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Fランク寸前大学が全国5位大学に成長した理由~共愛学園前橋国際大学・学長インタビュー

石渡嶺司大学ジャーナリスト
共愛学園前橋国際大学・ラーニングコモンズで相談する学生(著者撮影)

知名度が低くても全国5位、4大事業に全選出のすごい大学

大学の学長が評価する大学と言えば、有名校が上位に来る。そうお考えの方が多いはず。

実際、『大学ランキング』(朝日新聞出版)の2018年版の「学長からの評価~教育面で注目」ランキングでは2位に国際教養大学、3位国際基督教大学、4位東京工業大学、と有名どころが並びます。1位の金沢工業大学は知名度こそ2~4位の3校より落ちますが、それでも鳥人間コンテスト・NHKロボットコンテストなどの常連校でもあり、知っている人は多いはず。

では、5位の共愛学園前橋国際大学は、と言えば上位4校ほどの知名度がありません。

もっと言えば、6位・立教大学、7位・立命館アジア太平洋大学、8位・近畿大学などに比べても知名度はないでしょう。

 無理もありません。全学生合わせても1000人ちょっとの小規模校です。

共愛学園前橋国際大学の図書館。小規模校ゆえ小さいがいつも利用学生でにぎわう。(著者撮影)
共愛学園前橋国際大学の図書館。小規模校ゆえ小さいがいつも利用学生でにぎわう。(著者撮影)

 この小規模校は学長ランキングで全国5位になっているだけではありません。

 スーパーグローバル大学等事業(GGJ)、地(知)の拠点整備事業(COC)、大学教育再生加速プロジェクト(AP)、地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)という文部科学省の大学支援施策4本すべてに採択されています。

有名校から無名校までどれかに選定されている大学は延べで205校あります。このうち、4本すべてに採択されているのは共愛学園前橋国際大学以外には千葉大学しかありません。

ここまで評価される共愛学園前橋国際大学は現在では地元の群馬県・高校教員から強く支持される大学です。

ですが、同校は1999年に開学、その後、数年間は低迷。Fランク寸前とまで言われるほど追い込まれていた大学でした。

2年目に定員割れで「共愛には行くな」

共愛学園前橋国際大学は1999年に開学しました。

前身の共愛学園女子短期大学国際教養科からの改組転換で、国際社会学部のみの単科大学です。国内初の国際社会学部、という触れ込みで開学し、初年度こそ入学定員を上回りましたが、2年目から定員割れとなります。

2000年代の進路指導について、群馬県のある高校教員はこう述懐します。

「国際社会学部と言われても何ができるかよくわからないし、小規模。偏差値もボーダーフリーでないにしても限りなく近い。ちょっと生徒には薦められない、と思っていた。今でいうところのFランク大学、いや、一応、偏差値が付いていたから、Fランク寸前大学か」

背景が似ている大学は卒業生を出さずに廃校

 ここまで評価が低かった大学は、廃校になってもおかしくありません。

 開学時期が共愛学園前橋国際大学と1年違いの2000年に開学した広島安芸女子大学は開学時期以外にも類似点が多数ありました。

前身は女子短大、開学ないし開学2年目から定員割れ(広島安芸女子大学は定員195人に対して入学者は1年目32人、2年目38人)、地方かつ単科大学というところも同じです。

この広島安芸女子大学は開学3年目に共学化、立志舘大学と改称します。これで開学3年目の入学者は107人と上向きますが、それでも定員割れ。教職員のリストラ、理事長の横領疑惑などで迷走し、2003年、卒業生を出さないまま廃校が決まりました。

 共愛学園前橋国際大学も広島安芸女子大学/立志舘大学と同じコースをたどっていてもおかしくはありません。

大森昭生学長は、1999年の開学時、国際社会学科の専任講師でした。

説明会で話す大森学長(著者撮影)
説明会で話す大森学長(著者撮影)

「日本初の国際社会学部として自信がありました。ところが全国どころか群馬からも来てくれません。進学相談会のブースで通り過ぎて行った高校生を呼び止めて聞くと、『英語が勉強したい』。それならうちでしょ、と言うと『共愛って国際ナントカですよね』と言われました。あのときのショックは忘れられません」

