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高安の初優勝か、大関貴景勝が意地を見せるか、再起の阿炎が微笑むか 大相撲九州場所クライマックスへ

飯塚さきスポーツライター
今年最後の優勝は高安か貴景勝か、あるいは阿炎か(写真:毎日新聞社/アフロ)

はじめに言っておこう。贔屓で大げさに言うのではない。が、サッカーワールドカップの盛り上がりに負けないくらい、大相撲九州場所(福岡国際センター)も沸いている。本日いよいよ千秋楽、優勝争いは大詰めだ。

十四日目。2敗で先頭を走るのはベテランの高安。それを3敗で大関・貴景勝と関脇・豊昇龍、そして平幕の阿炎と王鵬が追う展開だ。まずはそれぞれの取組を振り返ろう。

高安首位をキープ 初優勝に王手

トップの高安は輝と対戦。すでに4敗と優勝争いからは逸脱していたものの、侮れない相手である。高安は立ち合い、今場所おなじみのかちあげを見せて前に攻めるが、高身長の輝を相手に苦戦。若干足が流れる場面もありながら立ち向かっていく。しかし、高安が引いたところを対する輝が前に出ていく。万事休すと思われたが、高安が素早く回り込み、執念のはたき込みが決まった。今場所唯一、手に汗握る展開の相撲ではあったが、これで単独首位をキープ。有利な状況で千秋楽を迎えた。

3敗勢は、豊昇龍が阿炎と、貴景勝が王鵬との直接対決。豊昇龍はこれまで阿炎には4連勝中と有利に思われた。ところが――。

立ち合い。阿炎が長い手を伸ばして突き離そうとするなか、豊昇龍は一瞬左の前まわしを引いた。その手が離れ、前に出ていくところを阿炎が土俵際でひらりと変わり、豊昇龍は勢いのまま土俵外に飛び出してしまった。阿炎は豊昇龍に初勝利。優勝争いに残り、千秋楽の今日、追いかける高安と対戦する。

一方、豊昇龍は痛い3連敗…。一時は単独トップに立っただけに、本人が一番悔しい思いをしているだろう。しかし、この経験がきっと彼をさらなる高みに引き上げてくれるに違いない。進化する若きサラブレッドの来年にも、大きな期待を寄せる。

貴景勝が見せた大関の意地

豊昇龍と同い年の王鵬は、大関・貴景勝に初挑戦。今場所の勢いに乗って、格上相手にどこまで立ち向かっていけるか。その挑戦が注目された。

しかし、立ち合いから圧力をかけたのは貴景勝だった。当たった直後に左からいなすが、王鵬がこらえる。しかし、再び正対した刹那、貴景勝は見事なまでの突き押しで相手を土俵外へ追いやった。これぞ大関の意地。横綱不在の場所でプレッシャーがかかるなか、大関としてその責任を果たそうと必死に結果を出し続けている。その気迫と精神力に圧倒され、勝負がついた直後は思わず目に熱いものがこみ上げてきた。

こうして、「新時代」の風を吹かせる豊昇龍と王鵬が無念の脱落。今日、優勝争いを演じるのは、高安、貴景勝、阿炎の3人に絞られた。

はたして賜杯は誰の手に

3月場所覇者の若隆景が優勝争いから脱落したことで、誰が勝ってもすべての優勝者が異なる1年になることが決まった令和4年の大相撲。年6場所制以降、昭和47年、平成3年に続き、31年ぶり3度目の珍事であるという。多くの力士にチャンスがあったのはよいことだが、来年は「絶対的王者」の帰還も心待ちにしたい。

珍しい結果に終わる今年最後の「顔」となるのは、意地を見せるベテラン・高安か、年を納めるに相応しい最高位の貴景勝か。それとも阿炎が再起・復活の姿を見せるか。サッカーワールドカップ日本対コスタリカのキックオフは、この結末を見届け、表彰式で喜びの優勝インタビューを聞き、たっぷりと余韻に浸ってからでも十分間に合うとだけ記しておこう。

<参考>優勝争いの行方

▽12勝2敗 高安

▽11勝3敗 貴景勝、阿炎

・高安が阿炎に〇 → 高安の優勝決定

・高安が阿炎に● 貴景勝が若隆景に〇 → 貴景勝、高安、阿炎による巴戦の優勝決定戦

・高安が阿炎に● 貴景勝が若隆景に● → 高安、阿炎による優勝決定戦

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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