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楽天がYouTubeで決算説明会、圧巻の社員総出演プレゼンに潜む「見せ方」リスク

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:つのだよしお/アフロ)

2020年11月15日にアップされた2020年度第三四半期のYouTube動画はユニークでした。約20名の執行役員やグループ会社社長が次から次へと登場し、プレゼンテーショントークを展開したのです。お堅い決算説明会のイメージを覆し、親しみやすさを演出したいといった姿勢がみてとれました。ただ1回の試みかと思いきや、2021年2月12日アップの2020年度通期及び第4四半期決算説明会も同様の演出であったため、今後この形式が続くのだろうと思いました。この試みそのものは高く評価したいのですが、残念ながら全体の「見せ方」には課題があります。これを見て、表現リスク感性の鈍さは、森喜朗元総理や菅義偉現総理だけではなく、日本人全体の課題だと改めて感じました。リーダーカンパニーには、業績だけでなく、表現力においてもお手本になってほしいと思います。1回目と2回目の決算説明会動画内容を比較しながら「見せ方」リスクについて解説します。

全体の組み立て力、服装演出、ボディランゲージ、表情と声、と4つの視点から課題と改善方法についてまとめます。

まず、全体的な観点からすると、背景の資料はよく作りこまれているのに、プレゼンテーションをする個人の魅力が最大化されていない部分に見せ方のマネジメントができていないと感じました。また、上手い人とそうではない人の落差が大きすぎて違和感が残りました。約20名も出すのであれば、全員訓練をしてレベルを上げる必要があったのではないでしょうか。

服装についていえば、1回目は全員ノーネクタイでしたが、金融会社はネクタイをして信頼感の演出をしてもよかったのではないでしょうか。おそらく社長に全員が合わせてしまったのでしょう。かえって没個性となってしまいました。一人ひとりの魅力を最大化することで企業の魅力をアピールする戦略で組み立てた方がよかったと感じます。2回目はネクタイ姿の方もいましたので、自分の魅力の出し方を工夫した方もいましたが、あくまでも個人の気づきだけであり、会社全体としての見せ方戦略は打ち立てられていないようです。特に、ボディランゲージについては、棒立ちになってしまったり、手を上げても曲がっているがゆえに自信がないように見えてしまう場面が多々ありました。また、表情が乏しいが故にアピール力が欠けてしまう人もいました。

では、具体的にどうすればよかったのでしょうか。30年以上経験のあるトップスタイリストの高野いせこ氏は、「三木谷社長は普段のイメージは全体的に清潔感があり、仕立てのよい服を着用なさっている印象です。1回目の決算説明会動画では、ジャケット着用していたのでさらに品格と信頼を表現するために、ポケットチーフを活用したらよかったと思います。(具体的な入れ方は下記の解説動画を参照)2回目の動画ですが、ジャケットなしでTシャツなのかカットソーを着用されています。おそらく高級な素材なのでしょうが、動画では残念ながら生地の素材感、高級感を表現することはできないのです。そもそもこの髪型と服の雰囲気が合っていない。全体のバランスを考える必要があります。ここは相手がスーツなのですから、やはりジャケットだけは着用した方が見え方のバランスがよかったと思います。ジャケットなしの場合はせめて襟付きのシャツを袖まくりせずに着用すれば相手に失礼ではないでしょう。一枚で見せるのはとても実は難しいのです。」と述べました。

歩き方やボディランゲージを専門とするスマートアクトディレクターの鷹松香奈子氏は、体の使い方についてこう述べています。「ボディランゲージは、伝える内容を更に積極的に聞いてもらうための演出方法の一つです。ボディランゲージで大切なのは、立ち方と手です。カメラに対して真正面に立つのではなく、体を少し斜めにすると立体感が出ます。三木谷さんは、1回目のプレゼンテーションで、よく手を動かしていたのですが、両手を開いたり閉じたりで同じ動きの繰り返しで、リズムをとっているようにしか見えませんでした。真正面に立たず、重心を変えるとこの動きは止まると思います。2回目は、インタビュー形式になったので自然な語り方になったのはいいのですが、座り方がだらしない。肩が上がって体も曲がってしまっていました。これでは横柄に見えてしまいます。背もたれに体をつけず、しっかりと腹筋を使って座りましょう」

表情と声を専門とする自己演出プロデューサーの山口和子氏は、座り方を受けて次のように指摘しました。「三木谷さんの座り方ですと声が前に出ないですね。椅子には浅く座った方が声が前に出ます。1回目よりもリラックスしていたので2回目をインタビュー形式にしたのは演出上はプラスだったと思います。女性は二人しかいませんでしたが、そのお二人はとても表現力が豊かで内容がよく伝わってきました。IR部長のアルトマンさん、声が低くスピードもちょうどよい。日本人はわりと高い声で勢いよく話をする傾向がありますが、信頼感演出のためには、落ち着いた声を出すことは大切な要素になります。女性はなかなか難しいのですが、そこをクリアしていると思いました。服は1回目赤、2回目白と大きく変化、背景に近い色だったので同化して見えてしまっていました。社長よりも目立たせないなどの演出意図があったのか、とも思ってしまいました。もう一人の女性の常務執行役員の河野さんは、口角が上がって、滑舌もよく、聞き取りやすい声でしたし、話の要所要所でも口角を上げていましたので好印象です。女性はお二人とも全体的に好印象で自己演出では工夫をしていたと思います」

動画は、その人の雰囲気を全て表現してしまいます。今後も動画配信される決算説明会は増えてくるでしょう。その際、資料の作りこみだけでなく、人の表現力についても同じ程度に力を入れ、それぞれの魅力を最大化すると同時に誤解を招く癖や表現リスクをマネジメントし、信頼される企業としての見え方を工夫すれば、企業を支えるステークホルダーは増えるのではないでしょうか。

メディアトレーニング座談会 決算説明会

YouTubeで配信された楽天の決算説明会動画を見ながら、ポイントになる部分の解説をしました。解説動画は3回に分かれています。

1回目全体戦略と三木谷社長 全体の見せ方課題

https://www.youtube.com/watch?v=Ii7C-mJ6kgI

2回目社員のプレゼンテーション 注目した人

https://www.youtube.com/watch?v=2wZH4lq4TIg

3回目三木谷社長のファッションチェック 何か1つ足りない

https://www.youtube.com/watch?v=KTwWSnuDdLQ

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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