司法取引は誰のためのものか、ゴーン事件で華々しく広報された制度の今後は?

 有価証券虚偽記載疑惑から始まったゴーン事件の本質的な問題は、企業のリスクマネジメントの観点からすると、カリスマ経営者へのチェック機能不全だといえます。その意味では、本来は企業の中で解決するのが理想です。ただ、「言えない文化」が横行する日本の組織風土の中ではトップをチェックする機能を成立させるための道のりは遠く、トップ関与の不正が繰り返される温床になっているのかもしれません。ゴーン事件で華々しく広報された司法取引は、不正あぶり出し機能として日本に定着するのでしょうか。

 司法取引は、共犯者が情報提供することで不起訴にしてもらう取引で、日本版司法取引は2018年7月に報道されている三菱日立パワーシステムズが第一号案件と言われています。この時の司法取引は、会社側が司法取引をして現地公務員に賄賂を提供した元幹部を在宅起訴に持ち込んだのですが、法人が社員の不正について司法取引とは、管理責任のある会社がなぜ司法取引なのかやや違和感をもちました。一体司法取引とは会社の経営者が行うものなのか、と。また、この報道があまりにも地味で司法取引の広報としてはわかりやすいとはいえませんでした。一方、ゴーン事件は空港での逮捕劇はセンセーショナルでショックを与えるのには十分なインパクトでした。そして、同日夜に日産が記者会見を行っていることから、日産側は用意周到であったことはわかります。共犯者である日産という会社、あるいは役員によるトップ告発の司法取引はわかりやすいといえます。その後も、ゴーン事件での司法取引の内容は小出しに報道されていきました。一度に情報を出さず少しずつ出すことで関心を高めていく手法が使われていました。その意味でゴーン事件を活用した日本版司法取引の広報は成功したのではないでしょうか。

 しかしながら、日本版司法取引とは、誰のための制度で、実際には誰がどう使うものかがよくわかりません。共犯者が使うのなら、権力闘争に使われるリスクはないのでしょうか。また、企業側は危機管理の観点から司法取引をどう考えたらよいのか、については議論は深まっていないと感じます。そこで今回は、元検事の村上康聡弁護士と司法取引を行う場合のリスク、海外との違い、今後日本で定着するのか、社員が行う際の注意事項について対談形式*でお話を伺いました。日本においては個人のための取引というよりも組織犯罪摘発の目的が強いとのこと。ゴーン事件絡みで司法取引という言葉の露出機会は増えましたが、不祥事摘発のための活用にはまだ事例を積み重ねる必要がありそうです。

*対談は、私が2年前から開始した「リスクマネジメント・ジャーナル」番組にて。この番組は、記者会見解説やリスクマネジメント視点を磨くことを目的として日本リスクマネジャー&コンサルタント協会の相馬清隆事務局長と手作り発信です。今回はヤフーロッジスタジオで撮影して提供します。

前半

司法取引とは

第一号案件三菱日立パワーシステムズでの使われ方は正しいのか

ゴーン事件での使われ方は正しいのか

社員が行う場合のリスク

後半

司法取引をする人はどのように行動すべきか

個人ではやりにくい、会社とタイアップしないとできない

日産も会社と連携した司法取引

海外での事例、自分の犯罪についての取引

日本は組織犯罪を想定した使われ方

日本版司法取引と欧米の司法取引との違い

村上康聡(むらかみ やすとし)氏略歴

太陽コスモ弁護士事務所 弁護士

昭和57年中央大学卒業、昭和60年検事任官、その後、東京地検、那覇地検、米国SEC・司法省での調査研究、外務省総合外交政策局付検事、内閣官房内閣参事官、東京地検刑事部副部長、福岡地検刑事部長等を経て、平成19年弁護士登録。その後、株式会社グローバルダイニング監査役、日弁連国際刑事立法対策委員会副委員長。主な著書「海外の具体的事例から学ぶ腐敗防止対策のプラクティス」(日本加除出版)「企業不祥事が生じた場合の適時開示について」(PwC’s View 4号)等

【参考サイト】

ゴーン事件は日本版司法取引の広報か(あの記者会見はこう見えた~クライシスコミュニケーションの視点から RMCAコラム 2019年1月)

 https://rmcaj.net/labo/isikawa33/

ゴーン元会長事件、司法取引はスピード合意、証拠140点(日経新聞 2019年12月29日)

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53979940Y9A221C1CR8000/