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学校に行けない?行かない?学校長期欠席の小中学生が41万人現象のとらえ方と外せない論点とは。

今村久美認定NPO法人カタリバ代表理事

27日、文科省から子どもたちの長期欠席および不登校の最新(令和3年度)統計が発表されました。

令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について

「長期欠席」状態にある小中学生の数は、昨年度から13万人増加の413,750 人( うち不登校カウントの小中学生は5万人増加の約24万人) に上ることが明らかになりました(図1,2)。9年間、過去最多を更新し続けていますが、とくに今年は類を見ない増加率です。

(図1)令和3年度 文部科学省”児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査「小・中学校における長期欠席者数の推移」
(図1)令和3年度 文部科学省”児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査「小・中学校における長期欠席者数の推移」

(図2)令和3年度 文部科学省”児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査「小・中学校における長期欠席者数の推移」
(図2)令和3年度 文部科学省”児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査「小・中学校における長期欠席者数の推移」

この記事では、増加の背景や影響について読み解いてみたいと思いますが、はじめにこのデータの取り方について、私が感じた疑問にも触れておこうと思います。

この調査の対象者は、教育委員会。学校が各教育委員会に提出した数値をもとに統計がまとめられています。

不登校の要因をみてみると、

「いじめ」が0.2%、「教職員との関係をめぐる問題」が1.2%。

それに比べて「無気力・不安」が49.7%、「本人に係る状況」に起因した不登校要因が約半数にのぼります(図3)。

(図3)令和3年度 文部科学省”児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査「不登校の要因」
(図3)令和3年度 文部科学省”児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査「不登校の要因」

しかし、例えば「無気力」というのは不登校の理由として適切なのでしょうか。無気力な状態で生まれてきて、そのまま学齢期まで無気力な場合、それは何らかの診断がつく病気でしょう。無気力は、結果としての現象です。育ってきた環境の中で、困難に直面したり、挫折を経験したり、さまざまな要因の結果として、無気力状態になってしまうのではないでしょうか

また、教員や学校が教育委員会に対して、「教職員との関係性」が不登校の原因と、報告をするでしょうか。不登校ゼロという標語を掲げる教育委員会だったとしたら、さらに報告しづらいかもしれません。また、この件のみならず誰しも課題に対して、自分に原因があるとメタ認知することは難しいものです。教員としては、本人や家庭に何かしらの課題があるから、学校に不適応になり、結果不登校になった、と、考えてしまうのではないでしょうか

この統計の取り方では、原因と結果の因果関係のほどに疑問が残ります。子どもたちの本音や問題の本質を見出せぬまま、また次の1年が過ぎそうで不安です。

私も参加させていただいている文部科学省などの審議会では「子どもたちが多様化している。」という言葉がよく出てきます。しかし、こんなに短い間に、生物としての人間が、多様化できるものなのでしょうか。また時に「家庭の養育力も下がっている」という言葉も聞きます。これは私も親として反省があります。少し過保護になりすぎかもしれません。しかし、家庭には政策的介入はできません。そろそろ、子どもたちの側に原因を探すのではなく、学校を中心とした日本の教育の在り方を、本気で変えていかなければいけない、本腰入れなければいけない時がきていると思うのです。

不登校の問題は、個人としての子どもたちの未来のため、という視点のみで語るべきではありません。のちに触れますが、誰ともつながれない不登校状態を放置することは、生涯にわたるひきこもりリスクとつながりやすいといえます。これは、『働き盛りの世代』が『子どもと高齢者を支える』という基本的な社会システムを、危機にさらしていると理解すべきです。

子どもの教育は、未来のための予防医療みたいなものだととらえるべきだ思います。孤独が続くことは心身に影響があります。向き合うべき問題が小さく、社会からドロップアウトする前の子どものうちに、社会が確実に手を差し伸べることは、とても合理的な未来への投資です。

ではここから、データをみていきたいと思います。

不登校の子どもが約5万人増。小学生の増加率が高い。

まず要点を抽出してみます。

●令和3年度の小・中学校における長期欠席者は413,751人(前年度287,747人)

