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5月場所、新関脇として自身初の技能賞 若元春「大関取りにふさわしい力をつけたい」

飯塚さきスポーツライター
5月場所で自身初の三賞(技能賞)を獲得した若元春(写真:筆者撮影)

新関脇として臨んだ大相撲5月場所で、10勝5敗の好成績を残した荒汐部屋の若元春。ようやく念願の三賞を手にした。来場所では「大関取り」の呼び声も高い期待の関脇に5月場所を総括していただくと同時に、名古屋場所や今後の目標も伺った。

冷静に相手を見る目も「力は出せたけど反省も大きい」

――5月場所前の調子はいかがでしたか。

「結構よかったと思います。関脇陣4人で稽古できたので、だいぶ充実して場所を迎えることができました。僕なんかは周りから刺激をもらって、周りに助けられてここまで来たので、しっかり力が出せたかなと思います。初日からかなり体も動きました」

――初日から5連勝の好スタートでしたね。

「初日・2日目は、かなり会心というか、力をしっかり出せて勝てました。3日目の正代関戦は攻め込まれて逆転勝ちだったので、ここが自分の弱さかなというふうに気持ちが引き締まりました。ただ、簡単には負けられないと思っているので、こうやって諦め悪いぐらいがちょうどいいのかなと思います」

――勝ち越しを決めた11日目の北青鵬関戦は、長い相撲になりましたが、最後は華麗なうっちゃりが見事でした。

「本来であれば、当たって相手を土俵際まで押し切らなきゃいけないんですよ。でもまわしを引かれて、怖がって足が止まってしまった。最後のうっちゃりはたまたまです。まだ課題があるなと感じました」

――そして、昨年の名古屋場所以来となる横綱・照ノ富士関との対戦もありました。当たってみていかがでしたか。

「1年ぐらい幕内に居続けて、自分でも努力して力はついてるかなと思っていたので、横綱相手に実際どのくらい取れるだろうかと考えていました。そういう意味では、前回より相撲は短かったんですけど、自分のいいところや練習してきたことを出せたと思うんで、正直前回よりもいい相撲を取れた手応えがありました」

――大関・貴景勝関からはかなり強烈な張り手を食らっていました。大丈夫でしたか?

「はい、張り手自体は頭に入っていました。大関にはここまで勝ったことがなくて、今回こそはと気合が入っていたので、逆に相手が張ってきたおかげで足が止まって重心が後ろに行っているところを攻めることができました」

――すごく冷静に相手のことが見えていたんですね。

「そうですね。相撲を取っているときは熱くならないように、クレバーでいるように心がけているので」

初の技能賞に喜び 休場の弟・若隆景には「刺激を返せたら」

――千秋楽に勢いのある大栄翔関に敗れたので、最後は悔しい気持ちで終わってしまったかもしれませんが、今場所も二桁勝利。ご自身で総括していかがですか。

「力は出せたのかなと思いますが、自分の弱い部分、ダメな部分も強く出た場所だったので、反省のほうがまだ大きいですかね。立ち合いで立ち遅れるのと、まだ冷静になり切れていないところもあります。錦木関戦は特に、焦って勝ち急いでしまったので、そういう面をもうちょっと見直していきたいと思います」

――5月場所はかちあげが多かった印象でした。その意図は。

「最近練習しているんです。2日目の翔猿関戦でそれがカチっとはまって、何かつかめたというか、ちょっとずつ自分のものになってるなと感じました。決まり切っていない相撲もありますが、徐々に使えるようにしていこうかなと思っています」

――そして何より、念願の三賞受賞おめでとうございます!率直にいかがでしたか。

「ありがとうございます。三賞がほしいとずっと目標にも掲げてきましたし、なかでも技能賞が一番ほしいって思っていたんで、うれしいですね。この業界にいて、技術を評価してもらえるというのはありがたいです」

――次は大関取りという声も聞かれますが、ご自身でその意識はありますか。

「正直あんまり実感がないというか、考えていないというか。いまの相撲で大関に上がれるかといえば上がれないと思うんで、まだまだです」

――場所後は霧馬山関が新大関に昇進。以前の取材で「旗手をやりたい」なんておっしゃっていたことも実現したわけですが、刺激はありますか。

「どうなんですかね。いままでも、番付への刺激ではなく取組とか稽古場での刺激が大きくて。いまはおかげさまで実力以上の番付にいると思うんで、精いっぱいいまの番付を取り切っていけば、自然と地力はつくと思って必死に取っています」

――今場所は若隆景関がケガで休場。弟の分まで頑張ろうという気持ちだったのでしょうか。

「いや、特にそういうことはないですね。弟のことを考えながら取れるほど余裕はないので(苦笑)。でも、一緒にここまで頑張ってきましたし、ずっと僕の先を行っていた存在だったので、少しでも刺激の面で返せたらなと思っていました」

勝ち方のバリエーションが増えている

――立ち合いのとき、両足を前後にして体を少しずらして仕切っていますが、理由はありますか。

「幕下から十両に上がるときくらいからですかね。体が硬いので、両足を前後に開くと腰が下りるというのと、出足が遅いんですよね。出足が遅いと、速い相手には一歩も前へ出られずに当たられてしまうから、足がそろった状態でスタートしないようにする予防の意味でもあります。邪道も邪道ですけどね。踏み込みが速ければそうする必要はないので」

――左四つになれば負けない自信があるかと思いますが、それにこだわりすぎずに勝ち方がいろいろ増えてきている印象です。いかがでしょうか。

「自信はないです。左四つが一番力を出せるから武器にしているだけで、そもそも自分に自信がないので。できることは何でもやっていこうといろいろ取り入れていますが、自分を見失わないようにしたいです」

――でも、取組で緊張はしないとのこと。落ち着いているからこそ、自信があるように見えるんです。

「開き直っている、というのか、自信はないけどやれることだけやろうっていう感じです。できる以上のことをしようとは思っていません。あと、元からあんまり緊張しないたちっていうのはあります」

――では、今後の目標は。

「大関取りと言っていただけるだけの力をつけることは目標です。いまは関脇らしい相撲、関脇らしい成績を収めることに必死ですけど、もっと長いスパンで見たときに、さらにもう一個上の番付にふさわしい力をつけられたらと思うので、そういうところが目標になってくるのかなと思います」

――いつになく真面目に相撲のことばかり伺ってしまいました。ありがとうございました。

「いえいえ。こちらこそありがとうございます。あんまりふざけると親方に怒られるんで(笑)」

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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