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【獣医師の告白】飼い主が認知症かも。犬の診察を通してわかるある事柄とは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

人間は、年をとるほど認知症になりやすくなります(犬や猫もそうです)。

厚生労働省によりますと、日本における65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年現在)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されています。

超高齢社会の日本では認知症はそう珍しいことではありません。小動物臨床をしていると、飼い主が認知症になったかもといえる事柄がありました。

今日は、犬の診察を通して、飼い主の異変がわかった話をご紹介します。

なぜ、はるちゃんの体重が増えたのか?

写真:イメージマート

ここ最近、毎週、診察にやってくるYさんのミニチュアシュナウザーのはるちゃんがいます。

はるちゃんは、いまのところ、少し肝臓の血液検査の数値が高くなり始めているので、厳重な体重管理をしています。

なぜ、体重測定をするかというと、急速に体重が増えたためです。

もちろん、不妊手術をしているので、あまり動かなくなり食欲旺盛になるのですが、どうもそれだけではないのです。6キロ程度だった体重が、数カ月で10キロまで増えてしまったのです。犬の体重が4キロ程度増えたと読んでも、そんなにびっくりされないかもしれません。しかし、人間に置き換えてみますと、60キロの人が100キロになったのと同じことになるのです。

Yさんのところは、親子、そしてお孫さんまで動物病院にやってくる家族で、代々と犬の診察を受けています。はるちゃんの前の犬もミニチュアシュナウザーでしたが、肥満になるほど太っていませんでした。しかし、はるちゃんはこんなに太ってしまったのです。

はるちゃんが、毎日、盗み食いをしていただけではありません。その理由は、Yさんのお母さん(80代)にドッグフードもらっていたのです。

はるちゃんが、ほしがるのでね

不妊手術をしてから、数カ月にぶりに見たはるちゃんは、丸々と太っていました。

「こんなに太らしたら、先生に怒られる」とYさんは、体重計にはるちゃんを乗せました。そのときは、2キロ太っていました。

筆者が、どのように指導をしようか、と悩んでいると、Yさんは「私が仕事に行っている間に、母がね、はるにあげるんですよ。ほしがっているので、ドッグフードをあげるのを忘れたかな、と思って何回も」と畳みかけるように話しました。

つまり、元来、食欲旺盛のはるちゃんは、Yさんのお母さんが忘れることをいいことに、何度もフードをねだったのです。

はるちゃんにすれば、要求をすれば、いつでもドッグフードが出てくるので、こんな嬉しいことはなかったのです。

Yさんは、どうしたものかと悩まれていました。そこで、ドッグフードはYさんがしっかり管理することになりました。

家族に認知症の人がいた場合は

写真:イメージマート

いまは、Yさんがはるちゃんを連れていますが、以前は、Yさんのお母さんが先代のミニチュアシュナウザーを連れてきていました。Yさんのお母さんは、よく笑い明るい人でした。Yさんのところは、もう30年以上はミニチュアシュナウザーを飼われている愛犬家の家庭です。

Yさんのお母さんは、犬がかわいいのでついついあげてしまったのです。認知症なので、仕方がないです。そういう場合は、以下のように工夫をしてみましょう。

ペットフードの管理は、家族の人がする

ペットフードが減っていないか、おおよそのグラム数を把握する

「ペットフードはあげない」と張り紙をする

「オヤツはあげない」と張り紙をする

犬や猫のことは、心配しないでも大丈夫で、ちゃんとペットフードをあげていると何回も認知症の家族に話す

などをしてもらっています。そのためYさんのはるちゃんは、体重が少しずつ減ってきています。

なぜ、犬や猫を太らすとダメなの?

犬や猫を太らすと、そんなにダメなのと思われるかもしれません。目が覚めたら、太っているということはないのですが、だんだんと肥満になります。少し丸みがあった方がかわいいかもしれませんが、病気のリスクが増えるのです。以下の病気になりやすくなります。

□糖尿病

□心臓病

□肝臓病

□関節炎

などがありますので、人間でいうところ生活習慣病になりやすくなるので、体重管理は大切です。

Yさんはお母さんの様子を報告してはるちゃんの体重測定

写真:アフロ

毎週、はるちゃんは体重測定にやってきます。「私は、元気なのにね」という顔しながら、筆者の前に現れます。

「私が、ペットフードの管理をするようになってから、体重が減ってきました。母もあまりやったら、ダメだということはわかっているのですけれどね。はるが食べていないような顔をして、あげるとペロリと平らげるので」とYさんは、言われました。

Yさんは、お母さんの様子を報告して、はるちゃんの体重を測定にきます。動物病院で、お母さんの話をされると、気分転換にもなっているそうです。

ひとつの家族の犬や猫を代々と診察させてもらっていると、異変に気がつくこともあります。Yさんのころでは、3代続いて犬を診察させてもらっていますが、そんな肥満になるほど太った犬はいませんでした。

犬や猫は、言葉を話しませんが、体重で、家族内の異変を教えてくれたのです。

日本は超高齢社会ですが、みんなで高齢者を見守っていく気配りが重要です。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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