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異性はなぜ自分と違うタイプに惹かれるか

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
photo by Tatsuhiko Ishiduka

あいつらはなぜモテるのか

モテる男子ってのは、だいたい何か個性的な才能をもってますね。スポーツだったり音楽だったり。

女子の場合は、容姿も大事ですけど、それ以上に愛嬌があったり明るかったりするタイプがモテるようです。女性アイドルなんてのは、だいたいそうしたタイプの典型です。

では、まず最初に、モテるっていったいどういうことなのか、遺伝子の方向から考えてみたいんですが、実は私、中学高校時代、友人たちとバンド組んで下手なベースを弾いてました。いや、もったいつけるような話ではなく、モテない地味な男子だったんですが、バンドやるようになるとバンド仲間の先輩たち、いわゆるモテ男たちと知り合いになれます。

こっちはダサダサなんですが、人気のあるバンドのメンバーってのはマジで格好良かった。彼らの周辺にいる女子たちも可愛い子が多かったですね。

そんなローカルなアマチュアバンドでさえそうなので、メジャーなプロの人気アーティストにグルーピー、今はバンギャっつーんですか、キレイな女の子たちが群がってるのも当然です。

そうした女性の中には、魔性の女、とても魅力的な「いいオンナ」がいる。

アーティストをときに惑乱させ、ときに霊感を与える女性というのはいるもんで、有名なのはジョージ・ハリスンとエリック・クラプトンの夫人だったパトリシア・アン・ボイドでしょうか。

彼女の存在は、ハリスンに『サムシング』を、クラプトンに『レイラ』を作らせた。ジョン・レノンやミック・ジャガーあたりもボイドに惹かれていたらしく、彼女は常にアーティスト連中の色恋沙汰の中心にいたようです。

とんでもなく魅力的だったらしいこの女性をめぐり、多くのアーティストが争奪戦を繰り広げたわけだけど、逆に言えば、そういう「いいオンナ」たちが周囲に集まってくるのが有名ミュージシャンということになる。

つまり、彼らはモテるんですよ、私たちの想像を絶するくらい。

ボイドをカミさんにしたジョージ・ハリスンとクラプトン、ボイドに惚れてたレノンやミック・ジャガー。こうした連中の写真を見たらわかりますが、そんなハンサムでもないし、ボイドだって超美人、ゲキマブじゃありません。

この話に出てくる男性陣は多士済々だけど、ボイドに音楽の才能がなかったのは確かだし、「色男金と力はなかりけり」とか言うように、モテる男が必ずしも才能豊かで美形というわけじゃない。

むしろ「え、どうしてあんなブサイクな下衆野郎に」ってタイプの男がモテたりします。才能や金、顔かたちというより、ある種の「オーラ」が出てるんでしょうね。

お、これには何か理由がありそうじゃないですか。モテモテ遺伝子とかね。

女性は赤い色に惹かれる?

このオーラとはいったい何か。モテるためにはどうしたらいいか。モテる人間には共通点があるのだろうか。

こうした疑問は、古今東西の研究者を魅了してやまないテーマだったわけで、いろんな仮説が出されては消え、あるいは信じられてきました。

いわく、左右の対称性が高い個体がモテるとか(*1、英国ノーサンブリア大学のJohn T. Manning博士らの論文)、背の高い男性や薬指の長い男性がモテるとか、ウエストとヒップの比率が7対10の女性がモテるとか、とまぁ、たくさん出てくる。

脊椎動物のほとんどの生物のメスは、赤い色をまとったオスに惹かれるので、人間も調べてみたら同じだったという報告もあります(*2、米国ロチェスター大学の研究者らによる論文)。この実験によれば、女性は背景が赤かったり赤い色の服を着た男性の写真のほうを性的に魅力的だと感じ、社会的なステータスも高いと思うようです。

つまり、モテたいんなら赤い服を着ろということ。

そう言えば、Jリーグでも強いのは、赤いユニフォームのチームだったりします。あ、これはモテるのとは無関係ですが、もしかしたら何か理由があるのかもしれません。赤いユニフォームのほうが、相手を威圧するから強いとか。

では、モテモテ遺伝子、つまり異性を惹きつけるための要素を作り出す遺伝子ってのは、実際にあるんでしょうか。

もし、それがあるとして、外見的な理由でモテ度が違うということなら、性淘汰の結果、モテる外見の同じような人ばかりになってしまうでしょう。

でも、男性の薬指がどんどん伸び、女性のウエストは細くなっていかなきゃならないのに、そうはなってない。赤い服を着ればモテるなんて単純な話なら、誰も苦労はしません。

実際、背の高さに関係する遺伝子は見つかっているわけで(*3、ヒトの身長を決めるHMGA2遺伝子についての英国の研究)、背の高い男性がモテるなら女性の好む高さまで男性の背が高くなるはずです。鳥類のクチバシを伸ばす遺伝子もありますから(*4、ダーウィンフィンチのクチバシについての米国ハーバード大学の研究者らによる論文)、性淘汰されれば異性の好み通りの顔になるということになる。

