タックルについて「内田前監督、井上前コーチが指示した」と認定してことについて「意見がまったく違う」と不満を露わにした。

対応が後手後手の割に、次から次へと新キャラ登場で日大劇場は収まる気配がありません。ここまで騒動となり、日大のイメージは悪くなってしまいました。では、このネガティブな状況下、日本大学の受験者動向はどのような影響が考えられるでしょうか。

一般受験生には軽微、という説も

6月3日の時点で一般受験生への影響はほぼない、としたのが5月25日配信のダイヤモンドオンライン記事「日大アメフト問題の真相究明は必須。だが、日大のブランドや志願者数は落ちないと予想する理由」

過去の大学不祥事の事例から影響は軽微、としています。

それから、デイリー新潮の2日7時配信記事(「タックル問題でイメージ最悪の日大、それでも来年の志願者数は減らない理由」)でも影響は軽微としています。

同記事でコメントをしているのが、進学情報会社・大学通信の安田賢治常務。安田常務は大学受験の専門家です。

「一般の受験生にとって大学は年々狭き門になる一方なのですから、イメージを気にしている場合ではないのです。日大志願者も減るどころか、さらに増えるかもしれません。確かに少子化で、ピークの1992年には205万人いた18歳人口は、現在118万人と6割程度まで減っています。その一方、地方大学に学生を回すために東京の私立大学の合格者数は実質的に減り続けているのです。そのため大都市の大学は併願が増え、志願者数も倍率も上昇している状況なのです」(同・安田氏)

過去の事例がどうだったか、調べてみた

両記事とも、なるほど、と思えるところもあります。

特にデイリー新潮記事は大学受験の専門家である安田氏の解説なので信頼できます。

では、過去の大学不祥事と、その前後で志願者数・受験者数がどう変化したか、まとめてみました。

大きな話題となった事件として、1973年の春木事件/青山学院大学、1997年のラグビー部レイプ事件/帝京大学、1998年の剣道部リンチ事件/国士舘大学、2003年のスーパーフリー事件/早稲田大学、2005年のアメフト部レイプ事件/京都大学の5例・校をまとめました。

青山学院大学

1973年度(昭和48年度) 志願者数36667受験者数34782 競争率5.3

1973年3月 春木事件

1974年度(昭和49年度) 志願者数38581 受験者数35696 競争率5.5

1975年度(昭和50年度)志願者数43572 受験者数―(未集計)競争率6.6

2017年度 募集2962 志願者数60966受験者数56285競争率7.0

帝京大学

1997年度 募集2716志願者数32711受験者数30503競争率5.6

1997年11月 ラグビー部レイプ事件

1998年度 募集2716志願者数29261受験者数27044競争率5.2

1999年度 募集2716志願者数22764受験者数21051競争率4.2

2000年度 募集2893志願者数15854受験者数14601競争率2.8

2017年度 募集3340志願者数29739受験者数28002競争率3.6

国士館大学

1998年度 募集1768志願者数23775受験者数22908競争率4.2

1998年10月 剣道部事件

1999年度 募集1708志願者数18077受験者数17432競争率3.5

2000年度 募集1248志願者数11995受験者数11520競争率2.5

2017年度 募集1365志願者数21913受験者数21396競争率4.1

早稲田大学

2003年度 募集人員6345志願者数121815受験者数110289競争率6.2

2003年5月 スーパーフリー事件

2004年度 募集人員5960 志願者数113553受験者数101476競争率5.5

2005年度 募集人員5830 志願者数107995受験者数99526競争率5.6

2017年度 募集5550 志願者数114983受験者数― 競争率7.2

京都大学

2005年度 募集2829志願者数12282受験者数9453競争率4.2

2005年12月 アメフト部レイプ事件

2006年度 募集2829志願者数12246受験者数9455 競争率4.2

2007年度 募集2839志願者数7548受験者数7177競争率2.6

2017年度 募集2648志願者数8362受験者数7596競争率3.0

出典:旺文社『蛍雪時代臨時増刊号 全国大学内容案内号』の各年度版

競争率は原則として「受験者数÷合格者数」

募集人員・志願者数・受験者数は一般入試・センター利用試験入試の合計者数

減少した帝京・国士館・早稲田、減少しなかった青学・京都

5校のうち、減少したのは帝京・国士館・早稲田の3校。減少しなかったのは青山学院、京都の2校です。

青山学院大については、1970年代の大学進学率が影響しています。1973年には32.7%だった大学進学率(短大含む)が1974年には35.2%に上昇。それだけ大学受験の競争が今より激しかった時代です。

