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夢にまで見た大関昇進へ 御嶽海が優勝インタビューで絞り出した「言葉」

飯塚さきスポーツライター
写真:日刊スポーツ/アフロ

番付の頂点に位置する者も、連続で勝ち続けるのは難しい――。

混戦も予想された大相撲初場所千秋楽。勝てば優勝戦線に残る3敗同士の対戦は、阿炎対琴ノ若。どうなることかと思われたが、攻防ある素晴らしい相撲となった。

立ち合いから手を伸ばしてのど輪を繰り出す阿炎。一度引いて、相手を土俵際に押しやるが、琴ノ若がうまく体を回り込ませて残る。そこからも互いに離れ、阿炎が突っ張って応戦。最後は阿炎の思い切った引き落としが決まった。阿炎の武器が光ったことはもちろんだが、善戦した琴ノ若も素晴らしかったと言っていいだろう。二人が力を出し切った一番だった。

照ノ富士対御嶽海。注目の一番の行方は…

今場所最も注目だった結びの一番。御嶽海が勝てば3度目の優勝、照ノ富士が勝てば、阿炎を含めた三つ巴の優勝決定戦にもつれ込む展開だった。

集中力の高まった二人の立ち合い。互いにぶつかり、御嶽海が若干横綱の横につく体勢になった。いったん離れるも、もう一度御嶽海が胸にぶつかり、がっぷり四つに組む。両ひざを曲げて御嶽海が一気に出ていくと、横綱の力はもう入らなかった。本割で照ノ富士を下し、御嶽海が3度目の優勝を決めた瞬間だった。

直近は、9勝、11勝、そして13勝で優勝と来ている御嶽海。取組後に臨時理事会が招集され、来場所での大関昇進が濃厚となった。優勝インタビューでその一報を聞き、言葉が出てこない。無言でうなずいた後に「なかなか経験できないことなので、素直にうれしいです」と絞り出した。伝説の大関・雷電以来230年ぶりの長野県出身大関が誕生する。応援するこちらも、素直にうれしい結果となった。

多くの力士が奮闘した初場所

今場所は、多くの力士が活躍し、三賞選考委員を悩ませたのではないかと思う。最後まで優勝戦線に残った阿炎は、殊勲賞を受賞。来場所も期待の星である。琴ノ若も、若い力で奮闘し、2回目となる敢闘賞を受賞した。

横綱を下した玉鷲、二桁勝利を挙げた阿武咲も、三賞候補者だったであろう。捻り技を炸裂させ、最終的に11勝を挙げた石浦や、投げの打ち合いで顔から落ちるなど、勝ちへの執念を見せた豊昇龍、東2枚目で勝ち越した宇良などにも、個人的には技能賞をあげたかった。

照ノ富士一強時代の到来といわれてきたが、多くの力士が奮闘し、場所を盛り上げてくれた。横綱はひざを含めケガの状態だけが心配であるが、ここからのケアと調整を含め、必ず一流のコンディショニングをして来場所を迎えてくれるはずなので、その心配はしていない。来場所は、さらに強くなった横綱が場所を牽引してくれることを期待している。

さらに、来場所は貴景勝・正代がカド番となる一方で、新たな大関・御嶽海の姿が見られることも楽しみだ。場所が終わった直後に次の場所を思考するのは早すぎる気もするが、土俵で戦う力士たちは皆そうである。ぜひ、来場所もまた見応えのある相撲を多く楽しみたいと思う。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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