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いい意味で期待を裏切ったのは高市早苗氏 総裁選立候補者3人の会見どうだった?

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:アフロ)

自民党総裁選の立候補を表明する記者会見を開いたのは、今のところ、岸田文雄氏、高市早苗氏、河野太郎氏の3名。それぞれ2時間近くの記者会見で見る方も大変でしたが、報道では一部しか流れませんし、質疑応答でのやりとりから出てくる個性が見えません。記者会見のタイミング、組み立て力、記者とのやりとり、表現力の観点から着目した点を解説します。

岸田氏、誠実なイメージなのにアピール不足

十分準備してきたと感じさせたのは岸田氏の会見でした。8月26日、いち早く立候補を表明する会見でしたが、昨年の不備だらけの会見とは全く異なりました。冒頭スピーチ、前半のテーマは国民の声。「国民の声が届いていない、といった声がある」「声を小さなノートに書き続けてきた。バイトのシフトが減った、事業継続ができない、と様々寄せられた。10年間で30冊。昨年総裁選に敗北したが、読み返して自分にはやることがある、と感じたことから再度立候補すると決意した」と立候補の理由を説明。具体的な国民の声もピックアップして、ノートも示すなど努力の見せ方も工夫。誠実な印象でなかなかいい滑り出しでした。

自民党役員人事のあり方刷新、若手登用、権力の集中への問題意識、政治と金の問題への国民への説明は必要だ、と力説。新型コロナ対策も季節性インフルエンザに位置付けていく方向性、賃金格差の問題。内容はいいのですが、後半になると前半と異なり、頻繁に下を見てしまうシーンが目立ち、頼りなさを感じさせます。「リーダーシップを発揮していきます」と言う際にも、なぜか下を見てジェスチャーもなしで、さらっと言ってしまう。本当にできるのだろうか、と心もとない印象が残りました。また、耳だけで聞くと、声はソフトで耳当たりがよく温かさもあり、心地よいのですが、抑揚がないためにどこがポイントかわかりにくく、聞いた後に言葉が残りにくい。

質疑応答は、肝心な部分が曖昧でよくわからない。例えば、「菅総理との違いは何か」の質問に「何を加えるか、です。国民の納得感。先手でいくこと。病床や人材確保。経済対策の策定。国主導で学校の一斉休校も視野に入れる」、これでは違いの説明にはなっていません。納得していない記者が再度質問。「違いがポイントになる。リーダーシップの観点から説明してほしい」。回答は「リーダーシップには、トップダウンとボトムアップがある。どちらがいいというのではなく、使い分ける必要がある。国民の声を聞く力が大切である」。やはりよくわからない。ここは一般論ではなく「私には〇〇がある」と言い切ってアピールする必要がありました。冒頭スピーチ30分、質疑応答90分、と長丁場の会見。全体として質問に対しては丁寧な説明で、特に政治と金については問題意識が高く説明が丁寧、クリーンな印象を残しました。でも、自分の魅力がアピールできていない。ご自身のもっている魅力を自覚できていない。また、頻繁に「うーん」と入れる癖があるため、聞いている人の集中力が途切れてしまいます。これが力強さに欠ける印象になってしまったのではないでしょうか。実に惜しい。

高市氏、力強さと具体性があるが、柔軟性は本物か

高市氏の記者会見はどうだったのでしょうか。岸田氏は昨年の総裁選に出馬していますし、河野氏も2回目、かつ常日頃「総理になりたい」と公言してきた方です。しかし、高市氏については突然出てきた感じが否めず。しかも安倍前総理の後押しとなると、「女性を担げば衆院選に勝てる」といった安易な考えからだろうと推測し、あまり期待していませんでした。ところが、高市氏の会見は、単なるお飾りではなく、内容が具体的で驚きました。

