有森也実「私は、女優とプライベートの自分の真ん中にいる」貧困家庭の子どもたち支援を始めた背景を語る

「あの子にまなびをつなぐ」プロジェクトドリームサポーターの有森也実さんと筆者

新型コロナウイルスの感染拡大を受けたカタリバのオンライン上の子どもの居場所作り活動の中で始めた、生活困窮世帯の子どもたちにパソコンとWi-Fiを無償貸与する「あの子にまなびをつなぐ」プロジェクト。集まったクラウドファンディングでの寄付額は、初期目標の1500万円は達成しました。ニーズの増加に応えるため、ただいまネクストゴール3000万円にチャレンジ中です。

そのドリームサポーターとして参加してくれるのは、俳優の有森也実さん。芸能生活37年目を迎え、多くの人にとっては、ドラマ『東京ラブストーリー』の「関口さとみ」役としての印象が記憶に残っているのではないでしょうか?

有森さんはどうしてこのプロジェクトを支援してくれているのでしょうか?

家庭問題を扱った様々な映像作品に出てこられたプロの俳優としての有森さんと、一個人としてのプライベートな有森さん。その両方の「ちょうど真ん中にいる有森さん」として動いてくれたみたいです。直接思いを聞いてきました。

■有森さん「映画ってリアリティーある社会問題を見せる役割が大きい」

今村:有森さんは、元文部科学官僚の映画評論家、寺脇研さんが企画、プロデュースした、子どもの貧困やいじめなどの問題を描いた映画『子どもたちをよろしく』に出演されました。今年4月、その舞台挨拶後のトークショーでお会いしたのが最初でしたね。

有森:はい。カタリバさんが子どもたちのために活動していると聞いて、この映画のテーマにもぴったりな団体だと思い、ぜひ今村さんにお会いしたいと思いました。

今村:俳優(女優)さんに向かってたいへん失礼なのですが、映画の有森さんの迫真の演技力に目が釘付けでした。問題を抱えた家庭の母親が、実は自分自身も過酷な環境で生きてきた、そんな女性を演じきっておられましたよね。

有森:映画ってファンタジーを見せるだけではなく、リアリティーのある社会問題を見せる役割も大きいと思っているんです。女優として自分が発言できることは限られていても、社会の実情を描いている映画で演じることで、観る方に問題提起をすることはできるのではないかと思って参加しました。

■有森さん「私たちが小さい頃はおおらかな時代だったのですが」

今村:有森さんは、今回のカタリバのプロジェクトに参加してくださる前から、社会問題や子どもの問題に対して興味があったんでしょうか?

有森:今まで俳優として、いろいろな役を演じてきました。境界性人格障害を患っている人物や、子どもを置き去りにして殺人を犯す凶悪な母親とか。役作りのため、いろいろな立場の人たちの気持ちを理解しようと本を読んだり勉強したりする中で、子どもの心や親子関係がいろいろな問題に起因しているとわかり、興味を持っていました。

私たちが小さい頃はおおらかな時代で、いじめなどの問題が起きても、地域や家族の中で自然に解決していけることも多かったような気がするのに、今の子どもたちは大変だと思います。

今村:昔もいじめやけんかはあったはずですが、大人の誰かは気づける場所でおこっていたり、子どもたち同士の問題として見守れることも多かったのではないでしょうか。現在は、社会のベース自体が変わっていっているのを感じます。

例えば日本もその地域の教育力で、住む場所を選ぶ人も増えてきています。地域によって、所得平均や要支援の方々の数の差も歴然としていて、それは地域の教育力にも影響します。子どもたち自身の特性というより、家庭の経済力やコミュニティーの特性で、ますます分断は進んでいます。

しかも子どもたちは、スマホに多くの時間を使っている。実生活の中で何かを感じる時間より、SNSを見ている時間の方が多いくらい。いろいろな意味で関係性が複雑になり、子どもたちにとって生きづらい世の中だと思います。

