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国際教養大の二番煎じは大丈夫か?その3~山口大・長崎大はどうする?

石渡嶺司大学ジャーナリスト

国際教養大シリーズ4回目。

と言いつつ、国際教養大はほぼ出てこないで山口大・長崎大が主役になりつつあります。

主役にされた方はいい迷惑でしょうが、それはさておいて。

前回は山口大・長崎大の国際系新設学部がボロボロであるのは、学費・生活費も絡んでいるのでは、ということが明らかになりました。

今回は、この山口大・長崎大、あるいは今後、同様の国際系学部新設を考える国公立大がどうすればいいか、考えていきます。

※未読の方は、国際教養大シリーズ1回目の「国際教養大があれこれけなされている件」、国際教養大の二番煎じは大丈夫か?その1~2015年度入試結果からもどうぞ。

●その1:撤退、ではなく転進

2017年か2018年には九州大に国際教養学部新設の計画が進んでいます。

いくら理念が素晴らしいものであっても、現実を無視したままでは大学のブランドを傷つけるだけです。

国立大の場合、法科大学院で痛い目にあっているはずですが、国際系学部がこの法科大学院乱立の二の舞になると見ています。

山口大、長崎大の場合、1・2年目の募集ですでにボロボロであることが判明しています。

ならば、撤退は、早い方がいいでしょう。

あ、失礼。

撤退だと恥なので、転進ですね。

旧日本軍の伝統は敗戦後も官僚組織(の一部)だけでなく、大企業(の一部)や大学(の大多数)にも引き継がれているのを、この石渡、失念しておりました。

えー、転進ということで、具体的には、国際系学部の速やかなる募集停止。

定員の半数は社会学部として、海外留学必須のコースはその中に少人数プログラムとして存続。

定員の残り半数は経済学部に流す。あるいは国際経済学科を新設。

長崎大の場合はすでにグローバル経済コースがあるので、昇格させることはしやすいはずです。

1期生の卒業前に募集停止・改組することはかなりの荒療治ですが……。

そんな、非現実的なハードランディング策など知りたくない?

では、次。

●その2:学部単独では赤字と割り切る

受験生集めをあきらめる、というわけではありません。

新学部では、黒字経営をあきらめる、という意味です。

具体的には、

・学生寮をさらに増設して、寮費(食費・光熱費込)は月1万円以下にする

・学生寮増設の前は、大学がアパート等の家賃補助を出す

・1年次の海外研修は学生の自己負担額を成績順に変える。最上位クラスは無料とする。最下位クラスでも10万円程度とする。

・2年次~4年次の間の海外留学(半年~1年)は、食費・生活費・往復の交通費について、大学が補助を出す。

・本来の学費についても、奨学金を新設。成績等でクラス分けをして、6割相当の学生は4年間の支給額が50~150万円相当。

などなど。

家賃補助(または寮費補助)、海外研修・留学の生活費等支援で、

「研修・留学は必須だけど、自己負担額がそれほどでもない」

とわかれば、受験生は敬遠する理由がなくなります。

さらに通常の学費についても、成績が良ければ奨学金を出して、実質的に割り引く形にすれば、優秀な受験生が集まるでしょう。

1学年あたり、数千万円以上の投資。4学年で回るようになると、1年で最低でも1億円以上の支出となります。

金額は不明ですが、この「学部単独では赤字」という発想で設立しているのが、法政大グローバル教養学部。

1999年に国際文化学部を設置しているのに、2008年に設立。

国際文化学部は入学定員249人と大きな学部ですが、グローバル教養学部は入学定員が66人(当初は50人)。

それでいて教員は15人もいます。学生専用の個人ロッカー、顧問ルームなど教学スペースも他学部にはない充実ぶりです。

留学・研修の給付型奨学金制度もあり。

この手厚さ、学部単独で黒字になっているとは思えません。

おそらくは、少人数で徹底して鍛える、学部単独では赤字でも大学のブランドイメージが上がればトータルでは黒字、という発想です。

これも反対論多そうですが、まあ実現できれば、ということで。

ただ、ここで書いた奨学金の拡充、生活支援策、特に「留学期間前後の居住アパートの契約」、これは考えたいところ。

山口大・山口大生協の4年間借り上げ特別プランはうまい策なので、これを真似するのは手かな、と。

●その3:学部長以下の教授陣による宣伝

大学教員による受験生集め、私は基本的には否定的な立場です。

大学教員は教育、研究が第一であり、その本来の業務を危うくする広報活動は本末転倒と考えているからです。

それに教員がしゃしゃり出たところでむしろ邪魔

が、国際教養大設立前に、当時の中嶋嶺雄委員長(のち初代学長)がどれだけ宣伝して回ったか、ご存じでしょうか。

国際教養大は設置をめぐり、秋田県議会で大もめにもめました。

2002年1月の臨時県議会で関連予算が可決されて動き出しましたが、この可決には、自民党から脱会した新会派・新生会が賛成に回ったからです。

当時、県議会で野党だった自民党は2002年、3度も大学関連予算を削除する修正案を提出(いずれも否決)。

2003年3月9日には、地元紙に創設反対の意見広告を出したほどです。

そうした危うい空気があったにせよ、中嶋委員長は、広報宣伝に努めました。

中嶋氏も「歩く広告塔」に徹した。昨年末までに県内外の高校や予備校など17カ所で講演に立ち、魅力を感じた。

(朝日新聞2004年2月7日朝刊「公立大学法人 制約なくす 国際教養大 4月開学へ 上」)

もちろん、全教員が広報活動をする必要はありません。

しかし、学部長など何人かは中嶋学長をならって宣伝に回るくらいの努力をしないと厳しいのではないでしょうか。

●その4:入試日程をどうにか…できない?

