キムタク・タモリ「夢」論争からキャリア教育を再び考える

「夢」論争のまとめから

5月22日に、「ドローン少年事件から、既存のキャリア教育が危ういと感じた件」という記事を書きました。

ちょうど、ドローン少年が注目されていたこともあり、240RTを超えるほど、お読みいただきました。

他のYahoo!個人の書き手(すごい方ばかりです)の中では、細々と書いているもので、驚きました。

記事のご感想としては、

肯定論(同感、教養はいらないというわけにはいかない、良い指摘)、

否定論(こじつけ、高校取材が足りなすぎ、理念の勉強不足、教養があってもダメな人もいるし)

など、さまざま。

コメントいただいた方に感謝します。

実は、高校生の進路に関連した本を依頼されて(ついでに言えばさっくり締め切りやぶりまくり)、夢とか職業選択とか、どうまとめたものかな、と色々と考えていまして。

という最中に、ドローン少年事件が起きたわけですが、この関連で、キムタク・草なぎ・タモリ「夢」論争が起きたとのこと。

※タイトルならびに記事中、草なぎさんの表記が、一部ひらがなとなることをお詫びします

まず、5月10日放送、フジテレビ系列の「ヨルタモリ」で「夢」が話題になりました。MCがタモリさんで、ゲストは草なぎ 剛さん。

以下が大筋です。

タモリ「向上心がある人は、今日が明日のためにある人。向上心がない人は、今日が今日のためにある人。向上心=邪念ってことだよね」

タモリ「夢があるようじゃ人間終わりだね」

草なぎ「夢ってなんなのとは思う。夢に向かって頑張ってるなら、夢がかなっちゃったらどうするのって話」

タモリ「夢が達成されるまでの期間は、まったく意味のないつまらない世界になる。それが向上心のある人の、悲劇的な生き方なの」

このやり取りを見る限りでは、2人とも、夢を持つことに否定的なコメントをしています。

これを受けて、2015年5月22日放送のTOKYO FM系番組『What’s海賊団 木村拓哉のWhat’s UP SMAP!』では、リスナーから夢に関連した質問が寄せられます。

この質問に対して、パーソナリティを勤める木村拓哉は「夢はあった方がいい」と反論します。

以下、番組のブログからの引用です。

兵庫県 ぼんさん 16歳 女性

キャプテンこんばんは!!

高校生の「ぼん」です。

先日、「ヨルタモリ」という番組で草なぎさんが出演していました。

そこで草なぎさんは「夢をみるのはよくない、夢が叶ったあとはどうなるのか」という話をしていました。私も同感でした。

私はカウンセラーになる夢は持っていますが、それは学校などが将来の夢を持たせるので仕方なく選んだ答えです。

私自身では就職さえできれば仕事は何でもいいと思います。

キャプテンはどう思いますか?

やっぱり夢って必要ですか?

「僕は必要だと思う。そして、「ヨルタモリ」に剛が出ていたのは、<ぼん>のメールで知った。『夢が叶った後、どうするの?』って思う?叶ったら最高にハッピーじゃないですか。何でそっちに頭がスイッチするんだろうと、僕は思うんですけどね。

目標とか夢っていうのは、人それぞれ距離感と大きさがあると思うんですけど、僕は持っていた方がいいと思うな。

僕は夢が一個じゃないし、『こんな人と一緒にお仕事してみたいな』と思って、本当に叶ったら、思いっきり全力でやりたいと思うし。

こういう事って、叶うんだったら次も持つべきだなと思うかな。

叶った時点で、それが『はい、さようなら』というものではないし、それってストックされるものじゃないですか。

ビックリしたんだけど、『私はカウンセラーになる夢は持っていますが、それは学校などが将来の夢を持たせるので仕方なく選んだ答え』っていうのが、やめとけ!って思いますね。

カウンセラーになった場合、良いカウンセリング出来ないと思うんだ。

これは<ぼん>が、本当になりたいものになってもらわないと、良い<ぼん>になれないと思うんだ。就職さえ出来れば、仕事は何でも良いという<ぼん>は、もったいないと思う、マジで!