■子どもたちが「自分の好き」を表現できるために

有森:そして今回のコロナ禍で、子どもたちは人との距離を作ることを強いられています。ますますコミュニケーションの形も変わってしまいそうで心配ですよね。

今村:はい。もともと生活に苦労していた家庭は、今回のコロナ禍によってさらに経済的な窮地に立たされています。総務省の6月の労働力調査では、営業自粛の影響などによる休業者は236万人。今年2月と6月の労働力調査を比較すると、失業者数は約36万人増加。最も失業者が増えたのは35~44歳の母親世代の女性たちで、36万人のうちの約7万人を占めています。

休校で学校に行けなくなったり、コロナ禍で生活様式が変わったり、いろいろなコミュニケーション手段を失った子どもたちに対してできることというのは、各家庭が「どれくらいの学習機会を子どもたちに準備してあげられるか」によって決まります。けれども経済的に困窮状態にある家庭が、子どもたちに準備してあげられるものって、限られてしまいますよね。

有森:更なる分断を加速させないためにもカタリバさんは、「あの子にまなびをつなぐ」プロジェクトを始められたんですよね。クラウドファンディングですぐにお金を集めて活動を行っていて、すごいなと思いました。

今村:最初は生活困窮世帯に、100台のパソコンを無償貸与すること考えていたのですが、現在の貸与数は、400台を突破しました。けれども寄付でお金が集まるスピードよりも、申し込み数が上まわっている状態で、クラウドファンディング募集もラストスパートをかけています。最終的には500台のパソコンを、全国の子どもたちに届けることを目標にしているんです。

有森:同じくコロナ禍を機会に開始した「カタリバオンライン」という、オンライン上の広場のプログラムにも参加します。子どもたちに「自分の好き」を表現してもらえる講座を届けられたらいいかなと考えています※。そこから、何かリアルなことを始めるきっかけにしてもらえればいいかなと思って。

(※8月21日にカタリバオンラインにて、有森さんの「表現力を楽しむ講座」を実施。約20名の子どもたちが参加しました。子どもたちからは「どんなドラマに出てたんですか?」「美の秘訣は?」「自分を元気にするためにやっていることは?」など次々に質問が。「自分の『好き』をみんなの前で表現する」メインコーナーでは、「海」「なぞなぞ」「鬼滅の刃」「自由」など多種多様な好きなものを、体全身を使って表現することにチャンレンジ。有森さんもにこやかにコメントをはさんでくださり、「自分の好きなものを持つ気持ち」を応援してくださいました!)

■有森さん「友人と子どもにバレエを教えるボランティアをしていた」

今村:カタリバがパソコンを貸与した家庭や、公的支援必要認定されている家庭の子どもたちは、「カタリバオンライン」を無料で利用できます。有森さんの講座をはじめ、演劇やダンスなど、親が子どもたちに与えられない機会の提供役を目指しています。

「学校ではだめだけど、画面を通してなら会える」「ダンスクラブでダンスが好きになった」と言う、不登校の子どもたちもいます。リアル世界ではうまくいかない子どもたちが自分を表現できる、チャンス作りにもなりました。

有森:友人と、子どもたちにバレエを教えるボランティアもしていたんです。児童養護施設で、それまでバレエを始めたくても始められなかった子どもたちを募りました。自分も子どもの頃は、大好きなバレエによって思いやりや、頑張る心、決まりごとを学びました。どんな子どもたちも、学校や家庭だけでなく、そういう好きになれるものと出あってくれるといいなと思うんです。

■日本中の「できるかも」を、子どもたちにつなぐ

今村:お話をしていて気づいたんですが、有森さんのように、社会的に様々な分野で活躍されている方が子どもたちのために「役に立ちたい」と思ってくださっているのは、社会的資産ではないかと。もしかしたら日本中に、「ちょっとなら私も、役に立つことができるかも」と思ってくれている人がいるかもしれない。