では、共愛学園前橋国際大学は、なぜ、Fランク寸前・定員割れから復活することができたのでしょうか。そこには、逆転の秘策があったのです。

逆転の秘策1~学部名を変えずにコース制で対応

ダメ私大:看板の付け替えでさらに泥沼化

共愛前橋:コース制で分かりやすく

ダメな大学ほど、大学名・学部名の変更で対応しようとします。

大学名は女子大や工学系大学が総合大学化を目指す場合、有効なケースもあります。

実際、過去には文京学院大学(←文京女子大学)、武蔵野大学(←武蔵野女子大学)などの成功例もあります。

学部名も同様に、受験生を増やすことに成功した大学もあります。が、大半は低迷したままです。

教育内容や教員が大きく変わらないまま看板の付け替えでしかないこと、それから、さらに意味不明な学部名にしてしまう大学が多い、この2点により失敗する大学が大半なのです。

その点、共愛学園前橋国際大学はどうしたでしょうか。

この長い大学名も、不評だった学部名・学科名(国際社会学科)も変更しませんでした。

では、どうしたか。

コース制を2002年度から導入したのです。

英語、情報・経営、心理・人間文化(当時は地域・人間文化)、国際(当時は国際協力・環境)の4コース。のちに児童教育コースも設置し現在に至っています。

各コースとも実質的には学科も同然であり、しかも受験生にとっては何が勉強できるのか、目指す進路はどこにあるのかがはっきりします。

「いくら国際社会学部という看板に自信を持っていても、高校生は理解してくれません。そこでコース制を導入し、何を勉強できる大学なのか、明確にする必要がありました」(大森学長)

語学学習スペースで英語を勉強中の学生。(著者撮影)
語学学習スペースで英語を勉強中の学生。(著者撮影)

逆転の秘策2~実用英検2級で学費を「値引き」

ダメ私大:学費を極端に上げる(下げる)

共愛前橋:資格取得者を優遇

コース制と合わせて2002年度から導入されたのが資格取得者に対する優遇制度、資格特待生制度です。

推薦・一般入試合格者のうち、実用英語検定2級、情報処理技術者試験、日商簿記2級の取得者に対して授業料全額を免除。

これは年度毎に学業成績に関する審査を行うことになってはいたが、基本的に特待生期間は4年間の継続として運用された。

※『大学マネジメント』2014年5月号「共愛学園前橋国際大学の学生募集戦略」(著者は須田洋一・共愛学園理事長)

この資格特待生制度の効果は大きなものがありました。優秀な学生が志望するようになったからです。

コース制度の導入と相まって、出願者・入学者とも2002年度は大きく回復。2004年度には入学定員を減らした(250人→200人)こともありますが、定員割れから脱却。以降、現在まで定員割れには陥っていません。

この実用英検2級で学費を実質無料とする方策はカンフル剤として有効であり、実際に、神戸海星女子学院大学(兵庫県)、梅光学院大学(山口県)、北陸大学(石川県)などが同様の方策を導入、成果が出ています。

一方、このカンフル剤について、

「資金がある大学だからこそできた話。うちの大学は資金がないから無理」

とする大学関係者も多数います。

この点について、大森学長はこう振り返ります。

「本学園は無借金経営を旨としてきており、この資格特待生制度のために借金をしたわけでも、留保資金が潤沢だったわけでもありません」

つまり、現在の定員割れ大学の多くと同じ状況にあったと言えるでしょう。

「資格特待生制度を導入できたのは、定員割れをしていたからこそ、考え方を逆転させたからだと思います。特待生が入学しなければ支出はゼロですが、収入もゼロです。しかし、特待生が入学すると学費は免除ですが、入学金・施設設備費はいただいていましたから収入はプラスになります」