そのため、事件の影響よりも、進学熱の高さが受験動向に強く影響した、と言えるのではないでしょうか。

他の4校についてみていくと、私は日本大学の受験生動向は大きく影響するのではないか、と考えるようになりました。

ポイント1:一サークル・一個人の問題では片づけられない

ダイヤモンドオンライン記事が事例として挙げたのはいずれもサークルや個人が起こした事件です。

いずれもあってはいけなかった事件ですが、一般受験生からすれば「一サークル、一個人がやったことであり、自分にはそれほど関係ない」、と考える事件だったとも言えます。

その点、日大のアメフト騒動については大学のトップクラスが関与している騒動、という点で決定的に異なります。前代未聞の騒動と言ってもいいでしょう。

大学トップ級の幹部が反則を指示するなどパワハラに関与した事件は過去に例がありません。もはや、アメフト部だけでなく日大全体の体質が問われるまでに発展しています。

ポイント2:スポーツ系の高校生も敬遠、推薦・AO入試でマイナス

スポーツ系の高校生はアメフトでもアメフト以外でも、上意下達の体質を嫌うはず。

そもそも、どんなに有力選手でも監督・コーチに嫌われると、理不尽なパワハラをされ、挙げ句には反則行為を強要。選手生命が絶たれる、というサンプルがこの騒動でできてしまいました。これの後を追おう、という高校生はそう多くないでしょう。

同じことは親も考えるでしょうし、高校スポーツの指導者・教員も同様でしょう。

精神的に追い込む、という手法は30年前、40年前ならまだしも、現代では単なるパワハラです。まして、スポーツはトレーニングから試合まで科学的に分析する手法が主流になりつつあります。指導方法も同じで、駅伝だと青山学院大学の原監督のようなキャラクターが好まれるようになっています。

このスポーツ系の高校生はスポーツ成績を元にした推薦入試、AO入試を利用します。

AO入試はざっくり言えば、推薦入試の変化球、とお考え下さい。

この推薦入試・AO入試は秋から始まります。しかし、実質的には7月以降のオープンキャンパスなどに参加することが求められます。つまり、一般入試の2月よりもはるかに早い7月が実質的なスタート。当然ながらまだアメフト騒動の余波がある(またはまだ続いている)時期です。

ポイント3:SNSの影響力が以前よりも強い

日本がネット社会に突入したのは1990年代後半から。

その後、多くの大学で様々な不祥事・騒動がありました。

mixiやTwitter、Facebookなどで拡散され大きな騒動となった騒動は多数あります。

しかし、2018年現在の方が1990年代後半ないし2000年代前半よりもSNSの影響力は格段に高いと言えます。

実際、この日大アメフト部騒動も、SNSがなければそもそもここまで長期化・泥沼化はしなかったはずです。

ポイント4:難易度・偏差値

早稲田大学・京都大学はどちらも難関校です。仮に受験を取りやめて、同じ難易度の大学を探すとなるとどうでしょうか。

早稲田大学だと、首都圏では慶應義塾大学、上智大学、国際基督教大学の3校。うち、国際基督教大学は2000年代まで一般入試も国立大学2次試験に近い形態で私大3教科入試とはやや異なるユニークなものでした(現在はセンター利用入試もあり)。そのため、実質的には慶應義塾・上智の2校です。

京都大学は関西圏では大阪大学1校のみ。

つまり同じ難易度の大学は早稲田・京都とも多くありません。

一方、事件後に志願者数を落とした帝京・国士館の2校は偏差値から言えば中堅校。そのため、早稲田・京都の2校よりも同じ難易度の大学を代替候補として探すと多数あります。

日本大学の場合、帝京・国士館より偏差値は上ですが、受験業界の位置づけは中堅校です。そして、同じ難易度の大学を代替候補として探す場合、駒澤、専修、東洋、武蔵、獨協、明治学院、國學院、神奈川、東京電機、東京都市、工学院、千葉工業…などなど多数あります。

ポイント5:好材料の有無

2004年の早稲田大学の場合、志願者数は約1万人減少しています。

それだけスーパーフリー事件の影響があったと言えるのですが、実は1万人の減少で済んだ、とも言えます。

この年、早稲田大学には国際教養学部・政治経済学部国際政治経済学科の新設、という受験生増加の好材料がありました。

一方、日大の場合、来年度については、芸術学部が1年次・所沢キャンパス、2~4年次・江古田キャンパスという分離キャンパスから4年間を江古田キャンパスに一本化、という変化があるくらい。学部・学科の新設はなく、志願者数が増える好材料は今のところありません。

受験へのネガティブな影響を食い止めたいが

私は上記5点を考えると、2004年度の早稲田大学と同じ1万人近く、もしくはそれ以上の減少がある、と見ています。

もちろん、日大のアメフト部騒動がどのような決着をみるか、これによっても大きく変わってきます。

日大が自ら事態の収拾を図れればいいのですが、問題は事態の収束を図ろうとする経営幹部自身にあります。

今のところ、大塚吉兵衛学長が先頭に立って事態の収束にあたろうとしています。

しかし、6月1日の理事会、スポーツ庁報告後の記者会見では、田中理事長を守ろうとしているのか、曖昧な回答に終始していました。

それどころか、関東学連の裁定やスポーツ庁について不満を漏らすなど、大学業界の常識では考えられない対応すらしています。

第三者委員会を立ち上げたものの、弁護士7人でアメフト関係者は一切入れない、理解しがたい構成に。調査期間も長く7月下旬に結論を出すのは、現在のアメフト部再建を邪魔しようとしているとしか思えません。

事態の収束を図ろうとしている大学経営幹部が実は事態を収束させていない、いわゆる日大劇場の幕を上げ続けています。

この現状が続く限り、日大の受験者動向はネガティブな影響が出てしまう、と言わざるを得ません。