冒頭スピーチからみてみましょう。滑り出しは、「日本を守り、未来を切り開くために立候補を表明。国の究極の使命は、国民の生命と財産を守り抜くこと、領土、領空、領海、資源を守り抜くこと、国家の主権と名誉を守り抜くこと。私のすべてをかけて働くことをお誓い申し上げます」と予想通りの力強い言葉。その後すぐに国民の関心が高い新型コロナの基本方針について言及。「治療薬の早期投与による重症者、死亡者の数の極小化。飲食業など打撃を受けている業種への大胆な財政支援」。言葉がクリアで聞きやすい。しかし、「日本経済強じん化計画、3本の矢、サナエノミクスで経済の立て直しをする。金融緩和、財政出動、成長投資物価安定目標2%」と打ち上げました。ここで聞いている方は「サナエノミクス?まるで安倍さんそのもの」と躓きます。安倍傀儡政権のように見えてしまい、マイナスイメージになってしまいました。

しかし、具体策では意外な展開となりました。弱者に冷たい単なるタカ派だと思っていた高市氏に生活者目線からの提案がありました。たとえば、ネット上の権利侵害や侮辱問題対策、女性のホルモンバランス問題と健康支援、障がい者や高齢者の家庭ゴミ回収の個別支援、家計の負担が重いNHK受信料の見直しといったNHK制度改革、さらに、生活保護といった社会制度が申請できるように学校教育の卒業などの節目で社会制度教育の導入を提唱。乳がん検診での痛さ、親の介護でのゴミ出し苦労話も織り交ぜ一般国民が共感しやすい内容。正直驚きました。エネルギー問題にも言及し、輸入化石燃料に4兆円、それを海外に出さず地域の資源を活用した発電にすることで強い地域経済をつくる、いまだに福島産の風評被害について輸入制限をしている国には外交交渉をして「制限解除」させる、と力を込めました。サイバー攻撃は昨年一日で13億6600万回受けていると具体的な数字で危機感を示し、サイバーセキュリティ庁の設置や経済安全保障包括法の構想を語りました。冒頭スピーチは50分、とかなり長く話しましたが、得意な国防に偏らず、生活者目線があり、かつ具体的な提案がありました。

記者との質疑応答は60分。注目の直球質問が15分経ってから出ました。「高市さんは2012年に、弱者のふりをして少しでも得をしよう、そんな国民ばかりがいたら日本は滅びる、といった発言をしている。この言葉から弱者への目線が不足していることへの不安がある。困窮する国民をどうみているのか」。高市氏の過去を知る人が思っていることをそのままぶつけたいい質問でした。

これに対し高市氏は顔色はいっさい変えず「その発言は民主党政権時のこと。生活保護の不正受給が非常に多かった。その問題にどう取り組むかと言った議論の中でした発言」と発言の背景を説明。その上で「現在も事業者支援の中で不正受給はある。大切な税金だから支給は公平、公正であるべき」と自らの考え方を提示。ここで終わるかと思ったら「しかし、どんなに努力しても働けない人、病気の人、介護や子育てで働けない人もいるから支援は必要」とし、自分の問題意識の中心について補足。「子供の貧困対策は必要だと思っている。多子世帯への支援。第二子、第三子への所得制限を撤廃するといったやり方が考えられる」。さらに自らのカラーについて「これが私だ。ありのままの私をみなさんがどう評価するかだ」と背筋を伸ばした。ここでも終わらず、フォロー。「比較的素直なので意見については柔軟に対応してきたと思っている」と自分のよさのアピールで締めくくり。

岸田氏のように曖昧で一般論で答えていない点が一枚上手。相手の質問に回答しつつ、必ず自分の土俵にもってきていました。どの質問に対しても紋切型ではなく自分の考えや体験、総務大臣として行ってきたことを数多く引き合いにして詳しく回答していた点は好印象でした。確かに以前は目元も言葉もきつい方でしたが、この会見では表情も言葉もソフト。表現方法、印象は明らかに変わったといえます。高市氏は本当に柔軟に変身を遂げたのでしょうか。ここを信じられるかどうか。

河野氏、突破力とインパクトはあるが発想力や具体性は?

