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今期もっとも作り手の心をゆさぶるアニメ「映像研」の動きを作っているのは日本人ではないという話

いしたにまさきブロガー/ライター/アドバイザー
「映像研には手を出すな!」OP「Easy Breezy」(YouTubeより)

今どきのアニメというのは、ざっくり年に4回の期に分かれて放送されており、各期がはじまりしばらくすると「今期のアニメはどれが面白い?」という話をするのがアニメを見ている人たちの定例な感じとなっております。

ただ、今期に関してはいわゆるアニメ好きの枠を超えて「映像研すごいねえ」とか「映像研のためにオンデマンド契約した」とかそういう話が聞こえてきています。

▼「映像研には手を出すな!」PV

そういった声を受けて、初回の放送が1月5日(しかも日曜深夜)だったということもあり、NHKが早々に1から4話までの再放送をするという異例のことをしているのも納得できる状況です。

アニメ版「映像研」の内容については、原作と変わっている部分もあり、放送が終わっていない段階であれこれ言うことでもありません。そもそも、アニメを作る話であるマンガ原作を、さらにアニメ化するというとてつもない難題に挑戦している作品なので、最終話にゴールするだけでもすごいことなんです。いや、でも文化祭よかったですよねえ、ホントによかった。

優れたアニメ作品には優れたオープニングが付き物ですが、それは映像研においてもそうです。お話としてはスロースターター気味の映像研という物語において、オープニングの出来栄えが1話放送時の評判を強く後押しました。

▼「映像研には手を出すな!」オープニングテーマ「Easy Breezy」

このオープニング動画がネットで公開されると、ネットではミームと呼ばれるパロディ動画がたくさん登場しました。こういう感じも、実にひさしぶりな感じです。

▼Demon Slayer opening but it's actually "keep your hands off eizouken!"【映像研には手を出すな!(Easy Breezy)】

▼the spongebob squarepants opening but it's actually "keep your hands off eizouken!"

そして、この映像研のオープニングの見事な解説記事も出ています。1コマ単位でアニメを解説する記事、こんなの見たことないです(笑)。

この指向性の変化は、背景の動きによっても後押しされてます。よく見るとノーマルでは背景は上手から下手に流れ、サイケでは逆に下手から上手に流れている。そのせいでノーマルからサイケに移ったときに、なんだか潮目が変わった感じがするのです。

出典:オープニングで考えるアニメーション ―「映像研には手を出すな!」の巻(1)― | NEWREEL

このように、「映像研」OPでの3人の舞いには、それぞれ異なるコマ打ちの技法が用いられており、それによって3人それぞれの動作の特徴を表し、キャラクターの個性を浮かび上がらせているのです。

出典:オープニングで考えるアニメーション ―「映像研には手を出すな!」の巻(2)― | NEWREEL

つまり「頭ん中もう~」以降、アニメーションはリリックに対して先走ることによって、現実よりも先走る浅草と水崎の頭の中を表す一方で、〆切よりも早く貴様らをPC室に呼びつけ、破綻しかねないスケジュールを先回りして2人を追い込む金森の冷徹な計算高さを表すのです。

出典:オープニングで考えるアニメーション ―「映像研には手を出すな!」の巻(3)― | NEWREEL

そして、この各キャラクターの動きそのものを作っているのが、サイエンスSARUのアベル・ゴンゴラさんです。ご本人のインタビューが翻訳されたものが、すでにツイッターに出ています。

フランスのアニメーターであるアベル・ゴンゴラさんのアニメーション技法は、Flashを使うことでよく知られています。テレビだけでなく、劇場版もFlashで作られているのです。

スマホ時代に実質皆殺しにされたFlashが、今見事にアニメーションツールとして復活しているのもうれしいことですし、それを使いこなしているクリエイターが出ていることもうれしいです。

で、なにが言いたいのかというと、今の優れたアニメーションの多くはたしかにジャパニメーションという言葉があるように、日本発のものが多いのはまちがいないことです。しかし日本人が作っているからジャパニメーションなんていう世界ではもうとっくにないのです。

最初にジャパニメーションを作った人たちが生み出したクリエイティブの種はとっくに世界中に広まっていて、ジャパニメーションのクリエイターも世界中にいるのです。それだけは知っておいて欲しいんですよね。

で、最後になりますが、この映像研オープニングのすごさを支えているのは、なんといっても先日ミュージックステーションにも登場したchelmicoの楽曲のすばらしさに他なりません。そのアーティスト側であるchelmicoのオフィシャルMVを最後にもう一度見て、再度この楽曲のすばらしさに確認しつつ、アニメとの最高の出会いにも感謝したいです。

▼chelmico「Easy Breezy」【Official Music Video】

ブロガー/ライター/アドバイザー

Webサービス・ネット・ガジェットを紹介する考古学的レビューブログ『みたいもん!』管理人。2002年メディア芸術祭特別賞、2007年第5回Webクリエーションアウォード・Web人ユニット賞受賞。「ネットで成功しているのは〈やめない人たち〉である(技術評論社)」「あたらしい書斎(インプレス)」など著書多数。2011年9月より内閣広報室・IT広報アドバイザーに就任。ひらくPCバッグ・かわるビジネスリュックなど、ネット発のカバンプロデュースも好調。 #カゲサポ

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