大森学長はビジネスホテルになぞらえて、こうも話してくれました。

「ホテルの部屋は深夜になると半額になったりしますよね?何もしないで空き部屋になるよりは、半額でもいいから入れた方が収入になるはず。それと同じです」

この資格特待生制度、実用英検2級で学費無料とするなんて、との批判も結構あります。この批判、心なしか、難関大関係者・出身者に多い気がします。

確かに、実用英検2級は高校卒業程度のレベルです。

しかし、それを満たす高校生の割合はそう多くありません。

2016年、文部科学省の「平成27年度英語力調査」(調査は2015年)によると、準2級~2級程度以上の学力をもつ高校3年生の割合は「読むこと:32.0%」「聞くこと:26.5%」「書くこと:17.9%」「話すこと:11.0%」と、目標値の50%には達していません。

難関大出身者・関係者からすれば取得していて当たり前の実用英検2級でも平均的には、かなり高いレベル、と言えます。

そうした、優秀な高校生を学生として迎え入れるのは、有効な方策と言えます。

ただし、資格なら何でもよかったわけではない、と大森学長は振り返ります。

講義で活発に議論する学生。(著者撮影)
講義で活発に議論する学生。(著者撮影)

「一時、漢字検定についても資格特待生制度に加えることを検討しました。しかし、本学のカリキュラムで伸ばしてあげられるか、学内で議論となり、結局、見送りとなりました。単に学費が安いから、というだけでなく、優秀な学生をさらに伸ばしてあげることによって、『力が付いた』と思ってもらえるかどうか。教員採用試験なり金融業界なり航空業界なり、希望の進路につなげることができなければ、無意味です。資格特待生制度も効果を生みませんし、ブランド構築もできません」(大森学長)

なお、この資格特待生制度は導入後10年たった2012年度から、適用年度を4年間から1年間のみ、となりました。

逆転の秘策3~推薦入試における評定平均の維持

ダメ私大:評定平均を引き下げ、悪循環に

共愛前橋:一時の不興を買っても引き下げない

受験生が集まらなければ、入試を易化する、これが大学業界の鉄則となっています。

一般入試だと、国語であれば漢文を外し、次に古文を外していきます。科目選択も、文系であれば英語・国語・選択科目の3科目から2科目、あるいは1科目、または、得意科目の得点を優遇する入試制度を導入していきます。

そして、推薦入試では、高校の成績の評定平均を下げていきます。しまいには、評定平均は一切問わない、とする推薦入試を導入する大学も。

この推薦入試の評定平均引き下げは高校側も求めるところです。特に中堅以下の高校からすれば、大学進学者を増やしたいとの意向がある一方、評定平均の低い生徒をどうにかしたい、とも考えます。推薦入試の評定平均引き下げは高校側のニーズに合っているとも言えます。

ただし、当然ですが、こうした入試の易化は、それだけ学生の質の低下を意味します。

あえて易化させ、質の低い学生でも徹底してフォローすることによって、成長させる、という戦略もなくはありません。

しかし、ダメな定員割れ私大ほど、確たる戦略がある訳ではありません。対症療法的に入試を易化する一方でフォロー策はほぼなし。その結果、大学教職員はフォローで教育そのものが後手に回り、結果として教育の質そのものも低下してしまいます。

教育の質が低下すれば、受験生はさらに減少。それを見た大学経営陣がさらに入試を易化…、と悪循環が止まりません。

その点、共愛学園前橋国際大学は思い切った手に出ました。推薦入試での評定平均を下げなかったのです。

「評定平均の引き下げを期待していた高校教員の方から相当怒られました。『何を考えているんだ』くらい、言われたことも一度や二度ではありません」

「定員割れだった時期には、まだ自分たちの教育力はさほど高くないことを自覚していました。ただ、誰でも引き受けてしまうと適当に単位を出すことにもつながります。それだと社会から信頼されなくなり、誰も受験してくれなくなります。それなら、自分たちが教育できる人たちに来てもらおう、と学内で話し合いました。」