そしてそんな方々と、「お金はないけれど、何かをやってみたい」と思っている子どもたちとの媒介役に、カタリバがなれればいいかなと思うんです。そのためには、生活困窮世帯の子どもたちがどこにいるのか、どんなニーズがあるのか、掘り起こしから始めていかないといけないとも思って、今回のプロジェクトも進めています。

有森:私が出演した『子どもたちをよろしく』でもそうでしたが、家庭の貧困や問題は外からは見えにくいですね。地域の人には知られたくない、甘えたくない、と考えている人も多い。

役作りのためにいろいろな親子関係を勉強していると、親はいつでも一生懸命で、自分たちの抱える問題に気づいていない人もいます。問題が解決されないまま、子ども世代に連鎖的につながってしまったり。子どもたちだけでなく、親御さん自身の問題も大きいですよね。

今村:貧困状態の子どもたちが、どういう経緯で貧困になったのか、社会的にデータが不足しているんです。だから、ひとつひとつの家庭や、親御さんのケースを見ていくしかないのも現状です。今回、「あの子にまなびをつなぐ」プロジェクトに登録し、パソコンを貸与している家庭のお母さんたちと関わって、どう支援していくのが最適かという検討も始めています。

カタリバのスタッフが「ペアレントメンター」として、月に1回Zoomを使って、親御さんと対話をしています。シングルマザーの方が多いのですが、お母さんたちがどんなことを抱えているか、お子さんにどんな機会を作りたいのかを聞いています。その中で、家庭の個別ニーズも見えてくるので、各子どもたちにどんな機会や体験を提供するべきか、具体的にわかってくると思うんです。

もしそんな中でバレエをやりたいという子がいたら、その時は有森さん、よろしくお願いします!

■有森さん「利害関係のない誰かになら甘えたり悩みを伝えやすい」

有森:利害関係のない誰かになら、オンラインなら、甘えたり、悩みを打ち明けやすいということもありますしね。そんな取り組みで、私たちの「役に立ちたい」という気持ちが、どんどん子どもたちにつながっていくといいですね。

もちろん家庭環境は大事だし、貧困家庭で育つことは、今はハンディキャップかもしれない。でも「自分は生きていていいんだ」「これをやっている時が好きなんだ」とか思える何かを見つけるだけで、子どもたちの人生は広がっていくと思うんです。だから、前向きに、希望持っていてほしい。

今村:生まれ育った環境は変えられないけれど、子どもたちひとりひとりの中には、必ずポジティブなエネルギーがあると思うんです。そのエネルギーがぎゅっと引き上がるチャンスさえあれば、そこでしか生まれないものが見つけられるはず。カタリバは、その機会提供をすべく支援を続けていきたいです。「あの子にまなびをつなぐ」プロジェクト、引き続きよろしくお願いいたします!

有森:はい!今回のプロジェクト参加は、仕事とプライベートの、ちょうど真ん中辺に位置しています。俳優としての自分の立場と、プライベートの自分の子どもたちへの思いを合わせて、その真ん中にいる私として、無理なく自然な形で関わっていきたいと思っています。子どもたちとの関わりで得たものを、自分の表現者としてのエネルギーに取り入れていきたいとも思っています。どうぞよろしくお願いします!

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今回、有森さんにお話を聞いて改めて、プロフェッショナルな俳優として、そして一個人としての「ちょうど真ん中」の位置で子どもたちの支援のために動いてくださっているそのスタンスを、素晴らしく感じました。そんなひとりひとりの方々の支援の力を広げ、子どもたちの貧困は身近で起きている事実であり、格差の問題はコロナ禍によってさらに広がっていること、そしてその貧困の連鎖を断ち切るために継続的な支援活動が必要ということを世の中に伝え続けていくことが、自分の役割だと改めて感じることができました。有森さん、どうもありがとうございました!