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対トランプ勝利の立役者 故マケイン上院議員夫人が駐英大使候補に

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
シンディ・マケイン氏(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

故ジョン・マケイン米上院議員のシンディ夫人が、バイデン新政権の重要ポストの1つ、駐英大使の最有力候補に浮上している。シンディ氏は今回の大統領選で、同じ共和党のトランプ大統領と袂を分かち、民主党のバイデン氏への支持を表明。激戦のアリゾナ州を民主党が24年ぶりに制し、バイデン大統領が誕生する原動力になったとされている。

「本人が望めば決まり」

経済紙ビジネス・インサイダーは、28日付の英タイムズ紙の記事を引用する形で、バイデン次期大統領が、シンディ氏の駐英大使への起用を検討していると伝えた。タイムズ紙に語った関係者によると、シンディ氏が望みさえすれば、起用は決まりという。シンディ氏は大の英国好きとも報じている。

アリゾナ州選出の故マケイン上院議員は共和党の重鎮だったが、トランプ大統領と政策や性格面でそりが合わず、両者は互いに非難し合う犬猿の仲だった。2年前の8月に脳腫瘍で現職のまま亡くなった後も、トランプ氏がマケイン氏に対する悪口を止めなかったため、遺族とトランプ氏との関係はさらに悪化していた。

2008年の大統領選挙に立候補した時のジョン・マケイン氏とシンディ夫人(筆者撮影)
2008年の大統領選挙に立候補した時のジョン・マケイン氏とシンディ夫人(筆者撮影)

バイデン氏への投票を呼び掛け

そうした中、シンディ氏は今年8月に開かれた民主党の党大会に登場し、バイデン氏への支持を表明。さらに、ツイッターに「私の夫ジョンは、常に国家ファーストという信念で生きてきた。私たちは共和党員だが、共和党員である前に米国人だ。今回の大統領選で米国という国の価値観を守ろうとしている候補者はたった1人しかいない。それはジョー・バイデンだ」と投稿し、バイデン氏に投票するよう地元アリゾナの有権者に呼び掛けた。

南西部のアリゾナ州は伝統的に共和党が強く、1952年以降は、1996年に現職のクリントン大統領が勝ったのを除き、毎回、共和党の候補者が制してきた。しかし、今回は、激しい接戦の末、バイデン氏が勝利。選挙結果全体を大きく左右する州の1つとして全米の注目を浴びた。

すでに政権移行チームの一員

バイデン氏がアリゾナで勝てたのは、故マケイン氏の人気に加え、シンディ氏自身も「アリゾナ州で何十年もの間、影響力を持ったビジネスウーマン、慈善家として活動してきた」(ビジネス・インサイダー)実績があることから、彼女の存在が大きかったと見る向きは多い。

シンディ氏はもともと、バイデン氏と家族ぐるみで付き合う間柄でもあったが、選挙戦の後半からバイデン氏の政権移行チームのアドバイザーに就任するなど、関係がより深まっていた。

一方、バイデン氏は、トランプ大統領の4年間で一段と深まった米社会の分断を修復するため、政権の主要ポストに共和党員を起用することも検討していると言われており、共和党員であるシンディ氏の駐英大使就任も、けっして意外なことではないと受け止められている。

論功行賞は一般的

また、職業外交官がそのまま出世して大使になることが一般的な日本と違い、米国ではもともと、大使の職は論功行賞的な意味合いが強い。最近だと、例えば、オバマ政権下で駐日大使を務めたキャロライン・ケネディ氏は、民主党内の候補者指名争いの際にオバマ氏への支持を表明し、オバマ氏勝利の流れを作ったことへの論功行賞だったと言われている。

昨年7月まで駐日大使だったウィリアム・ハガティ氏は、もともとビジネスマンだったが、トランプ氏の政権移行チームに入りトランプ政権の誕生に尽力したことが、駐日大使に指名された理由だ。なお、ハガティ氏は、先日の大統領選挙と同時に行われた上院選にテネシー州から出馬し、当選を果たしている。

シンディ氏の駐英大使就任も、実現すれば、論功行賞人事の側面が大だ。アリゾナ州でのトランプ大統領のまさかの敗北は、死人に鞭打つトランプ氏に対する「マケインの復讐」とも言われていただけに、シンディ氏にとっては、トランプ氏をホワイトハウスから追い出し、自身は駐英大使就任となれば、満願成就の気分に違いない。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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