結果として、推薦入試の評定平均は引き下げることなく、現在に至っています。

この評定平均の維持、言うだけなら簡単です。が、実際には高校側からの圧力などもあり、引き下げる大学が大半を占めます。

そうした大学が多い中、教育の質を維持するという目的から評定平均を引き下げなかったことは称賛に値します。

逆転の秘策4~教職員の団結は給与抑制策まで

ダメ私大:学内がまとまらずに内紛にまで発展

共愛前橋:団結し、給与抑制策までまとめる

各大学とも、現状を良しとせず、前進させようとする教職員は必ずいます。大学によっては学長や理事長など経営陣が大学改革を強く考えていることもあります。

それがうまく行かないのは、大学の規模に関係なく、学内がまとまらないからです。

大学によっては一部の教職員(または学長など経営陣)と、反発する教職員・経営陣との間で内紛状態にすらなることもあります。

その点、共愛学園前橋国際大学は違いました。

教職員は全員が経営者、との意識のもとで動いています。

これも言うだけなら簡単ですし、似たようなスローガンを掲げるところもあります。

共愛学園前橋国際大学は教職員全員が参加するスタッフ会議によって、教職員一人ひとりが経営に参画します。

第一回は開学直前の1998年度末に開催され、そのときの議題は「学生センターの机のレイアウト」でした。

「なぜ、レイアウトまで付き合わなければならないのか、とする先生もいましたが、学生が訪問する大学の中枢たる学生センターをどうするかは重要事項です。あえてこの議題にすることで教職一体をイメージしやすい、ある意味では『しかけ』でもありました」(大森学長)

開学後3年間は毎月。以降は定例としては年2回、スタッフ会議を開催。重要事項を話し合っているそうです。

このスタッフ会議によって決定した事項の一つが人件費抑制規程です。

「定員割れだった時期に決まりました。評定平均の維持が評価されず入学者がさらに減るようであれば、その分だけ収入も減ります。その分は自腹を切ろう、というのが人件費抑制規程で帰属収入の55%を人件費が超えるようであれば一律給与をカットする、というものです」(大森学長)

ただし、この規程は適用されることなく現在に至っています。

逆転の秘策5~学内が必要と思える人材を登用

ダメ私大:無理な人事策で内紛も

共愛前橋:若手ベテラン関係なく登用

必要な人材を登用する。

これも言うだけなら簡単です。

が、実際には、内閣の閣僚、政党要職などを見てもそう簡単なものではありません。

実際に、最近では民進党の山尾議員の幹事長登用が失敗に終わり、イメージを大きく引き下げてしまいました。

大学においても同様です。過去には、無理に評論家やスポーツ指導者などを要職に起用し、大きくもめた大学もあります。

その点、共愛学園前橋国際大学は若手起用が中心です。

現在の大森学長は2003年、学部長となります。候補となった時点では34歳、ポストは教授ではなく、専任講師でした。

学部長就任と同時に助教授(現・准教授)に昇格しますが、それでも准教授を学部長とするのは異例のことです。

なお、現在の学部長は村山賢哉准教授ですが、やはり、大森学長と同じく30代で選出されています。

村山学部長。事情を知らない人は若さに驚く。(著者撮影)
村山学部長。事情を知らない人は若さに驚く。(著者撮影)

大森学長の就任時は48歳。学長としては相当、若いと言えるでしょう。ただ、これは若ければいい、というわけではない、と大森学長は話します。

「前々学長は当時の理事長でしたが、年配でした。大学の理念を熱心に説いてくれる方で、学内みんなが必要と感じたからこそ就任をお願いしました。私についても学長候補者選考委員会は相当悩んだようです。私自身も、私よりはきちんと学内を治める人の方がいい、と感じていました」

なお、学長候補者選考委員会は、委員の半数以上が教職員から選ばれます。この委員会の候補者決定に対して教職員全員の信任投票があり、理事会に上程されて最終的に任命するのは理事長です。

「教職員が人選をする、ということは自分たちの大学の現状や課題を分析し、それに対応する人選をする、ということです。実際、私が候補となったときは学長を補佐する体制をきちんと組むことが付帯条件となりました。このような選出方法ですと、学内に学長を選んだ責任感が醸成されます。同時に、学長は学内に力強い応援団を持つことも意味します」(大森学長)

