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印象的だった照ノ富士の優勝インタビューの姿とは――春場所を盛り上げた力士の活躍を振り返る

飯塚さきスポーツライター
写真:日刊スポーツ/アフロ

大関復帰の照ノ富士 四方それぞれに礼

優勝インタビュー冒頭。「ありがとうございます」の言葉の直後に、四方それぞれに向かって、丁寧に礼をした照ノ富士。その姿には、土俵上での強さと対照的な温かさがにじみ出ており、非常に印象的だった。「応援がなかったら、いまの自分が元の位置に戻ることはできていないので、皆さんのおかげで元の位置に戻ることができました。これからもよろしくお願いします」。そんな謙虚な言葉を残した照ノ富士は、12勝3敗という堂々の成績と素晴らしい相撲内容で、再大関を確実なものとした。

現役大関の貴景勝と当たった千秋楽。勝てば優勝、負ければ貴景勝・碧山との三つ巴の決定戦という展開だった。

立ち合いは、貴景勝が押し込んでいった。しかし土俵際、押しきれない貴景勝が、照ノ富士の腕を抱えて投げにいく。結果的に呼び込む形になったところを、見逃さずに出ていった照ノ富士。その刹那、貴景勝は土俵外へ押し出されていた。大関復帰に、自身3度目の優勝という花を添えた瞬間だった。

「常に言っている通り、一場所一場所、一日一日集中して、いい相撲を見せられるように頑張りたい」とインタビューを締めくくった照ノ富士。”元の位置”には戻ったが、ここからがまた、彼の新しいスタートでもある。信じてくれた師匠・家族・仲間・ファンの皆さんと共に、これからの土俵人生にもさらに大きな花を咲かせてくれることだろう。

今場所の土俵を盛り上げた力士たち

照ノ富士の優勝で幕を閉じた春場所であったが、優勝争いは千秋楽までもつれ、多くの力士が活躍した場所でもあった。

最後まで優勝戦線に残ったのは、貴景勝と碧山。貴景勝は、現役大関の意地を最後は見せきれなかったが、場所後半は特に、引きを使うことなく突き押しに徹し、大関らしい強さを見せてくれた。一方、碧山は、決定戦に進むことはなかったものの、場所を通して調子のよかった高安を下し、11勝4敗。好成績に加え、うれしい敢闘賞も受賞した。

途中まで単独トップを走っていた高安。初優勝もあるのではないかという期待もあり、今場所を盛り上げてくれた力士の一人といっていいだろう。小結の地位で堂々の10勝を挙げ、来場所の大関取りへの足掛かりにもなった。この調子で、照ノ富士に追いつけるか。終盤戦では失速してしまったが、本人のなかで課題は明確なはず。生まれたばかりの赤ちゃんともこれから対面を果たしてもらい、新しい家族のためにも来場所以降また活躍してほしい。

めきめきと力をつけ、堂々の技能賞を受賞したのは、荒汐部屋の若隆景。大波三兄弟(若元春・若隆元)の末っ子としても知られている。貴景勝・正代の2大関を破るなど、今場所の若隆景は本当に強かった。2枚目という高い地位での二桁勝利。うまさに加えて力強さも光った。上に空きがないのだが、来場所は新三役昇進としてほしいところだ。

千秋楽で勝って、自身初の敢闘賞を獲得した明生。若隆景と同様、貴景勝・正代の2大関を破り、土俵を沸かせてくれた。明生の魅力は、なんといっても腰の重さとスピードを両立させる、見ていて気持ちのいい相撲。立ち合いのぶちかましにも磨きがかかっており、来場所以降の活躍も、いまから楽しみである。

実の兄弟で共に二桁勝利を挙げ、幕内の土俵を盛り上げた英乃海・翔猿。トリッキーな相撲で上位を食う翔猿は、メディアにも取り上げられることが多い。今場所は、十四日目に高安を首ひねりで制し、大きく沸かせた。一方、兄の英乃海は3年ぶりの幕内の土俵で初の勝ち越し。しかも二桁勝利である。普段は、弟の活躍を心から喜ぶ優しい兄だというが、兄弟そろっての活躍に、ますます心を温めているに違いない。

令和3年春場所も無事に終幕

横綱・白鵬の途中休場に、横綱・鶴竜の引退といった悲しいニュースもあった春場所。最後は照ノ富士が堂々の相撲で締めてくれたが、コロナ禍において、感染者を出すことなくまた一つの場所が無事に終わったことに、感謝の気持ちと共に安堵している。この状況がいつまで続くかわからないが、またこうして大相撲を多くの人が楽しめることを祈りながら、5月場所の開催を楽しみに待ちたいと思う。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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