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演出が残念すぎたファーストリテイリング決算説明会 好業績なのにイメージダウンの理由

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

企業の決算説明会におけるリスク開示は、ステークホルダーとのコミュニケーションにおいて最も重要な場面だろうと思います。決算説明会の動画配信は既に多くの企業が導入しています。リアルの決算説明会を同時、あるいは後から自社のホームページ上のIRコーナーに動画として掲載するのはごく一般的になっています。つまり、誰もが見られるということです。特にコロナ禍においては、リアル開催せず、オンライン開催のみになる傾向があります。企業の広報部からは、決算説明会での効果的なプレゼンテーションについて問い合わせを受ける頻度も高まってきています。そこで、今回は株式会社ファーストリテイリングの決算説明会を取り上げて、表現におけるリスクマネジメントの観点から解説します。

登壇者と資料表示がアンバランス

ファーストリテイリング社は、ユニクロやジーユーを展開し、私達にとっては身近な会社だろうと思います。2008年に私が同社広報部に取材した際には「いい情報も悪い情報も何でも相談されるような広報部でありたい」と責任者が語り、「リスクに向き合うこの姿勢が会社の原動力なんだろう」と感銘したことをよく覚えています。トップの柳井正氏は、メディアでの露出も多く著名な実業家。柳井氏執筆の「一勝九敗」の内容は大いに賛同したため、私が中学校PTA会長だった時、卒業式での祝辞で言葉を紹介したほどです。期待が高かったからなのか、決算説明会の演出が残念すぎました。

1時間の内容。前半30分は、CFO岡崎氏による業績数字の説明。同社は2020年の緊急事態宣言下では、営業を続け、新規出店も予定通り行い、業績は当然のことながら、それほどの落ち込みがなく、配当も予定通り。岡崎氏は原稿を読んでいるものの、要の部分で顔を上げてアイコンタクトをとっていましたので、好感度はありました。しかし、パワポ資料の文字が小さく、かつ文字量が多い。表示資料の小さい文字を追いかけて疲れてしまいました。表示資料の文字量を減らし、ポイントを絞った方がよかったと思います。

後半がいよいよ柳井代表。どのようなメッセージなのかとワクワクしていましたが、残念なことに、ずっと下を見て原稿を読んでいました。こちらの表示資料はキーメッセージだけが表示されて、言いたいことはわかりやすかったのですが、楽しみしていた柳井氏は一度も顔を上げなかったために、がっくりとしてしまいました。原稿を読む柳井代表は初めて見たような気がします。しかも、原稿を読む際に何度も「あの」を入れるために、力強さに欠けていました。何を考えてこのような組み立てにしたのでしょうか。演出に手を抜きすぎではないでしょうか。トップの魅力を最大限ステークホルダーに見せる機会を台無しにしています。

原稿読みが苦手なら他の演出を

ウォーキングプレゼンテーションやボディランゲージを指導しているスマートアクトディレクターの鷹松香奈子氏は、「着席型のオンライン説明会とはいえ、あまりにもボディランゲージがなさすぎます。アイコンタクトや間を作るだけでもコミュニケーションはできるのでもう少し努力をした方がよいと思いました。柳井さんは著名人ですし、かっこいいといった印象を持っていたので、この決算説明会ではイメージダウンになってしまうと思います。原稿の読み方も気になりました」と述べています。

原稿の読み方は意外と難しいものです。私自身もどちらかというと原稿を読むのが苦手。どうしても読まなければならないシーンでは、何度も練習して、苦手な音に慣れておきます。柳井さんの読み方も訓練次第なのでしょうか。原稿の読み方を指導している自己演出プロデューサーの山口和子氏に聞きました。

「私は見てすぐに、柳井さんは原稿が読めない方なのだな、と思いました。こういった方は結構いまして、有名な人ではトム・クルーズがいます。一般的にディスレクシアと言われていますが、柳井さんがそうなのかはこれだけではわかりません。今回ですと、たとえば、『マザー工場の役割を担います』は、強調したい部分だろうと思いますが、『マザー工場の、あの、役割を、あの担います』となってしまうが故に自信がないように聞こえてしまいます。とても残念な印象が残りました。私は原稿の読み方をレッスンしていますが、努力して読めるケースとそうではないケースがあります。対応方法はケースごとに異なります。柳井さんは、インタビューでは顔を上げて堂々と語っていらっしゃいますから、ご本人が苦手な原稿を読むといった形ではなく、他の方法を考えたらよかったと思います」

決算説明会はステークホルダーに企業の姿を見せる重要な場面です。企業は、登壇者の魅力を最大化するための工夫がもっとあってもいいのではないでしょうか。華美な演出は必要ありませんが、最低でもイメージダウンにつながるリスクは排除する努力はしてほしい。リーディングカンパニーとして今後のトップ演出を期待したいと思います。

「メディアトレーニング座談会①決算説明会 ユニクロ」

スマートアクトディレクターの鷹松香奈子氏、自己演出プロデューサーの山口和子氏、筆者3名による解説トーク(石川慶子MTチャンネル)

<参考サイト>

2020年10月15日発表 2020年8月期期末決算説明会

https://www.c-hotline.net/Viewer/Default/FARE539d9617cde8d6f57432a22de7ce3a15

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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