受験生が増加、群馬のトップ私大に

共愛学園前橋国際大学の努力は徐々に評価されていきます。

当初は「共愛は受けるな」との姿勢だった、地元・群馬の教員も変化していきました。

「共愛でもいい」に変わり、「共愛はいい」に、そして、「共愛を受けろ」にまで変わりました。

現在では、地元の国公立大学(群馬大学、群馬県立女子大学、高崎経済大学)との併願が約3割を占めます。

共愛学園前橋国際大学の志願者変遷データ(大学提供)
共愛学園前橋国際大学の志願者変遷データ(大学提供)

※定員は2018年から255人に増員予定。

現在の状況を地元の高校教員はこう評します。

「現在は、大学の教育が信頼できる。生徒には、『国公立と合わせて受けなさい』と指導している。ただまあ、難易度が上がった分だけ、落ちる確率も高くなった。現状では落ちた場合のフォローの方が大変だ」

偏差値も上がり、文科4冠王かつ学長評価で全国5位

共愛学園前橋国際大学のモットーは、「学生中心主義」「地域との共生」「ちょっと大変だけど実力がつく大学」です。

その評価は地元・群馬県内にとどまりません。

冒頭でもご紹介した通り、『大学ランキング』(朝日新聞出版)の2018年版の「学長からの評価~教育面で注目」ランキングでは全国5位。

そして、スーパーグローバル大学等事業(GGJ)、地(知)の拠点整備事業(COC)、大学教育再生加速プロジェクト(AP)、地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)という文部科学省の大学支援施策4本すべてに採択されています。

偏差値も、表のようにFランク寸前だった状態から10ポイント以上、上がっています。

進研模試の偏差値データ(大学提供)
進研模試の偏差値データ(大学提供)

※共愛学園前橋国際大学が把握しているデータで2000年、2004年は不明

グローバルでも、地域が重要

グローバル関連の事業の採択を受けると、大半の大学では、海外大学との連携に動きます。

共愛学園前橋国際大学は地元・群馬の企業であるサンデン、あるいは伊勢崎市、群馬県などとの連携に動きました。

サンデンは車のエアコン・コンプレッサーで世界トップシェアを誇る企業です。

「本学の学生は平均すれば80~90%が地元・群馬県出身。そして、70~80%が群馬県内に就職していきます。世界を飛び回るビジネスマンとか、最先端の研究者育成という意味ではグローバルではないかもしれません。しかし、群馬県内にはサンデンのようにグローバル企業が多数あります。働く場所は群馬県内だったとしても、グローバルを意識しなければなりません。小中高の教員はどうか、と言えば群馬県は外国人労働者の多い県です。子弟も外国人が多く、やはりグローバルを意識する必要があります。これは自治体職員も同様でしょう。民間企業であれ、教員・公務員であれ、地元に就職するにしても、グローバル人材が必要です。むしろ、地方都市にこそ、グローバル人材が必要でしょう」(大森学長)

共愛学園前橋国際大学のキャンパス風景。(著者撮影)
共愛学園前橋国際大学のキャンパス風景。(著者撮影)

地域(ローカル)に根付くグローバル人材をグローカル人材とも呼びます。

共愛学園前橋国際大学は、このグローカル人材を育成する大学であり、その点で高く評価を受けています。

「文部科学省にはグローバル人材育成推進事業を説明する際、『本学は羽ばたかないグローバル人材を育成します』と言いました」(大森学長)

地元だけか、地元以外もか、がジレンマ

それでは、共愛学園前橋国際大学は群馬県内だけの大学か。

実はこの点が現在の同大のジレンマです。

群馬県内の公立高校からの評価は高いですし、結果として群馬県内出身者が入学者の80~90%を占めています。

「定員割れ状態でないにしても、本学のような小規模校では、入試広報に割けるリソースは限られています。それもあって、群馬県外での学外会場入試や高校訪問などは縮小しています」(大森学長)