でも、女性の好みの顔や体型の男性ばかりじゃないのは、自分を含めて周囲を見渡せばわかります。

また、社会的ステータスが高かったり、経済的な成功をおさめている男性もモテます。

でも、女性が子育てのため、得物をより多く捕ってくる男性に惹かれるのと同じ動機かどうかはわからない。では、経済的な面と遺伝子との関係は、ここではちょっと脇に置いておきましょう。

一方、音楽や舞踏のような身体的表現をするアーティストには、そうした能力を発揮する遺伝子があるのかもしれません。

女性がそうした男性に惹かれるのなら、その遺伝子がモテモテ遺伝子なのでしょうか。じゃ、その正体はいったい何か、考えてみましょう。

多様性こそがモテる秘密

多くの脊椎動物には、免疫系のシステムがあります。これも遺伝子によって作られている。このシステムのおかげで病気への抵抗力があったり、がん細胞の増殖を抑えたりすることができるんです。

人間には、今のところわかっているだけで224種類という数の免疫関連遺伝子があり(*5、1999年に発表された米国の研究者らの遺伝子地図による)、それらの遺伝子のパターンはとても多種多様、膨大な数の組み合わせがあります。

また、こうした免疫関連遺伝子には優性劣性の別がありません。父親由来の免疫関連遺伝子も、母親からもらった免疫関連遺伝子も、相互優性による免疫システムになってるんですね。

そのため、男性と女性で重なり合わず、それぞれ違う遺伝子を持っていれば、二人の間にできた子どもが対抗できる病気の数は増えます。

たとえば、仮に父親が破傷風に強い免疫遺伝子をもっていて、母親が結核菌に強い免疫遺伝子をもっているとすれば、その間にできた子は破傷風にも結核にも強い体質を持つというわけ。

人間以外の生物では、なるべく違う組み合わせになるよう、フェロモンなんかを使ってセックスする相手を探しているようです。近親交配を避けるのも同じ理屈かもしれません。

じゃ、人間はどうなんでしょうか。

汗のしみこんだTシャツを学生たちに嗅がせた実験によると、人間もどうやら自分と違う免疫パターンの異性に惹かれるらしい(*6、スイスのベルン工科大学の研究者らが行ったMHC遺伝子についての調査)。

違うパターンのにおいに好感を持つというわけです。これは男女とも同じような結果が出たそうで、このにおいのパターンの違いがモテモテ遺伝子なのかもしれません。

だとすれば、その男性の免疫パターンが、周囲の女性たちが持つ免疫パターンの多数派と違う場合、その男性はモテるんじゃないのか。お、これはいい考えかもしれない。

つまり、自分とまったく違うタイプの異性の集団からなら、もしかするとモテる可能性がある。

これ、美女と野獣の論理ですな。自分と違う免疫関連遺伝子のタイプを持っている女性の集団を見つけることができれば、あなたはそこではモテモテくんだ。

実際、ニホンザルなど、メスが優位の群を形成するサルの場合、従来からいる順位の高いオスより、下位のオスやよそ者、新参者のオスなどのほうがモテる。

ニホンザルのDNAを調べると、子どもの父親が必ずしも順位の高いオスとは限らず、むしろこうした下位やよそ者のオスのほうがより多く父親になっていたというわけ。これも、おそらく遺伝子の多様性を高めるための行動でしょう。

ところが一方で、女性が自分と違う遺伝子タイプのにおいの男性に惹かれるという実験とは反対の結果、女性は自分の父親の免疫関連遺伝子(HLA)のにおい、つまり近い関係のにおいに安心感を抱くという研究もある(*7、米国シカゴ大学の研究者らによる論文)。

ただ、これは性的に惹かれるというより、どうも安心できるというにおいらしい。ドキドキするのではなく、ホッとする癒し系のにおいなんですね。

この違いはおそらく、病気に強い男性から遺伝子をもらって子どもを産み、子育ては父親のように安心できる男性に手伝わせたい、という女性のしたたかな戦略が背景にある。

セックスの相手、精子をもらう相手は違う免疫系のタイプ。結婚する相手、子育てを一緒にするパートナーなら同じタイプというわけです。

浮気タイプ、不特定多数の女性とセックスしたい男性なら、自分と違う遺伝子のタイプの女性集団に接近したほうがいいですね。一人の女性と安心して子どもを育てたいタイプの男性は、自分と遺伝的に似たタイプの女性からモテるでしょう。

