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混戦の大相撲名古屋場所 優勝争いは豊昇龍、北勝富士、伯桜鵬に 関脇陣の立ち合い変化に親方衆の意見も

飯塚さきスポーツライター
13日目に錦木(写真右)を内掛けで破った伯桜鵬(写真:日刊スポーツ/アフロ)

大相撲名古屋場所14日目。注目の一番は長い相撲になった。2敗で先頭を走る北勝富士と、入門からわずか4場所目で新入幕の伯桜鵬が対戦。伯桜鵬は前日、優勝争いを引っ張る錦木を華麗な内掛けで破って3敗をキープしており、同じく優勝争いに絡む北勝富士との一番は大いに注目されていた。

新入幕伯桜鵬が優勝争いトップタイに

立ち合い。両者左下手を引いて左四つの体勢になるも、上手は届かないまま膠着。互いに上手を探り合う。先に動いたのは北勝富士だった。右から小手に振って相手を押し込み、頭をつけて土俵際へ。そのまま前に出る――が、伯桜鵬が土俵際残って、なんと逆転の突き落とし!物言いもついたが行司軍配通りで3敗をキープ。対する北勝富士は3敗へ後退し、いよいよ優勝争いの行方はわからなくなった。

19歳の伯桜鵬がとにかく恐ろしい。自らの手で、新入幕優勝をじわじわと手繰り寄せている。千秋楽はいよいよ、関脇との対戦に大抜擢。豊昇龍との大一番を制し、大きな夢をつかむことができるか。その素養は十分にある。

大関取りの立ち合い変化への親方衆の意見に首肯

上位陣をなぎ倒し、優勝争いをけん引してきた3敗の錦木は、4敗の竜電と通算10度目の同期生対決であったが、最後は勝ち急いだか、寄り切れずに竜電の下手投げを食らってしまった。

3敗の豊昇龍は、同じ関脇の若元春との対戦。4敗の若元春も、勝って大関昇進への望みをつなげたい。立ち合いでは、両者手をつけずに少々時間がかかった。いざ、手をついて立ち合う――と、なんと若元春が左に大きく跳んだ。立ち合い変化だ。しかし、本当に驚いたのはここから。若元春の思い切った変化に、持ち前の足腰で豊昇龍がついていったのだ。そのままどんどん足を前に出して食らいつく。それだけではない。途中、若元春得意の左四つの形になったにもかかわらず、一瞬にして右から投げて小手投げが決まった。勝負がついた瞬間の豊昇龍は、普段にも増して眼光が鋭く光っていた。

直後の大栄翔 - 阿武咲戦では、大関取りの大栄翔が珍しい立ち合い変化からのはたき込みで勝利。前に倒れた阿武咲は、じっと相手をにらみつけた。2番続けての大関取りの立ち合い変化に静まる会場。ここで解説陣の見解が光った。

元横綱の鶴竜親方は「人間ですから」と、目の前の勝ち星を拾いに行く力士の心情を代弁しつつ「(簡単に)勝っても自分のためにならない。それは自分も経験してわかったこと」とコメント。元関脇・嘉風の中村親方は「大関取りの経験がない自分が意見を述べるのは失礼ですが」と謙虚な前置きをした上で「勝ち星よりも内容が大事。(昨今、昇進の基準と言われている)33勝に達せずとも、内容がよければ上げようという話になる」と力説した。

勝たなければならないプロの世界。その1勝の重みは、力士たち本人のみぞ知る。時にケガで体が言うことを聞かないこともあるなかで、その1勝をなんとしてでも取りに行かねばならない瞬間がある。横綱・照ノ富士にそのことを教えてもらってから、ファン心理として立ち合い変化に「がっかり」することを、筆者はやめるようになった。

しかし、こと「大関昇進」というフェーズにおいては、中村親方の言うように、相撲内容の良し悪しが大きく影響するのは間違いない。万が一負けてしまったとしても、その奮闘が評価につながるのであれば、力士たちも堂々と真っ向勝負に挑めるのではないだろうか。いつの間にか定着してしまった「3場所33勝」。筆者はもともとこの“基準”に疑問を抱いているが、数字だけに踊らされているのは、やはり力士たちにとっても酷である。

あいまいでおおらかな大相撲の世界。そのおおらかさを、これからも大切にしていってもらいたいと常に感じている。

混戦の名古屋 優勝予想は大混乱

千秋楽では、3敗同士の豊昇龍と伯桜鵬の対戦が組まれた。これにより、4敗勢の優勝の望みは消えた。同じく3敗の北勝富士は、今場所をけん引してきた錦木と対戦。優勝争いはこの3人にしぼられたが、果たしてどうなるか。筆者にはまったく予想できないが、誰が勝っても跳んで喜ぶくらいうれしい、ということだけはわかっているのでここに記しておく。

混戦の名古屋場所は、誰が勝っても「初優勝」。その快挙に感涙する準備はできていますか。

<参考>優勝争いの行方

▽11勝3敗 豊昇龍、北勝富士、伯桜鵬

・豊昇龍が伯桜鵬に〇 北勝富士が錦木に●→ 豊昇龍の優勝決定

・豊昇龍が伯桜鵬に● 北勝富士が錦木に●→ 伯桜鵬の優勝決定

・豊昇龍が伯桜鵬に〇 北勝富士が錦木に〇→ 豊昇龍、北勝富士による優勝決定戦

・豊昇龍が伯桜鵬に● 北勝富士が錦木に〇→ 伯桜鵬、北勝富士の優勝決定戦

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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