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「指導と押し付けは違う」元大関・琴奨菊の秀ノ山親方が明かす指導の難しさとは

飯塚さきスポーツライター
(写真:アフロスポーツ)

元大関・琴奨菊こと、秀ノ山親方のインタビュー後編。ここでは、まだ試行錯誤の段階だという弟子の育成についてお話を伺った。指導の難しさ、そして秀ノ山親方の夢とは――?

(前編はこちら

秀ノ山親方が直面する指導の難しさ

――現在は、親方として後進の指導に当たられていますが、いかがですか。

「力士としての自分の経験が、いまの指導に生きていると思いたいけど、これがすごく難しくて、指導と押し付けは違うんですね。自分がいいと思ったことでも、それを押し付けちゃうとその子は伸びなくなります。言葉のチョイスなど、いまは勉強しているところです。伸び悩む子は、目の前の小さなことにとらわれすぎているだけなので、そういったところは教えていってあげたいと思います」

――いま、親方から見て壁にぶつかっているのは…。

「(琴)勝峰です。ガッツがあって、熱い気持ちもある。誰よりもどん欲で、フィジカルの強さも将来性もある力士です。持っているものはとてつもないと思っています。だからこそ、私が小さいことを言いすぎてしまったかなという反省があるんです。こちらは理論的に話をするんだけど、理論なんていらなかった。結局は彼の感性が一番大事なのに、その感性も理論で消しちゃったんじゃないかって。そのあたりは、勝峰には申し訳ないけども、勉強させてもらったかなと思っています」

――人を育てることは、本当に難しいんですね。

「若い子はなんでも足りないから、何をやらせても育っていきます。でも、勝峰はすでにすべてある程度あった。だからこそ、こちらのチョイスの問題でした。とっても真面目で誰よりもどん欲な勝峰は、言われたことにはすべて真面目に向き合っていきます。強くなりたい気持ちがそうさせているから、すごく難しいところなんですが、そこを結果に結びつけられるように、私も全力でサポートしていきます」

――まだ21歳の琴勝峰関。この若さでこれだけの苦労を経験するのも、大きいことではないでしょうか。

「あの子、えげつないよ。誰にも負けないよ。いまも必死こいて頑張っている。それが、一人の勝負師としての魂だと俺は思う。すごく素直な生き方をしているんですよね。強くなりたいという意志さえしっかりしておけばどんどん伸びるから、その意志を削らないようにいまは注意しています」

現在は、部屋で指導に当たる秀ノ山親方(写真:筆者撮影/2019年)
現在は、部屋で指導に当たる秀ノ山親方(写真:筆者撮影/2019年)

国技としての相撲の普及に尽力

――親方は、部屋の指導以外に、協会の社会貢献部に所属していらっしゃいます。具体的な業務はどのようなものでしょうか。

「通信販売のお土産セットを詰めて発送したり、いまは新しく立ち上げるファンクラブについて話し合いをしたりして、相撲の普及とPRを頑張っています。やっぱり、力士ってほかのアスリートとはまた違う奥深さがあるんですが、その辺がまだアピールできていないのかなと思うので、いろいろと提案していきたいですね」

――具体的にどういった部分をアピールしていきたいですか。

「相撲は、単なるスポーツではなく、歌舞伎や芸能と同じで日本の伝統文化として残っているものなので、その側面をもっと出してもいいのかなって。自分も現役の頃はそんな意識はなかったけど、いま、余計にそう思います。震災のときの四股や、コロナの収束に向かっての土俵入りが、邪気を払うことにもつながっている。力士がだんだんアスリート化してきて、大相撲の意味合いがちょっと変わってきている気がしているので、もっと“お相撲さんらしさ”みたいな何かを出していけたらいいなと思います」

――ありがとうございます。最後に、親方の今後の夢や展望をお聞かせください。

「現役としては一区切りしましたが、この相撲人生はまだまだ続いています。相撲の普及と併せて、将来は自分の弟子をつくりたい。いままで学んだことが、最終的にちゃんと元の位置に戻るように、これからも勉強と努力をしていきたいです」

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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