自分の事をキャプテンと呼んでくれるのであれば、学校などに持たされたカウンセラーという夢以外の夢を、ちゃんと見付けて、俺に報告してほしいな。お願いします!待ってます!」

番組ブログからは消えていますが、リスナーのカウンセラー志望に対して、

カウンセラーになった場合、良いカウンセリングできないと思うんだ。このままの状態では。「学校に、持たせられた目標なんで。仕事としてはカウンセラーやってますけど…何をご相談したいんですか?」って、絶対に相談したくないカウンセラーだよね(笑)

というコメントもあったようです。

そもそも、夢は学校が持たせるもの?

「夢」に否定的なタモリさん・草なぎさんと、肯定的な木村さん。

タモリさん・草なぎさんのお二人が、中高生、大学生に対して「夢」とどう接するのか、これは分かりません。

「ヨルタモリ」という番組からしても、中高生向けのコメントとは思えませんし。

一方、木村さんのラジオ番組は高校生リスナーの質問に対して答えている形になっています。

ここで注目したいのは、リスナーの質問部分。

私はカウンセラーになる夢は持っていますが、それは学校などが将来の夢を持たせるので仕方なく選んだ答えです。

私自身では就職さえできれば仕事は何でもいいと思います。

「学校などが将来の夢を持たせるので」というくだり、これはおそらくキャリア教育によるものでしょう。

その高校がひどい高校、というわけではなく、進路指導の点からも、とりあえず目標を決めさせる、進路未定のままにはしておかない、これが主流になっています。

この手法だと、進路指導がしやすくなります。

たとえば、リスナーだと、カウンセラー志望で兵庫県なら、兵庫教育大に学校心理コースがある、関西だと奈良女子大は文学部人間科学科心理学コースと生活環境科学部心身健康学科があって後者は臨床心理中心、大阪市立大生活科学部人間福祉学科心理臨床コースも臨床心理中心で、などなど、と指導できます。

偏差値がこれくらいなら、この大学は行けそう、無理そう、などなど。

進路未定のままの生徒だと、目標不在で勉強にも身が入らない、だったら何か目標(夢)を持たせた方がいい、という発想です。

おそらく、リスナーの高校はこの発想によるキャリア教育・進路指導をしたものと思われます。

キムタクコメントが危険と思う理由

こうした高校の事情を木村さんはご存じないのでしょう。

それは無理ないことですが、私が気になるのは、

本当になりたいものになってもらわないと、良い<ぼん>になれないと思うんだ。就職さえ出来れば、仕事は何でも良いという<ぼん>は、もったいないと思う、マジで!

というあたりです。

木村さんや草なぎさんなど芸能人の多く、それからスポーツ選手などは、10代の早いうち(人によっては10歳未満!)に、本当になりたい職業を考えて、それを目指します。

そして実現している人たちです。

これは、学術的には、キャリアアンカー理論に基づくキャリア選択です。

早いうちに進路・職業を選択する、それに向かって頑張っていく、そして実現できれば、これはもうハッピーです。

この発想や理論を私は否定しません。

しないのですが、キャリアアンカー理論による進路指導・職業選択のみを善とする発想には違和感を覚えます。

こう言っちゃ何ですが、今も昔も、小中高や大学がキャリア教育をやろうが、やるまいが、高校生の多数派は、進路未定でしょう。

リスナーが言うところの、

「私自身では就職さえできれば仕事は何でもいいと思います」

程度。

かく言う私も、高校生のときは進路について、それはそれは迷走していました。

「とりあえず本が好き(親が新聞記者)→でも、父親と同じ職業は何か嫌→じゃあ出版社で→週刊誌は忙しそうだから月刊誌の編集者なら暇そうだしまあまあ面白そう→なんか広くできそうだし社会学部でいいか」

