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安田純平さんの紛争地取材を支持する 戦地取材しない大メディアの尻を叩こう

石丸次郎アジアプレス大阪事務所代表
シリア ラッカからの避難民を取材中のアジアプレス玉本英子。10月撮影坂本卓

シリアで3年4カ月にわたり武装勢力に拘束されていたジャーナリストの安田純平さんが解放され帰国した。

途端に一部メディアやネット空間で、「外務省が退避勧告しているのにシリアに入った」「危険地域の取材は外国メディアに任せればいい」という非難が沸き起こっている。私は中東の紛争地を訪れたたことはないが、強権国家の北朝鮮、中国を長く取材してきた。安田さんとは、マスメディアに所属しないフリーという身分も含めて「同業」だ。その立場から戦場や紛争地の取材についての考えを記したい。

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◆国家は戦場隠す

まず前提。報道機関は紛争・戦争を取材し伝えなければならない。義務・使命と言ってもいい。なぜか? 紛争地や戦場は、国家が極大の暴力を国策として行使する場所だからだ。どの国家も、暴力の行使に大義を掲げ正当性を主張する。それが本当か、国民は監視しなければならない。だから報道機関には取材を求めなければならない。しっかりやれ、怠慢するなと。

現場では、自国の兵士も傷つき死ぬ。他国の無辜(むこ)の民を誤爆などで死なせることもある。捕虜虐待や残虐行為が行われることもある。国家はそんな「不都合な事実」を隠ぺいしようとする。イラクにおける米軍の行動だけを振り返っても、そんな事例は山ほどある。

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日本はどうだ? 自衛隊のイラク派遣(2005年)、南スーダンの国連平和維持活動(2016年)の日報が隠ぺいされた事件は記憶に新しい。戦闘地域には送らないとしていた自衛隊が、現地駐屯地で銃撃されたり被弾したりした事実を防衛省は隠していた。

戦前、日本軍があらゆる戦線でボロボロに負け続けている事実を国民はまったく知らされなかった。日本の報道機関は総屈服し、大本営が発表する虚構を垂れ流して国民を欺くお先棒を担いだ。中国はじめアジアの国々で、日本軍による残虐行為が行われていることも知らされなかった。結果、夥しい人命が失われ、国は滅亡の淵に追いやられた。

◆怠慢メディアには取材求めよう

国家権力は戦場を隠し、嘘をつこうとする。だからこそ、政府発表ではない、ジャーナリズムの眼が現場に必要なのである。「外務省が退避勧告している場所に行った」という批判はまったく的外れだ。お上が行ってよいという場所、テーマしか取材しないのなら、それはもう報道機関とは言えない。そんなメディアがあれば、尻を叩かなければならない。手抜きするなと。

安田さんが赴いたシリアでは、2011年に内戦が勃発して以来、50万の死者と500万の難民が発生した。イスラム国による前代未聞の残忍行為もあって世界を揺るがせた。現場で何が起こっているのか、ジャーナリストが取材に赴くのは当然だ。組織かフリーかは関係ない。

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もちろん安全確保の努力はジャーナリズム側の義務だ。2001年に始まったイラク戦争以降だけを見ても、6人の日本人ジャーナリストが銃撃や拘束の末に死んだ。安田さん以外にも取材中に拘束されたジャーナリストは大勢いる。事件事故はなぜ起こったのか、ミスはなかったのか、ジャーナリズム側が事件事故を減らすために検証に努めること。それが紛争地取材の必要性をもっと理解してもらうために、今必要なことだと思っている。

※11月6日付け毎日新聞大阪版に掲載された記事に加筆修正しました。

アジアプレス大阪事務所代表

1962年大阪出身。朝鮮世界の現場取材がライフワーク。北朝鮮取材は国内に3回、朝中国境地帯には1993年以来約100回。これまで900超の北朝鮮の人々を取材。2002年より北朝鮮内部にジャーナリストを育成する活動を開始。北朝鮮内部からの通信「リムジンガン」 の編集・発行人。主な作品に「北朝鮮難民」(講談社新書)、「北朝鮮に帰ったジュナ」(NHKハイビジョンスペシャル)など。メディア論なども書いてまいります。

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