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いまの横綱は土俵際で負けない──初の全勝優勝で「照ノ富士1強時代」の幕開け

飯塚さきスポーツライター
写真:日刊スポーツ/アフロ

優勝と誕生日にダブルの「おめでとう」

大相撲九州場所千秋楽。結びは、前日に優勝が決定した横綱・照ノ富士と、大関・貴景勝との一番。優勝が決まっていたとはいえ、実質横綱の背中を一人追いかける貴景勝との取組を最後に見られることは、1年の締めくくりにふさわしく、ファンとしてうれしさもあった。

立ち合いから頭で思い切って当たっていった貴景勝。受ける照ノ富士の胸に、鋭い突きを一発食らわせ、土俵際までもっていく。しかし、ここで負けないのがいまの横綱。突かれても押し返し、「来い」とばかりに土俵中央で構える。一瞬、互いの動きが止まって見合うが、貴景勝が押して右からいなす。またも押された照ノ富士だが、すかさず反撃し、相手が引いたところをついていってそのまま押し出した。受けて相手に攻撃させておきながら最後に勝つ、千秋楽までまさに横綱相撲を貫き、文句なしの全勝優勝を決めた。

優勝インタビューでも、落ち着き払った様子で淡々と受け答えした照ノ富士。実力、品格、言動すべてにおいて素晴らしい横綱といえるだろう。「二桁の優勝を目指します」と本人が口にしたように、ここで満足する横綱ではない。さらなる高みを目指して、来年の1年間も土俵を牽引してくれることだろう。

そして今日、11月29日は、横綱30歳の誕生日。ようこそ華の30代へ! ゆっくり体を休めて、素敵なお誕生日を過ごせますように。

今後横綱に挑戦してほしい力士たち

いま最も照ノ富士に近い力士は、無論千秋楽の結びを演じた大関の貴景勝だろう。照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』で、筆者が貴景勝にインタビューした際、「照ノ富士関が隣で綱を締めているのを見て、あらためて自分も横綱になりたいと思いました」「一生懸命横綱を目指したいです」と語ってくれた。これはまさに、本当に目指している者しか発することのできない言葉である。筆者は、彼の言葉を真っすぐに受け止め、現実となるその日まで、ずっと信じている。

今場所、最も沸かせてくれた阿炎は、一気に実力をつけてきた。このままの勢いで行けば、大関の座も夢ではないだろう。自身初の三賞を受賞した宇良も、来場所はさらに番付を上げてくるはずだ。再び横綱との対戦が見られると思うので、さらなる活躍に期待したい。

また、幕下上位で好成績をあげた琴裕将、芝、北の若ら、新十両昇進が確定的となった力士たちにも、引き続き注目していきたい。こうした若手が番付を上げていって、いずれ横綱に挑戦する姿が、来年にも見られるかもしれないのだ。今年1年の本場所は幕を下ろしたが、一方ですでに来年の楽しみも生まれている。照ノ富士1強時代が到来したといえる現在。角界の未来を担う力士が、今後何人誕生するだろうか。

今年も1年間、場所中の記事をお読みいただきありがとうございました。コロナの収束を願いながら、来年の大相撲も楽しみにしたいと思います。令和4年もどうぞよろしくお願いいたします。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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