ただし、それでは群馬県外の出身者が居心地悪い大学か、と言えばそうではありません。

「東北、新潟、長野には数は少ないですが、高校訪問はさせていただいています。地方会場受験も大規模校に比べると数は少ないのですが、本学にとっての割合は大きいので、完全にやめる、というところまでは行っていません」(大森学長)

ジレンマもあるが、やりがいもある、と大森学長は話します。

「拠点大学として選任していただいたCOC+だと、地方創生が事業の目的ですから、地元に就職させることが課題です。ですから、地元前橋市と一体となり、地元企業と協働しての実践的な人材育成プログラムや4か月間にわたる市役所や企業でのインターンシップなどを展開し、地域人材を育成しています。しかし、学生一人一人の未来は地方創生のためにあるのではなくて、彼ら彼女ら一人一人のためにあります。夢をもって東京に働きに行きたい。例えば航空業界に行きたいとか、旅行業界に行きたいとか。そういう学生は地方創生に逆行するから応援しないということはありえないことです。そういった学生たちの夢もしっかりと応援していくことが本学の使命です。若者の未来は若者のものであって、大人の事情のものではないということもぶれてはいけません。ジレンマでもあり、難しいところですが、それを両立させていくことこそが大人の成すことです」

新たな教育プログラム実施に高校も期待大

共愛学園前橋国際大学は2017年8月、「KYOAI GLOCAL HONORS」という新しい教育プログラムについての説明会を実施しました。

入試はセンター試験で数学を含む4科目に口頭試問を含む面接。1年次に海外研修があり(費用は大学負担)、2年次後半からはビジネス力育成プログラム(タイでの海外研修を実施予定)か公務員養成プログラムを選択。通常講義の他、プログラムに参加学生のための特別ゼミなども用意されています。

担当するのは、村山学部長(准教授)と西舘崇・専任講師。西舘講師は外務省研究調査員、日本国際フォーラム主任研究員を経て2016年から現職。

説明会で自身の失敗談を話す西舘講師。話の展開の意外さに参加教員も聞き入る。(著者撮影)
説明会で自身の失敗談を話す西舘講師。話の展開の意外さに参加教員も聞き入る。(著者撮影)

「めざす人材像は、共愛・共生の精神を持った次世代のグローカルリーダーです。それも世界の視点から地域を見ることができる人材です」(大森学長)

説明会では、お盆時期にもかかわらず、群馬県内外の高校、それもトップクラス校の関係者を含めて約20人が参加。終了後には質問が飛び交うなど、注目の高さがうかがえました。

「ちょっと大変だけど、実力のつく大学です」

定員割れの状態から文科4冠・全国5位にまで躍進した現状を大森学長は次のように振り返ります。

「教職一体のガバナンス体制が良かったのではないでしょうか。伝統的な大学の在り方を根底から変えようとする動きですから、様々な議論が生じましたが、定員割れの現状を鑑みれば先に進むしかなかったのかなと思います。資格特待生制度というカンフル剤、長期的な持続可能性を担保する文化づくり、そこから生まれる教学改革の三位一体によって、定員回復へのシナリオが描けたのではないでしょうか」

私が同大を見学したとき、講義・ゼミでも講義外でも熱心に勉強し、あるいは議論する学生が小さなキャンパスにあふれていました。かつて定員割れ状態にあった大学とは信じられないほどの活況ぶりです。

就職支援センターで相談する学生。同大に対して地元企業・金融機関からの評価は高い。(著者撮影)
就職支援センターで相談する学生。同大に対して地元企業・金融機関からの評価は高い。(著者撮影)

「本学はモットー通り、勉強が大変です。ちょっと大変ですが、その分だけ実力がつく大学です」(大森学長)

(石渡嶺司)

本文の訂正

2017年9月11日・7時33分

「受験生が増加、群馬のトップ私大に」の中で「高道祖大学」とあるのは「高崎経済大学」の誤りでしたので訂正します。

本文の訂正

2017年9月14日・9時49分

Yahoo!ニュース 個人編集部より、写真・図表の出典等についての指摘を受けましたので、一部変更・修正しました。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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