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半数以上がPFASによる健康被害の懸念 東京多摩住民650人の血液検査の結果が判明

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
8日、血液検査の分析結果を発表する原田浩二・京都大学准教授(中央)=筆者撮影

がんや免疫力低下、胎児の発育障害などとの関連が強く疑われ、欧米で全面禁止を含む大幅な規制強化が進む「有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)」が、東京多摩地域の多くの住民の血液から検出され、うち半数以上の住民が、欧米のガイドラインに照らし合わせると重大な健康被害を受ける可能性があることがわかった。

8日、住民グループ「多摩地域の有機フッ素化合物(PFAS)汚染を明らかにする会」が発表した。

血液検査は国分寺市や立川市など多摩地域に住むボランティア650人を対象に実施。1月4月にも中間報告をしており、今回が最終報告となる。分析は環境衛生学が専門の原田浩二・京都大学准教授が中心となって行った。

ほぼ全員から検出

分析の結果、650人ほぼ全員の血液からPFASが検出された。

発表内容は、分析したPFASのうち特に毒性が強いとされるPFOS、PFOA、PFHxS、PFNAの4種類に絞り、他の調査結果や欧米のガイドラインとの比較などを示した。

PFOS、PFOA、PFHxS、PFNAの平均血中濃度はそれぞれ、1ミリリットルあたり10.8ナノグラム(10.8 ng/mL)、3.8 ng/mL、5.3 ng/mL、3.5 ng/mLで、いずれも環境省が2021年に各地で行った調査の平均値 3.9 ng/mL、2.2 ng/mL、1.0 ng/mL、1.6 ng/mLを大きく上回った。多摩地域の汚染度が非常に高いことを示している。

米国の最高学術機関である米国アカデミーは昨年8月、主要PFASの合計血中濃度が20 ng/mLを超える患者は特別の注意を要するという内容の診療ガイドラインを発表したが、今回、この値を超えたのは650人中335人と半数を超えた。また、ドイツ環境庁の専門委員会が健康への影響が起こり得るレベルとして設定した濃度も、55人が上回った。

米国アカデミーは同ガイドラインの中で、主要PFASの合計血中濃度が2ng/mLを超える患者に関しては、医療機関は脂質異常症や妊娠高血圧症、乳がんなどの発症に注意を払う必要があると助言。さらに、同20 ng/mLを超える患者は、健康被害のリスクがより高く、医療機関は上記の症状に加え、甲状腺の病気や腎臓がん、精巣がん、潰瘍性大腸炎の発症についても注意する必要があると述べている。

国分寺、立川が特に高い

血中濃度は多摩地域内でも場所によってばらつきがあり、国分寺市や立川市で特に平均濃度が高かった。武蔵野市、あきる野市、西東京市、府中市、国立市、調布市なども比較的、高かった。ただ、原田氏は「平均濃度が低い地域でも、濃度の高い住民もいる」と述べ、地域の平均濃度が低いからといって、必ずしも安心できないとの考えを示した。

血中濃度が高い原因について、原田氏は検査データの詳しい分析から毎日利用している水道水を主原因として挙げた。ただ、食品から一定程度を摂取している可能性もあり、食品や土壌を対象にしたさらに詳しい原因調査が必要だと指摘した。

さらに原田氏は、汚染問題の解決には、米軍横田基地を含め汚染源と考えられる施設を徹底調査して汚染源を特定し、汚染物質を除去する対策も必要になってくると述べた。

欧米は急ピッチで規制強化

日本同様、PFASによる環境汚染や健康被害が大きな問題となっている米国や欧州連合(EU)では、政府が対策強化を急いでいる。

米環境保護庁(EPA)は、飲料水中のPFASの濃度の上限値を、従来のPFOSとPFOAを合わせた1リットルあたり70ナノグラム(70 ng/L)から、各4ng/L へと大胆に引き下げる方針を3月に発表。新たな基準値は法的強制力を伴い、上回った場合、水道事業者は濃度を基準値以下に引き下げなければならなくなる。

さらに、PFOSとPFOAを「包括的環境対策補償責任法(通称スーパーファンド法)」の対象物質に加える方針も明らかにした。スーパーファンド法では、対象物質の排出責任者には汚染除去の義務が生じる。

EUでは、1万種類とも言われるPFASを全面禁止する方向で議論が進んでいる。

これに対し日本では、今年ようやく、環境省や食品安全委員会で議論が始まったばかりだ。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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