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「みんな同じ顔」近親交配の本当の怖さとは? 猫38匹・多頭飼育崩壊で起きたこと

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

仙台市内のある住宅で38匹もの猫が劣悪な環境で暮らす「#多頭飼育崩壊 」が起きました。9月16日、仙台市の愛護団体が繁殖し過ぎた猫の保護に着手しましたとtbc東北放送が伝えています。

38匹の猫たちは、みんな同じような顔をしているそうです。つまり#近親交配 が起こっていたのです。

多頭飼育崩壊で起きた近親交配について考えてみましょう。

多頭飼育崩壊の現場での捕獲

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多頭飼育崩壊の現場は、70代の女性が一人で暮らすある住宅で、アンモニア臭が充満し猫の毛や排泄物などが層になって固まっていた劣悪な環境だったそうです。愛護団体の人の捕獲に同行した記者は、以下のようにいっています。

記者が、階段の上の方から視線を感じました。

「うわぁ、めちゃくちゃ見てますね。すごい見てる。みんな同じ顔ですね」

「みんな同じ顔」という意味は、多頭飼育崩壊の現場で猫の近親交配が行われていたということです。

猫の近親交配は起こるのか?

多頭飼育をしている人は、猫は近親交配をしないと考えているのでしょうか。そこまでのことを考慮しないのかもしれません。

猫は、不妊去勢手術を受けない場合、狭い閉鎖的にいると、親子やきょうだい同士で交配し、妊娠することがあります。

野生の場合、性成熟すれば親元を離れて独自の領域で生活します。このような多頭飼育崩壊現場では、不自然な環境になるので、近親交配を引き起こし、記者が驚いた「みんな同じ顔」の猫が生まれるのです。

近親交配の何が危険か?

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近親交配は、遺伝的に重要な問題を引き起こす可能性があります。

・遺伝的な疾患が増える

近親交配を繰り返した場合、一般的な交配では劣性遺伝のため発現していない生存に不利な遺伝子が出てきやすくなります。

俗にいう血が濃くなると、遺伝的な疾患が発生しやすくなる可能性があがるのです。

・免疫系が弱体

さらに、近親交配により多様な遺伝子が入って来ないので、免疫系の多様性も低下します。これは、感染症への耐性が低下し、免疫系も弱くなる可能性があります。

以上のように、近親交配は遺伝的多様性の低下、遺伝的異常の増加、免疫系の弱体化、適応力が低下するかもしれません。

したがって、適切な交配でないとこのような問題を孕むのです。

多頭飼育崩壊の猫を保護した場合

さくら猫のイメージ写真
さくら猫のイメージ写真写真:イメージマート

保護団体のメンバーは、多頭飼育崩壊現場から保護した猫に対し、健康チェックと不妊去勢手術を行った上で里親を探します。

この作業は非常に手間がかかります。性格のおおらかな猫は、里親を見つけやすいことがありますが、同時に近親交配の可能性があることを伝える必要があります。里親になる際、その猫たちには終生飼養をしてほしいからです。

これらの猫を保護したいという気持ちは非常に重要ですが、近親交配の猫は、上述のように、他の猫と比べて病気のリスクがあり、免疫力の低下があることがあります。

そのため、これらの事実を初めに理解してもらうことは、里親になった際に、覚悟を決めてより適切なケアを提供できる可能性を高めるのです。

まとめ

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多頭飼育崩壊は、飼い主がかわいいからという軽い気持ちで飼い始めて、不妊去勢手術をしないと起こってしまいます。

多頭になりすぎて、不妊去勢手術をしようとしたときには、猫が増えすぎて経済的困窮などで、この手術ができず、ますます猫の数が増えるということが起こるのです。

多頭飼育崩壊になると、猫が生活している環境が不衛生でゴキブリなどの昆虫やネズミが多量に発生したりします。近隣住民も衛生的ではない状態になることもあります。

それだけではなく、狭い空間に入れられて「近親交配」が繰り返され遺伝的な疾患を持ち元気で暮らせない子が出てくる可能性があるのです。

猫を飼う人は、猫が好きで一緒に暮らすのでしょうが、このようなことも考えて不妊去勢手術をしましょう。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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