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国際教養大の二番煎じは大丈夫か?その5~長崎大の敗因はセンター得点率80%だった?

石渡嶺司大学ジャーナリスト

国際教養大シリーズ6回目。

と言いつつ、国際教養大が脇役で他大学が国際系学部という罠。

国際教養大があれこれけなされている件

国際教養大の二番煎じは大丈夫か?その1~2015年度入試結果から

国際教養大の二番煎じは大丈夫か?その2~長崎大・山口大がこけた理由

国際教養大の二番煎じは大丈夫か?その3~山口大・長崎大はどうする?

国際教養大の二番煎じは大丈夫か?その4~就職状況と学生のニーズを考える

ぼちぼち、私立大の入試結果に行きたいのですが、まだ出そろっていないので後にするとして。

実はほぼ同じ国際系学部、地理条件も、福岡からではほぼ同じ長崎大と山口大。

しかし、長崎大は二次募集を出すほどとなり、山口大は出しませんでした。

その違いはどこか、と思っていたところ、首都圏の大学の先生から、入試にあるのでは、とのご指摘をいただきました。

そこで長崎大多文化社会学部の入試要項を確認すると、確かに二段階選抜に以下の条件を出しています。

大学入試センター試験の外国語科目の得点率が80%以上の者又はTOEFLPBT500点 以上,TOEFL iBT61点以上,TOEIC650点以上,英検準1級以上,IELTS5.5 以上,GTEC forSTUDENTS700点以上若しくはGTECCBT1040点以上の者

2段階選抜でセンター試験外国語の得点率を条件とする大学は珍しく、多くの大学では、予定倍率を条件として提示。

この予定倍率に達したときに2段階選抜を実施します。

予定倍率以外に条件を挙げている大学はそれほど多くありません。

・名古屋大医学部後期:センター試験900点満点中720点以上で募集人員の8倍

・京都大理学部前期:センター試験900点満点中630点以上

・京都大医学部医学科前期:センター試験900点満点中630点以上で募集人員の3倍

・大阪大医学部医学科前期:センター試験900点満点中630点以上で募集人員の3倍

・神戸大医学部医学科前期:センター試験900点満点中650点以上。保健学科前期は6倍。

・長崎大水産学部前期:センター試験900点満点中450点以上

・大阪市立大医学部医学科前期:センター試験900点満点中650点以上

長崎大水産学部以外はどこも難関大の医学部か理学部です。

そして、センター試験得点率は、もっとも高い名古屋大医学部後期でも80%。他は70~72%。そして、長崎大水産学部は50%。

長崎大多文化社会学部以外は全科目の得点率ですが、仮に全科目同じだったとすると、整理すればこうも言えます。

「長崎大多文化社会学部は京都大医学部、名古屋大医学部よりも高い得点率を受験生に求めている」

うーん、強気だ。

それでは、二段階選抜以外で、センター試験の得点率80%が国公立大の国際・外国語系学部でどのような意味を持つか、河合塾・2014年センター試験得点率(合格可能性50%/いずれも前期入試)で調べてみました。

東京大学文科1類 87%

国際教養大国際教養学部 87%

東京外国語大言語文化学部英語学科 83%

大阪大学外国語学部英語学科 80%

神戸大国際文化学部国際文化学科 79%

神戸市外国語大外国語学部英米学科 78%

九州大文学部人文学科 77%

東京外国語大国際社会学部南アジア学科 74%

北九州市立大外国語学部英米学科 74%

※山口大人文学部人文社会学科 69%

福岡女子大国際文理学部国際教養学科 68%

※長崎大経済学部総合経済学科 62%

山口大と長崎大は参考数値として、他学部を出しました。

80%を超えているのは東京大、国際教養大、大阪大など。

他は70%台ないし60%台後半。

そして、長崎大、山口大はともに60%台です(一部学科は70%超えもあり)。

元々の平均的な受験者層が60%台後半であるところに、英語だけとはいえ、得点率80%を二段階選抜の条件として出すのは、かなり強気です。

いや、強気というよりは言葉は悪いですが無謀そのもの。

一般的な受験生からすれば、長崎大で落ちる可能性があるなら、東京外国語大のマイナー言語学科か、神戸市外国語大・北九州市立大・福岡女子大などを選ぶのが自然でしょう。

その方が受かる確率が高く、しかも伝統校で実績があります。

メールを送ってくれた先生は、

「このハードルがなければ、特徴は薄れても、高校側は合格実績のために送り込んだと思います」

とのご指摘。

私もまったく同感です。

別に長崎大はじめ地方大が、英語力の高い受験生を求める姿勢がまずい、と言っているわけではありません。

学部の特性を考えて英語力の高い受験生を求める、という姿勢そのものは、ありだと思います。

ただ、そうした姿勢を出すのであれば、推薦入試・AO入試の一部にとどめておくなどしておくべきでした。

私立大では先行事例として、法政大グローバル教養学部の自己推薦入試があります。

こちらも、実用英検準1級以上などかなり強気です。

※実用英検準1級を取得していなくても、評定平均4.0以上なら出願可能の条件(B基準)もあり。

まあ、法政だから集まる、というのもありますが、その法政でさえ自己推薦入試のみで一般入試では条件を外しています。

学部新設以前のセンター試験得点率が60%台後半から70%台前半の長崎大が、英語80%という条件を出すのであれば、該当する受験生が魅力と思える別のセールスポイント(たとえば給付型の奨学金)が必要でした。

それができないなら、英語80%はいくらなんでも無茶ぶりでした。

さて、長崎大が今後、この条件をどうするか。

1:現状維持

2:得点率を80%から引き下げる

3:得点率80%は推薦・AO入試の条件とするなど縮小する

4:得点率の条件を撤廃

1だと、どう考えてもさらに受験生を減らし、国立大初の2年連続定員割れという事態を引き起こしかねません。

4が一番手っ取り早く、かつ、受験生の増加も多少ですが、見込めます。

ただ、大学が求める英語力のない学生が大量に入ってくる可能性もあり、補習教育をどうするのか、など考える必要があります。

2・3あたりが落としどころですが、4ほど受験生増加は見込めませんし、こちらもこちらで入学後のギャップに苦しむ学生が増えそうです。

いずれにしても、2年後新設予定の九州大国際教養学部などと競合することを考えれば、西日本の受験生や高校進路教員はかなり躊躇するでしょう。

ここからどう逆転の道を探るのか、長崎大多文化社会学部の今後に注目です。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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