不登校の子どもの数は全国で24万4940人

・9年連続増加(図4)。

・昨年度からの増加数は、約4.9万人。

・対前年度比増加率は、今回は24.9%と増加のスピードが桁違い。

 (増加が始まった2013年度から2020年度までの平均が7.2%)

●全国の不登校の小中学生の数を仮に小学校(東京都足立区の平均で約30人/クラス、2.5クラス/学年)に置き換えると、小学校550校以上に相当する不登校の小中学生が全国にいる計算となる。

(図4)令和3年度 文部科学省”児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査「不登校児童生徒数の推移」
(図4)令和3年度 文部科学省”児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査「不登校児童生徒数の推移」

総数は中学生が多いが、増加率は小学生が一貫して高く、過去5年間で毎年度15%を越える(図5)など深刻な状況が長期にわたっている。

(図5)文部科学省”児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(平成24年度~令和3年度)を基にカタリバ作成、不登校児童生徒増加率の推移
(図5)文部科学省”児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(平成24年度~令和3年度)を基にカタリバ作成、不登校児童生徒増加率の推移

学年が低いほど増加率が高い傾向があり、学齢期の初期から学びに接続できなくなっていることを示唆(図6)

(図6)文部科学省”児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(平成24年度~令和3年度)を基にカタリバ作成、学年別不登校児童生徒増加率の推移
(図6)文部科学省”児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(平成24年度~令和3年度)を基にカタリバ作成、学年別不登校児童生徒増加率の推移

●不登校の要因

・最も多いのは小中学生共に”無気力・不安”(共に49.7%)

・第2位が小学生は”親子の関わり方”(13.2%。中学生は5.5%)

・中学生は”いじめを除く友人関係をめぐる問題”11.5%。(小学生は6.1%)

※重ねますが、これは学校のとらえ方であり、どうとらえるかは少し慎重に判断すべきではあります。実際、文科省が別途行った、不登校の本人・保護者アンケートでは、不登校の原因を「教師との関係性」との回答が最も多かったというデータもあります。

”積極的不登校”は誰でもできうる選択肢ではない

学校に行かないということ自体については、実は様々な意見があります。「行きたくないなら行かなくていいんじゃないか」「自分の個性を生かして、好きなことだけやればいい」「最近は多様な特徴的なフリースクールやインターナショナルスクール等、オルタナティブな選択肢もある。さっさと転校すればいい」「ホームスクーリングでもいいのでは?」そんな声も少なくない声として聞こえてきます。

私としては、選択できるならばそれも一案と思いますが、そこには問題があります。

まず、学校教育法上の”学校”以外の学びの場を選ぶ場合、公の補助はありませんので、全額家庭負担となります。毎日オルタナティブな学校に通う場合、年間100万円以上かかるのが実態です。また、そういったオルタナティブな学びの環境は、都市部に集中しています。地方ではそういった選択肢が皆無という地域もとても多くあります。自分で好きなことだけすればいいとはいえ、自立的に学べる子供はそう多くはありませんし、仕事に行かなくてもいい親の元で生活できるか、または塾や家庭教師にお金を払って導いてもらう等、学齢が低い段階では特に、誰かしらの伴走が必要なのが現実だと思います。

つまり、”学校に行きたくないならいかなくていい”というのは、誰にでも選択しうることではないのです。

防ぎたいのは、子どもたちが社会から孤立していくこと

さて、ここまで見てきたデータよりも、最も大きな問題は次のデータです。

不登校の子どものうち36.3%が学校内外で何らの相談・指導等(=支援)を受けていないことが示されています(受けていない割合は4年連続で増加)(図8)。

(図8)令和3年度 文部科学省”児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査「不登校児童生徒が学校内外で相談・指導等を受けた状況」
(図8)令和3年度 文部科学省”児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査「不登校児童生徒が学校内外で相談・指導等を受けた状況」

