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国際教養大の二番煎じは大丈夫か?その4~就職状況と学生のニーズを考える

石渡嶺司大学ジャーナリスト

国際教養大シリーズ5回目。

と言いつつ、国際教養大が脇役で他大学が国際系学部という罠。

国際教養大があれこれけなされている件

国際教養大の二番煎じは大丈夫か?その1~2015年度入試結果から

国際教養大の二番煎じは大丈夫か?その2~長崎大・山口大がこけた理由

国際教養大の二番煎じは大丈夫か?その3~山口大・長崎大はどうする?

今回は地方国公立大国際系学部と就職先の関連について考えてみます。

私が毎年刊行している『時間と学費をムダにしない大学選び』シリーズの2015年版では、国際の章で次の一文を掲載していました。

国際系学部を名乗る大学でも、あまりに評価が低い大学はお勧めできない。学生の水準が低いからだ。その証拠に、就職先は地元の中小企業ばかりである。無論、地元の中小企業は悪くない。ただし、崇高な理念を持って国際的な舞台で活躍したいと思っても、うまくいかない場合がある。

※「一口情報 著者からのひとこと」に掲載

2016年版では、一口情報の分担などが変わり(石渡も加筆等で参加)、「著者からのひとこと」コーナーは他の章も含め廃止。

この、国際系学部と就職の関連では、「高校生の素朴な疑問Q&A」にて、以下のものを掲載しました。

●地方国公立大の宇都宮大国際学部、静岡県立大国際関係学部などを考えています。ただ、本当に国際的な企業に就職できるかどうか不安ですが、実情はどうでしょうか?

まず、国公立大の国際系学部はどこも教育内容・教員などで何か問題があるとは私・石渡は考えません。

就職実績などを見ると、確かにそこまで国際的な企業が多くない国公立大もあります。

しかし、これは大学の教育内容がどうこう、というよりは学生の志望傾向にあります。

まず、地元出身者が多い大学だと、当然ながら地元企業への就職が多数となります。

さらに、地元出身者以外で国際系学部を卒業しても就活は地元、あるいは大学所在地が気に入ったのでそこで就職、あるいは「国際系学部→マスコミに興味を持つ→手あたり次第受けて結果、地方マスコミに就職」などもよく聞きます。入学者の地元占有率を見ていきましょう。

宇都宮大国際学部 16.7%

国際教養大 11.5%

新潟県立大国際地域学部 61.3%

静岡県立大国際関係学部 57.1%

愛知県立大外国語学部 61.9%

神戸市外国語大外国語学部 22.9%

北九州市立大外国語学部 28.5%

長崎県立大国際情報学部 58.3%

宇都宮大、国際教養大が20%割れ。神戸市外国語・北九州市立の公立外国語学部2トップが20%台。他は50~60%台。

もちろん、立地も影響しています。愛知県立大の場合、地元で無名の優良企業に就職というのも多いです。

一方、神戸市外国語大の場合はアクセスの良さから神戸だけでなく関西圏の企業に就職しやすい(関西圏の企業側も高評価)という事情があります。

地方国公立大の国際系学部で国際的な企業にどれくらい就職したかどうかを気にしなくても、私・石渡は問題ないと思います。

という感じで、2015年版とは大きく内容が変わりました。

上記内容に2点、付け加えると、「地元の中小企業」「国際的な企業」の差がどこか、それから親の意向という点があります。

まずは1点目から。

国際教養大の就職先を見ていくと、総合商社や大手メーカーなどが並んでいます。

グローバルに展開している企業も多いので、この点を持って、「国際教養大は成功している」との言い方もできます。

まあ、秋田県内への就職者の少なさを秋田県内では非難する関係者もいるようですが、それはさておき。

一方で、静岡県立大、愛知県立大、長崎県立大などは地元出身者が多いこともあり、「地元の中小企業」が就職先の中心になり、総合商社や大手メーカーなどはそれほど多くありません。

この点をもって、「静岡県立大など国公立大の国際系学部は、地元の中小企業ばかりで総合商社・大手メーカーなどが就職先にない。だから、国際系学部としては失敗である」との評価もできてしまいます。