国際教養大は開学当初、センター試験に参加していなかった、これ意外かもしれませんが本当です。

私も今回、文献調査で初めて知りました。

公立大は本来、大学入試センター試験に参加する。だが申込規定の関係で、同大は来年度だけ参加しない。公立でありながら、他の国公立大と併願できる。国公立志向の強い県内では「受験機会が増える」と同大の併願を薦める高校もある。

(朝日新聞2003年11月28日朝刊「国際教養大、来春に開校 焦点は学生確保 文科省認可」)

よくそれで認可したな、と思いますが、後述する受験会場の設置(初年度は東京・大阪・仙台)、それと入試日程が絶妙だったことも受験者を大きく増やしました。

初年度の入試日程は前期A日程が2月1日、前期B日程が2月14・15日、後期日程が3月20日です。

この日程、どういうことか、と言えば、他の国公立大入試日程を外しています。

多くの国公立大は前期日程が2月25日、後期日程が3月12日です。

これ以外の日程で実施していた公立大は中期日程(3月8日)実施の都留文科大、下関市立大など、ごくわずか。

前期日程・後期日程が重複していなければ、朝日新聞記事にもある通り、国公立志望、でも受験回数を増やしたい受験生は併願するに決まっています。

当時、国公立大の外国語・国際系学部の偏差値はこうでした。

神戸市外国語大外国語学部 65

東京外国語大外国語学部 63

大阪外国語大外国語学部 62

北九州市立大外国語学部 60

国際教養大国際教養学部 58

宇都宮大国際学部 56

※出典は『大学ランキング2006年版』。偏差値はベネッセ駿台模試(2004年10月実施分)。

この偏差値を見る限り、外国語学部のビッグ4に負け、宇都宮大国際学部ともいい勝負、下手をすれば宇都宮大を上に見る進路指導教員がいたとしてもおかしくはありません。

仮に受験日程を他の国公立大と揃えていたとしましょう。

外国語学部ビッグ4と宇都宮大国際学部、あるいは静岡県立大国際関係学部、広島市立大国際学部などの受験者は併願できません。

その分だけ、倍率は大きく下がっていた可能性が高かったはずです。

しかし、この受験日程ずらしもあって、受験生を確保することができました。

これは、2年目以降も引き継がれ、現在に至っています。

もちろん、独自日程を組むと入学者数が読みづらいなど、面倒な点は多々あります。

しかし、国際系学部を擁する国公立大が増えている現状では、入試日程の競合を避ける独自日程という策はうまい手です。

実際、新潟県立大国際地域学部は、独自日程策(一般入試A、B、C日程)で受験生を確保しています。

国際系学部を擁する他の公立大(広島市立大、静岡県立大、長崎県立大など)も真似をしていい策ではないでしょうか。

山口大、長崎大の場合、国立大なので独自日程は設定しにくいかもしれません。

しかし、ダメ元で文科省に掛け合うなど、やるだけはやってほしいと思いますし、一般入試でダメなら推薦入試・AO入試の回数を増やす、という手もあります。

●その5:受験会場設定をよく考える

山口大は自校のみですが、長崎大は自校のほか、東京、福岡で実施。

学外受験会場の設定は私立大の得意とするところですが、国公立大も実施校が増加中です。

ただ、この学外受験会場の設定、下手な大学がほとんど。

残念ながら、長崎大もその例外ではありません。

なぜ、学外受験会場を設定するのでしょうか。

その目的は、受験者数を増やすことにあります。

となると、学外受験会場は受験者が多そうな場所を慎重に見極めたうえで設定すべきです。

国際教養大は初年度が東京、大阪、仙台。2年目は札幌、福岡が追加、現在は名古屋も含め6会場で実施しています。

仙台は東北地方の中心都市、東京は東京外国語大、大阪は大阪外国語大を擁し、神戸市外国語大も近隣にあります。

併願者狙いとしては、絶妙の受験会場設定でした。

設定のない山口大は論外として、長崎大の場合はどうでしょうか。

福岡は九州地方の中心都市ですから、ここは問題ありません。

しかし、東京での実施はどうでしょうか。

東京外国語大、早慶上智ICU、MARCHなど競合相手が乱立する中で、あえて受験会場としても、どれだけ受験生が集まるでしょうか。

まして、国際教養大のように独自日程でもない中、閑古鳥が鳴くのは無理からぬところでしょう。

もちろん、大学名告知も含めての話であり、東京での実施に意義がある、というのであれば、それはそれで一つの方法です。

しかし、それなら、都留文科大のように全国各地で実施すべきでしょう。

※一般入試は札幌・仙台・東京・富山・名古屋・大阪・広島・高松・福岡・鹿児島・那覇で実施

費用対効果を見込めない、ということであれば、東京会場はスクラップ対象です。

遠いところでは、名古屋、大阪、神戸、広島などは有力候補。

他に、長崎大の場合は佐賀、熊本、鹿児島、小倉など。

山口大の場合は福岡、小倉、松山、岡山、松江、鳥取などがそれぞれ候補となります。

やみくもに増やすのも手ですし、2~3か所しか実施できないということであれば、どこで実施すれば費用対効果が高そうか、慎重な検討が求められます。

以上、5点について、まとめてみました。山口大、長崎大や他の国際系学部を擁する国公立大関係者の方はご参考までに。

※国公立大の受験会場設定については、2014年8月20日記事「名古屋が大学で日本一?~地方会場入試実施回数トップの理由」もどうぞ。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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