この相談・指導等には、病院や私たちNPOのような民間施設も含んでいますので、いかに多くの子ども(約8.9万人に相当)が社会から隔絶された状態にあるかが推測されます。更に、相談が受けられたとしても、そこから適切な居場所や支援に繋がれるかは別問題。不登校支援においては、相談を受ける機関の質・量・ネットワーク・支援の担い手、どれも不足が深刻な状況です。

こうした状況は、”今、現在”子どもたちが苦しいだけでなく、子どもたちの未来において、ひきこもり、孤独・孤立等、様々な困難への入口になる可能性があると考えられます。

少し古いデータであり統計学的な相関・因果関係は確定できませんが、次のようなデータ・研究もあります。

●40〜64歳のひきこもりの方のうち、ひきこもりになったきっかけとして、小中高での不登校を挙げる割合は4.25-8.5%*1

●死亡時に30歳未満であった自殺者の家族への調査によると、自殺者の40%に不登校経験あり。また、そのうち75%に学校復帰の経験があり、短期的な学校復帰が必ずしも長期的に望ましい結果につながらないことも示唆*2

<出典>

あくまで参考値でしかありませんが、今15歳の不登校の子どもの約5.77%-11.5%が将来ひきこもり状態に陥る可能性もあると考えられます。いずれにせよ、不登校は子どもの今だけの問題ではないのです。

不登校の影響は子どもの将来だけでなく、家庭や社会にも

更に、不登校の影響は、子どものみならず、家庭、社会にも及ぶおそれがあります。不登校の子どものいる家庭に対するカタリバのアンケート調査では、子どもの不登校により25%の家庭で収入が減少し、年収200万円未満の家庭が65%を占めています(図9)。

(図9)NPOカタリバが2022年に実施した、不登校と保護者の収入・就労・家計調査結果 (n=405)より
(図9)NPOカタリバが2022年に実施した、不登校と保護者の収入・就労・家計調査結果 (n=405)より

また、ニート・無業者の若者を対象とした調査では、約4割が不登校を経験していました。こちらも因果・相関関係を確言はできませんが、不登校と就労に関連があることは推測されます。不登校を入口に孤独・孤立状態が続くと、人口減少の続く日本社会で更なる労働力人口の低下、ひいては心身の不調や収入の途絶による医療費・社会保障費の増大、社会経済活動・地域活動の停滞など、社会・経済に広範な影響が及ぶおそれもあるのです。

<出典>

不登校だけでなく、"すべての子どもたち"に学びを届けられる仕組みになっているかー「長期欠席」や「不登校傾向」の存在

ここまでは、”年間30日以上登校しなかった児童生徒(=長期欠席者)のうち、理由が不登校の者”という狭義の不登校について述べてきましたが、長期欠席者全体の小中学生数は約41万人(昨年度比約13万人増)に上ります。ただ、調査結果には以下の3つのように不明な点・不足な点も多く、そうした子どもを正しい打ち手で学びにつなげるために、調査の解像度を一段高める必要があるのではないか、と思っています。

(1)長期欠席者

長期欠席者のうち、不登校の24.5万人の他は、下記と分類されています。

●”その他”が約5.2万人(過去10年間2万人台で推移)

●”病気”が約5.7万人(過去10年間3-4万人台で推移)

●コロナウイルス感染回避が約5.9万人(昨年は約2.1万人)

●経済的理由が19人(過去10年間で約120人から漸減)

”その他”の52516人には、不登校と考えて支援につなげるべき子どもはいないのでしょうか?また、病気の5.7万人は、1人1台GIGAスクールの端末がある時代に、学習権が保障されていない(または学習していても欠席と扱われる)ままでよいのでしょうか?コロナ起因での外出自粛をする人は年々減っている実感がありますが、学校だけがコロナ起因での長期欠席約3倍というのは、どうとらえるべきでしょうか?それは本当に、 コロナ起因なのでしょうか。就学援助などの制度もある中、経済的理由で義務教育が受けられない子どもはいるべきでなく、早急にアウトリーチしてゼロにできるのではないでしょうか?

