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捨て犬が「野犬の群れ」になり“かみつき被害”で住民は恐怖の日々。地域犬にできないのか?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

テレ朝NEWSは、山口県周南市の周南緑地公園の周辺のマンションの駐車場が野犬のすみかになり、近隣の住民が野犬にかまれる被害が相次いでいると伝えています。

この野犬は、自然にいたものではなく、人間が遺棄したものが繁殖したものです。野犬には、なんの罪もないです。野犬を野良猫のように、不妊去勢手術をして地域犬にできないのかを考えていきましょう。

山口県周南市の野犬の問題とは?

山口県の周南市に野球場やサッカー場などの施設がある大きな周南緑地公園があり、そこに首輪をしていない野犬の群れがいるそうです。

その公園だけではなく、住宅街のマンションまで野犬が出没して、周辺の住民をかむなどの被害が出ています。

なぜ、ここまで増えたのか?

テレ朝NEWSによりますと、公園の施設関係者は以下のように話しています。

公園の施設関係者:「そこに駐車禁止の看板があると思うけど。そこで(車の)スライドドアをバっと開けて、(エサを)バッとまいて」「(Q.スライドドア開けて、乗った状態で?)バッとエサをまく。同じ車なので、エンジン音か車の形を覚えているのか、(野犬が)山から下りてくる」

つまり、餌を与える人がいるのです。

そして、野犬は、スライドドアの車のエンジン音が聞こえると寄ってくるのです。それは、車でやって来て、ドアを開けて餌をまいている人がいるからだということです。

野犬が寄ってくる行動は、条件反射といわれるものです。

条件反射は、生理学者イワン・パブロフによって発見されたもので、動物において、訓練や経験によって後天的に獲得される反射行動のことです。

パブロフの犬という言葉を聞いたことがあると思います。

パブロフは自分の犬に餌をあげるときに鈴を鳴らすようにしました。そして鈴を鳴らしたら犬は餌をもらえるというふうに覚えこませて実験をしました。

犬は反復によって鈴を鳴らすと、鈴の合図が餌の時間だと思い込んでくるのです。そして最終的には鈴を鳴らすだけで、餌を見せてなくても犬は餌の時間だと思ってよだれをたらすします。これがパブロフの犬の条件反射です。

この周南市の野犬はパブロフの犬と同じように、スライドドアの車のエンジン音を聞くと、餌がもらえるように思い寄ってくるのです。この野犬の行動から、複数回にもわたってスライドドアの車で餌をあげる人がいることがわかります。

地域猫のように地域犬にすれば?

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イメージ写真写真:イメージマート

この群れになっている野犬を地域猫のように地域犬にすればいいのでは、と考える人もいるでしょう。

地域猫は、特定の地域で、人間によってお世話がされている野良猫のことです。ほとんどの子が、TNRをされています。

TNRとは「Trap(捕獲)、Neuter(不妊手術)、Return(元の場所に戻す)」の頭文字です。

だから、この野犬もTNRをすれば、いいのではということになります。TNRをして地域猫ができるのは、猫には、狂犬病予防法が適用されていないからです。

犬には、狂犬病予防法があり、規定する予防注射を受けず、若しくは注射済票を着けていない犬があると認めたときは、これを抑留しなければならないからです。

もし、猫のようにTNRをしても毎年、狂犬病予防注射をする必要があります。

こんなことを考えると、いまの日本の現状から野犬を地域犬にするのは、難しいですね。

野犬を地域犬にする難しさは行動学から考えると

撮影は筆者 『ストレイ 犬が見た世界』のパンフレットより
撮影は筆者 『ストレイ 犬が見た世界』のパンフレットより

筆者は、猫が外で暮らすということは、過酷な環境なので完全室内飼いがいいと考えています。全部の野良猫の室内飼いはできないので、解決策のひとつで地域猫があると思います。

猫は、群れを作らない動物なので、数多くの地域猫がいても、群れで人を襲うことはあまりありません。地域猫で一番問題になっているのは排泄物の問題です。

その一方、犬は群れ社会の動物です。群れを成して行動をします。上述のように、スライドドアの車のエンジン音を聞きつけて群れてやってきて、餌を探すのです。

そのため、定期的に餌を与えていないと、群れが大きくなり人が襲われることが多くなります。

「10万匹以上の野良犬がいて、捕獲と殺処分が違法である国の映画『ストレイ 犬が見た世界』とは?」に書きましたが、トルコのように定期的に餌をあげて不妊去勢手術をして狂犬病予防注射を打っている国なら、地域犬はやっていけるかもしれませんが、犬は群れを作るという行動があるので、地域猫のようには簡単にはいかないのです。

野犬をどうすれば?

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イメージ写真写真:イメージマート

野犬には、なんの罪はないです。

このままの状態で放置していると、近隣住民が、犬に襲われる、かまれるということが増えます。犬が得意ではない人は、怖くて外を歩きにくくなります。

山口県の行政は、狂犬病予防法に基づき、野犬を抑留しなければなりません。自然の中にいるので、抑留は難しいとは思いますが、餌をやっている人に協力してもらうといいかもしれません。

餌をやっている人がいると、野犬は減らないで繁殖をします。テレ朝の動画を見ると、白や茶色の犬がいて似ている犬が多いので繁殖をしているように推測されます。

餌をやることはやめて、野犬を減らしましょう。望まない犬を増やすことは、よくないです。

野犬は自然のものではないので、人間が遺棄したものです。いまコロナ禍で新規に犬を飼う人が増えていますが、このようなニュースの動画をよく見て、もう一度、15年以上生きる犬を飼い続けることができるのかを考えてください。

人間をかんでしまう野犬は人間が作り出してしまったものなのです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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