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戦時の企業メッセージはどうするべき?ロシアでの事業継続方針を撤回したユニクロから学ぶ

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

2月24日にウクライナに侵攻したロシア軍によって開始された戦争。短期で終わるのではないかとの予測を裏切り、残念ながら今も続いています。各国がロシアへの経済制裁に踏み切る中、企業も事業のあり方についての方針、メッセージが求められています。戦時に企業はどのようなメッセージを発信するべきなのでしょうか。ファーストリテイリングとトヨタ自動車の例から考えます。

3月7日に一度はロシアでの店舗営業を継続する方針を発信したユニクロを展開するファーストリテイリングは、わずか3日後の3月10日にロシアでの営業継続を撤回するプレスリリースを出しました。

ファーストリテイリングが最初にウクライナ戦争に関連するプレスリリースを出したのは3月4日。タイトルは「UNHCRに1,000万米ドルと毛布・ヒートテックなど衣料20万点を提供―ウクライナおよび近隣諸国で避難生活を送る人々への人道援助活動を支援」。

書き出しは、

株式会社ファーストリテイリングはこのたび、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)からの要請を受け、ウクライナおよび周辺地域で緊急人道支援に当たるUNHCRに対し、1,000万米ドル(約11億5千万円)の寄付を決定しました。

いきなり始まったこの書き出しには違和感がありました。危機管理広報において、自社の努力で事前回避できない自然災害や戦争といった社会的リスクが発生した際には、「被害者」「被災者」へのいたわりの言葉、寄り添いの気持ちが望ましく、攻撃者がいる場合には断固たる姿勢を示すことが求められるからです。当然読み手はそれを期待していますが、このプレスリリースは、自分達の支援内容、自己主張になってしまっています。

続く3月7日には、ユニクロ公式ツイッターにロシアでの事業継続が発表されると批判が殺到。書き込まれたコメントには、今回の問題だけではなく、昨年ユニクロが非難を浴びたウイグル強制労働問題についての指摘もありました。*1

そして、わずか3日後の3月10日には、事業継続を撤回するプレスリリースを流す形で収束を図りました。

このリリースの書き出しは、

ファーストリテイリングはあらゆる戦争に強く反対します。私たちは、人々の人権を侵害し、平穏な生活を脅かすいかなる攻撃をも非難します。

と戦争批判の言葉を記載。

最後は、

私たちは戦火に遭われている方々に心を寄せ、最大限の支援を続けていきたいと考えています。困難な状況に置かれた多くの人々が、一日も早く、平和で安定した生活を取り戻されることを切に願っております。

と、寄り添いの言葉で締めくくりました。

抜かりないのは、再度文中に3月4日に発表した人道支援の内容を掲載している点です。

私たちの使命は、一般の人々に日常着を提供することです。・・・・先週には、長年のパートナーである国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を通じて、人道支援のため1,000万米ドルの寄付と衣料20万点の提供を発表しました。さらにヨーロッパでは、従業員有志が、ウクライナから近隣諸国に避難した人々に、衣料を直接届ける活動を始めています。

これら一連のごたごたから言えることは、3月4日のプレスリリースで戦争反対の意見表明、事業停止をアナウンスした上での人道支援の内容発表であった方がよりよかったのだということです。

模範的な順番だったのがトヨタ自動車です。3月3日のプレスリリースは、ウクライナの人々への寄り添いの気持ちから始まっています。

トヨタは、世界中の皆様と同じようにウクライナの人々の安全を憂いており、一刻も早く平和で安全な世界が戻ることを願いながら、ウクライナ情勢を注視しています。ウクライナとロシアで事業を行う企業として、私たちが何よりも優先していることは、すべての従業員、販売スタッフ、仕入先の皆様の安心と安全です。今回、トヨタは、広く公正な視野で事態を見極めた上で、下記、必要な意思決定をいたしました。

として、2月24日に全てのウクライナトヨタの事業活動を停止したこと、ロシアトヨタは3月4日からサンクトペテルブルグ工場での稼働と完成車の輸入を停止したことを発表しています。

第2弾となる3月9日のプレスリリースは、人道支援の内容でした。

トヨタは、ウクライナの人々の安全を憂いており、困難な状況に陥っている方々が多くいる現状に心を痛めております。一刻も早く、平和で安全な世界が戻ることを願い、人道支援を行うと共に、最大で総額250万ユーロの寄付を行います。

その後、箇条書きで、ウクライナ従業員とその家族への食事や宿泊を含む移住支援として「トヨタ人道支援基金」を設立し、トヨタ従業員からの寄付を募っていること、ウクライナ国内及び近隣諸国で避難する人々への支援として赤十字等を通じた寄付、従業員によるボランティア活動(年間40時間有給)を認める等、3つの支援柱を表明しました。

トヨタ自動車は、「平和や安全」とソフトな表現を使い、「すべての従業員、販売スタッフ、仕入先の皆様の安心と安全」と常に社員目線です。一方、ファーストリテイリングは、「あらゆる戦争に強く反対します」「平穏な生活を脅かすいかなる攻撃をも非難します」と強いメッセージであることが特徴です。ファーストリテイリングは、一連のごたごたはありましたが、批判の声を受け止めて、明確な力強いメッセージを出したことには、企業としてのコミュニケーション力を感じました。何も発信しないよりも発信しながら軌道修正する方が学びがあり、企業を強くするのではないでしょうか。

*1  米政府によるユニクロへの経済制裁「公表」 柳井氏のノーコメント発言が失敗の理由

https://news.yahoo.co.jp/byline/ishikawakeiko/20210623-00243814

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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