では世論調査でもっとも人気の高い河野氏はどうだったのでしょうか。残念ながらもっとも期待していただけに準備不足の記者会見でした。冒頭スピーチは15分。語った内容は、「直面する危機を乗り越えたい。ぬくもりのある社会を作っていきたい。・・・・・日本文化を支えているのは日本語と皇室」。危機という言葉から始まったのになぜか「文化」の話になる。今の危機は文化の問題ではないのですが、どこかズレているように見えます。「汗をかいた人が報われる社会、みんなを支えていく、誰一人残さない、そういう国家を作っていきたい」と肝心な部分ではなぜか下を見ていました。この後具体的な国家観の提示になるかと思ったら、「ワクチン接種を7月までに終わらせる、そのゴールを提示された時、正直うっと思いましたが、一日100万回・・・・確実に進み10月の初めにはG7でもトップクラスになる」、言われたことをやっただけ。「行政の認印を99%廃止しました。・・・・みんなができないと思っていたことをやってきた。少しずつ手を伸ばしていけばそれこそ星にでも手が届くよね。みんながそう思えるようになるようなリーダーになりたい」。実績の話だけ。何だか小さい。「若者は将来が不安。将来にむけて年金制度を守るのではなく、将来の年金生活を守らないといけない」。具体的にはどうするのかわからない。「前に進む必要がある。未来のための投資をしていかなければならない・・・日本を前に進めていきたい。改革とは削ぎ落すのではなく、みんなのために便利にしていくこと。それをやるリーダーになりたい」。具体的な制度の提案は皆無で多発した言葉は「みんな」「リーダーになりたい」。身振り手振りパッションはあるのですが中身がない。リーダーになりたくても準備ができていない。

質疑応答は60分。冒頭スピーチに比べると言葉にも勢いがあり、コミュニケーション力の高さは見せていました。ただ、質問さばき術はあるのですが、肝心の内容が簡潔すぎて考えが不明。たとえば、北朝鮮拉致問題についての質問は「外務大臣として私も取り組んだ。解決に向けて全力を挙げる」。何の答えにもなっていない。最も残念だったのは自分の発案による実績を語れなかったこと。「それなりの自信をもってこの場にいるとのことだがどういう自信か」の質問に対して「初当選から25年、小泉内閣では総務大臣政務官、麻生内閣では衆議院の外務委員長、安倍内閣では国家公安委員長、外務大臣、防衛大臣・・・それなりの実績を残してきた」とポジションを列挙するのみ。ここは1つでもいいから自分が「発案」して実行してきた実績を述べる必要がありました。

「他の候補者と比較した場合ご自身の強みはどこですか」、この質問は嬉しかったのでしょう、珍しいことに最初に感謝の言葉を入れて即答。「ありがとうございます。実行力、突破力がある点は誰にも引けを取らない。世界最速でワクチン接種を進めた。調整力もある」。強いリーダーとしての印象を残すことには成功していました。与えられたミッションは実行力があるのでしょう。ただ、どこに引っ張っていくのか最後までわかりませんでした。リーダーになりたいだけの人だったのかと落胆させる会見でした。

立候補表明会見の準備では岸田氏と高市氏が勝っていました。表現力やインパクトの強さでは高市氏と河野氏。説明の丁寧さでは岸田氏と高市氏。岸田氏は自分の良さをアピールできる言葉を使えるか、高市氏は従来のイメージを払拭しきれるか、河野氏は中身のあるビジョンを示せるか。他の立候補者も出るかもしれません。引き続き追いかけます。

<メディアトレーニング座談会>

石川慶子MTチャンネルより。MTはメディアトレーニングの略。

上記記事とは別の視点からトーク解説。

チャンネルトップはこちら。

https://www.youtube.com/channel/UC_IwJ6nmAxWzCj1MzAO45Lg

<リスクマネジメントジャーナル>

(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会)

上記個人ニュースでの解説をほぼ丸ごと口頭で解説した動画

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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