私の進路ガイドでも2015年版までは、そうした見方が多少はあったことは否定しません。

それが2016年版から大きく変えたのは、「地元の中小企業イコール国際的ではない企業」との決め付けに強い疑問を持つようになったからです。

たとえば、熊本県の重光産業。従業員96人の中小企業で、味千拉麺チェーンを経営。地元熊本では有名ですが、東京ではゼロ、大阪でも6店舗しかなく、一般的な知名度はそれほど高くはありません。

しかし、同社は12か国で約800店舗を擁しています。

日本国内では知名度が低くても、海外では有名。あるいは、海外とのビジネスをしっかり成立させている地方企業はいくらでもあります。

そうした企業への就職を「知名度が低い中小だから、それは失敗」と決め付ける(あるいは、そうとられかねない一文を掲載する)のは、

「現場を知らずに決め付けで書いているだけ」と批判されても仕方ないところです。

その点、この石渡、反省して、大きく変えた次第。

さて、2点目、「親の意向」。

これは、国際系学部に限らず、地方国公立大ならどこでも言えることですが、親の意向として、地元企業にこだわるようになってしまう、という事情があります。

このあたりを考えたときに、親からすれば、国際を冠する学部はまだしも、海外留学・研修を義務付けるところまで行くと、そこまでしなくても、と敬遠してしまうのではないでしょうか。

そう言えば、2015年の国立大新設学部として、高知大地域協働学部があります。一般前期入試の出願結果は35人募集のところ、170人が志願、倍率4.9倍となりました。

長崎大多文化社会学部の1.0倍、山口大国際総合科学部の1.3倍に比べると、その差は歴然としています。

地域協働学部、経営学と社会学の融合系とでも言うか、新設学部にありがちな分かりづらさですが、地方創成に絡んだ学部ということで、分かりやすいとも言えます。

学部説明資料には、卒業後の進路として、

・6次産業化人:6次産業による新ビジネスを自ら起業して活躍する。→ 起業家、農林商工業の後継者など

・産業の地域協働リーダー:異業種間等の協働を通じて新規事業を創出する。→ 地域産業振興を担う企業、銀行、JAなど

・行政の地域協働リーダー:産官及び官民などの協働をコーディネートして行政施策を推進する。 → 公務員、大学職員

などを挙げています。

地元志向の受験生・親からすれば、分かりやすい学部であり、ニーズに合っています。

このあたりが、長崎大・山口大と明暗を分けることになったのではないでしょうか。

ところで、このシリーズで前回、「転進を」と書いたら、Twitterでこんな書き込みが。

nagashima m. @_nagashimam  4月15日

「転進」はね、文科省に対して「これまでの成功に基づきさらに飛躍するために行う」説明をしなきゃいけないので大変ですよ。相手は無謬論

なるほど。それから、1期生が卒業するまでは変えられない、とのご指摘もいただきました(それぞれ、ありがとうございます)。

まあ、そうだろうなあ、という気もしたのですが、案の定でした。

しかしですね、このままだと、

「その7:ジリ貧で、学部だけでなく大学のブランド価値も下落」

という暗い未来が、近づいてきてしまいます。

大丈夫か、長崎大、山口大。

そうかと思えば、福井大が国際地域学部の新設を発表。

「海外留学・研修を推奨」としているあたり、まーた、国際教養大の二番煎じか、それとも、微妙に学習しているのか、わかりません。

でも、学習していたら、「国際」は付けないし、海外留学・研修や英語教育など、国際教養大を真似はしないはず。

まだ、高知大地域協働学部か、愛媛大が新設予定の社会共創学部の方がましです。

その点、うまいなと思えるのが徳島大総合科学部

これまでの人間文化、社会創生、総合理数、3学科体制から社会総合学科の1学科に改組。2年次以降のコース選択として、国際教養、心理健康、公共政策、地域創生の各コースを設置します。

このコース設計だと、2年次選択なので、入試の段階で長崎大・山口大のように志願者減少のリスクはかなり減らせます。

それでいて、文部科学省にも「うちはグローバル教育もやっていますよ~」とアピールできますし。

福井大国際地域学部には、徳島大のようなしたたかさが感じられません。

それこそ、まだ設置認可前ですし、転進をお薦めする次第です。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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