ところで、女性に性的な相手として違うタイプを選ぶという傾向があるとすると、時間がたてばいつしか遺伝子が混ざり合い、均一化して多様なパターンは少なくなっていくはずです。

でも、不思議なことに多様性はなくならない。なぜなんでしょうか。

これについては、熱帯魚のグッピーを使った実験があります。

グッピーでは、珍しい色柄のオスのほうが生き残る割合が多かった(*8、米国イリノイ大学やカナダのトロント大学の研究者らによる論文)。個性的で「変わった」個体のほうがより多く生き残るので、常に多様な遺伝子が維持されるのではないかというわけです。

これにも珍しい相手、新しい相手に惹かれる遺伝子のメカニズムが働いているんでしょう。個性的な個体と免疫パターンに関係があるかどうかはわかりませんが、そう言えばミュージシャンがモテるのも個性的で変わってるからかもしれません。

もし女性が音楽をやる男性の個性に対し、自分と異なる免疫パターンを投影してるとしたら、ベーシストだった私はそうした個性のアピールが足りなかったせいでモテなかったんでしょうね。もっと突飛で変なキャラじゃなきゃ、ダメだったんだろうなぁ。

でも、変はキモイと紙一重だし。モテるというのは難しい永遠のテーマですが、「違い」と「多様性」をヒントにすれば、モテる秘密がもっとわかってくるかもしれません。

さて次回は、よく耳する「フェロモン」について考えてみましょう。

(*1:J.T Manning, D Scutt, D.I Lewis-Jones, "Developmental Stability, Ejaculate Size, and Sperm Quality in Men", Evolution and Human Behavior, Volume 20, Issue 3, Pages 175-201 (May 1999)

(*2:Elliot AJ, Kayser DN, Greitemeyer T, Lichtenfeld S, Gramzow RH, Maier MA, Liu H., "Red, Rank, and Romance in Women Viewing Men", Journal of Experimental Psychology, 2010, Vol. 139, No. 3, 399-417

(*3:Michael N Weedon, Guillaume Lettre, Rachel M Freathy, Cecilia M Lindgren, Benjamin F Voight, John R B Perry, Katherine S Elliott, Rachel Hackett, Candace Guiducci, Beverley Shields, Eleftheria Zeggini, Hana Lango, Valeriya Lyssenko, Nicholas J Timpson, Noel P Burtt, Nigel W Rayner, Richa Saxena, Kristin Ardlie, Jonathan H Tobias, Andrew R Ness, Susan M Ring, Colin N A Palmer, Andrew D Morris, Leena Peltonen, Veikko Salomaa, The Diabetes Genetics Initiative, The Wellcome Trust Case Control Consortium, George Davey Smith, Leif C Groop, Andrew T Hattersley, Mark I McCarthy, Joel N Hirschhorn & Timothy M Frayling, "A common variant of HMGA2 is associated with adult and childhood height in the general population", Nature Genetics 39, 1245- 1250 (2007)

(*4:Arhat Abzhanov, Winston P. Kuo, Christine Hartmann, B. Rosemary Grant, Peter R. Grant & Clifford J. Tabin, "The calmodulin pathway and evolution of elongated beak morphology in Darwin's finches", Nature 442, 563-567 (3 August 2006)

(*5:The MHC sequencing consortium. "Complete sequence and gene map of a human major histocompatibility complex", Nature, Vol.401, No.6756, 1999, p.p. 921-923.

(*6:Claus Wedekind; Thomas Seebeck; Florence Bettens; Alexander J. Paepke, "MHC-Dependent Mate Preferences in Humans", Biological Sciences, Vol. 260, No. 1359. (Jun. 22, 1995), pp. 245-249.

C Wedekind and S Furi, "Body odour preferences in men and women: do they aim for specific MHC combinations or simply heterozygosity?", Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences

. 264, 1471-1479, 1997.

(*7:Suma Jacob, Martha K. McClintock, Bethanne Zelano & Carole Ober, "Paternally inherited HLA alleles are associated with women's choice of male odor", Nature Genetics 30, 175- 179 (2002)

(*8:Robert Olendorf, F. Helen Rodd, David Punzalan, Anne E. Houde, Carla Hurt, David N. Reznick & Kimberly A. Hughes, "Frequency-dependent survival in natural guppy populations", Nature 441, 633-636 (1 June 2006)

※タイトルを変更しました 2015/04/18

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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