という理屈から、社会学部を選択。

なお、同じ出版社でも月刊誌編集者が週刊誌編集者の数倍忙しいことに気付いたのは、この業界で働くようになってからです。

私の話はさておき、進路未定の高校生に、キャリアアンカー理論から、

「本当になりたいものは何?」

と考えさせると、自分探しの迷子になりかねません。

現実が違ったとしても、

「本当の自分はこんなはずではない」

などと言い出すわけです。

こうした人は、高校・大学の偏差値や学部などに無関係で一定数存在します。

社会人になっても、目の前の仕事を頑張らずに、

「こんなはずではない」

これって、タモリさんが言うところの、

「向上心のある人の、悲劇的な生き方なの」

につながると思うのですが、いかがでしょうか?

夢とその実現は別?

ところで、キャリアアンカー理論の逆がキャリアアダプタビリティ理論です。

これは、変化に適応して進路を決めていくというものです。なお、受動的に決めていく、と誤解されがちですが、決してそれだけではありません。

たとえば、「夢」否定のタモリさんは、このキャリアアダプタビリティが職業選択にあった、と言えます。

タモリさんは、

「早稲田大第二文学部→中退→保険外交員・旅行会社・ボーリング場支配人・喫茶店マスターなどを転職」

というキャリアでした。

福岡のホテルで友人と飲んだあと、帰ろうとしたとき、大騒ぎをしていたのが、ジャズの山下洋輔トリオでした。

この大騒ぎに加わり、バカ受け。

これがきっかけとなり、東京に招かれ、さらには漫画家・赤塚不二夫に気に入られ、マンションと資金を提供されます。

そして、芸能界デビューします。

このデビューに至るまでの間、「本当の自分」という発想はどこにもありません。

これは10代のうちから芸能人として活躍していた木村さんのキャリアとは大きく異なります。

こうしたキャリアの違いも、「夢」に対する考え方の違いにつながっているのかもしれません。

ところでこの高校生にはどうアドバイスする?

私は高校生が進路未定なら、進路が決まっている高校生以上に、ダメ元であれこれ動ける、という条件付きですが、

「とりあえず、大学」

という発想もありだと考えています。

大学で勉強をして視野が広がれば、そこから職業選択を考えるきっかけにもなりますし。

このリスナーだと、カウンセラー志望ですから、心理系学部・学科でしょうか。

別に、全部が全部、カウンセラーになるわけでないし、様々な職業選択も可能です。

それと、木村さんが言われる、

カウンセラーになった場合、良いカウンセリングできないと思うんだ。このままの状態では。「学校に、持たせられた目標なんで。仕事としてはカウンセラーやってますけど…何をご相談したいんですか?」って、絶対に相談したくないカウンセラーだよね(笑)

それってどうかな、と。

学校に持たせられた目標であっても、親から押し付けられた職業であっても、それと職業の技量は別問題です。

最初のきっかけが高校の進路指導だったとしても、それでカウンセラーの勉強を一生懸命することで良いカウンセラーになるかもしれません。

親から押し付けられていやいや医者になった人が、実は医者としての技量がすごかった、ということだってあるでしょう。

その逆、自ら望んで就いた仕事が実はまったく評価されない、ということだってあり得るわけです。

「夢」という話に戻すと、木村さんとタモリさん、草なぎさんのどちらが正しい、ということではなく、どちらの発想もあり得ますよ、ということです。

最後は「夢」に関する名言を2つ、引用して、本稿の締めとさせていただきます。

「夢を求め続ける勇気さえあれば、どんな夢だろうと必ず実現できる」(ウォルト・ディズニー)

「夢をみるときは自由だが、それを口にするのは不自由だ。

夢はほんとうの夢をみるのだが、それを口にすれば、嘘になる」(魯迅)

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。2018年は肩書によるものか、バイキング、ひるおびなどテレビ出演が急増。ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。主な著書に『大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ)『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)『女子学生はなぜ就活に騙されるのか』(朝日新書)など累計30冊・62万部。2021年1月に『就活のワナ』(講談社プラスアルファ新書)を刊行。

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