(2)”不登校”扱いの子ども

不登校扱いの子どもの分析データも、さらに下記は深化すべきと考えます。

●自分の意思で学校に行くことを選ばない積極的不登校はどのくらいの割合いるのか。

●”不登校”の”学業の不振”のうち、特異な才能があり授業がつまらないと感じた子どもは何割くらいいるのか。

●”不登校”の教職員との関係をめぐる問題”で、どのような指導が子どもに拒否反応を生んだのか。

(3)不登校傾向の子ども

2018年に日本財団は”不登校傾向”の調査をしました。これは、学校には行くが保健室等におり教室には行かない子ども、教室にはいるが授業に参加しない子どもなどを”不登校傾向”としており、実質的に学びにつながっていない子どもを浮彫りにする意味で有益です。不登校傾向の数は当時のデータで中学生の約10.2%、文部科学省が調査している不登校中学生の約3倍に当たると推計しています。政府の調査に含めるべきと考えます。

子どもに学びを提供するのが、学校一択ではよくない。ただ、学校という全国津々浦々にある学び、育ち、福祉のインフラが、中心であるべきだとは考えています。中心であり続けるためにどう変わるべきか、調査の深堀りが第一歩になるのではと考えています。

「ひとりでも学びにつなぐ」支援から「誰一人とりのこさない」支援をめざして、行政・学校・民間が、本腰入れて連携する

取り急ぎ、ここまでデータを読み解いてきました。

悲観的な見通しをこれまで述べてきましたが、私は研究者でもコメンテーターを仕事にしているわけでもありません。私自身は、NPO法人の運営者という立場で、まだ非力ではありますが、具体的に「こんなやり方がある」という具体策をひとつでもみつけられる実践を深め続けたいと思います。そして公教育の可能性をアップデートするための一助になり続けたいと考えます。

ここから私たちが重点を入れていきたいと思っているのは(今段階の仮説ですが)下記のとおりです。

<行政と認定NPO法人カタリバが連携して行う不登校支援 実証事業>

1、子ども自身が、学校・教育支援センター・学校の別室・メタバースなどを行き来しながら、学びと人とのつながりをあきらめない、新しい当たり前の在り方を開発する。(連携:埼玉県戸田市・広島県・東京都文京区・足立区など)

2、行政と民間が対等に対話し、誰一人取り残さないコレクティブインパクトを目指した不登校政策を実践する。(連携:島根県雲南市)

3、教育支援センターを「多様な居場所とつなぐハブに」アップデート。地域の公共施設や民間団体を公的連携支援機関として認定し、子どもと”学びの居場所”をつないで伴走する。(実証連携自治体 探索中)

4、支援リソースを自治体ごとの自前主義で完結せず、シェア型行政サービスを実装する。(実証:経済産業省 未来の教室実証事業)

様々な関係者で問題意識とリソースを共有しながら、具体的な対策の検討を

今回の調査に併せて、文部科学省は”主な取組”も公表しています。その中には”教育支援センターの機能強化” ”教育支援センターを中核とした民間団体等との連携の推進” も含まれており、問題意識は同じ方向を向けていると思い期待しています。かつてない不登校の子どもの増加を受け、カタリバとしても現場と提言の両面でこれからも活動していきたいと思います。

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※訂正・おわび 本記事内の一部に誤りがあり、2023年10月20日に修正を行いました。「ひきこもりになったきっかけとして、小中高での不登校を挙げる割合(データ引用値)」「今15歳の不登校の子どもが、将来不登校になる割合(推計値)」の数値を変更しています。研究者なども交えながら、正しい実態の把握と発信に努めていきますので、どうぞよろしくお願い致します。

<サムネイル画像提供:小林いずみ / ピクスタ>

認定NPO法人カタリバ代表理事

2001年にNPOカタリバを設立。高校生のためのキャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。2011年の東日本大震災以降は子どもたちに学びの場と居場所を提供するなど、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組む。「ナナメの関係」と「本音の対話」を軸に、思春期世代の「学びの意欲」を引き出し、大学生など若者の参画機会の創出に力を入れる。ハタチ基金 代表理事。地域・教育魅力化プラットフォーム理事。中央教育審議会 委員。著書に「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」(ダイヤモンド社、2023年)」

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