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白鵬、照ノ富士、阿炎… 春場所に「復活」をかける力士たちの初日から見えたこと

飯塚さきスポーツライター
写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、大阪から東京・両国国技館へ会場を移して初日を迎えた大相撲春場所。場所前に行われたPCR検査では、山響部屋の小野川親方(元幕内・北太樹)と、尾上部屋の音羽山親方(元幕内・天鎧鵬)の陽性が判明し、両部屋の力士全員の休場が余儀なくされた。しかし、全力士と行司・呼出し・床山らの裏方は全員が陰性。協会内の万全な感染対策が功を奏し、初場所のような力士の大量休場は免れた。

波紋を呼んだのは、太もものケガによる横綱・鶴竜の休場。これで5場所連続の休場となり、多くのファンが肩を落とした。しかし、本人は現役続行の意思を示しているとのこと。厳しい意見が飛ぶ逆境のなか、もう一度強い横綱の姿を見られることに期待するしかない。

そんななかで幕を開けた春場所。初日の土俵を振り返りながら、今場所の見どころを紹介していく。

横綱・白鵬が締める結びと照ノ富士、貴景勝の白星

今場所一番の期待はといえば、やはりなんといっても横綱・白鵬のカムバックであろう。実に4場所ぶりに披露された横綱土俵入り。その神々しさにあらためて見入ってしまったのは、筆者だけではないはずである。

初日の結びは、先場所初優勝して大フィーバーを巻き起こした、小結・大栄翔との一番。立ち合いで張り差し、一気に寄る。土俵際で大栄翔も必死に突き落としにいったが、寄り倒しで白鵬の勝利。あっという間の一番だった。さすが横綱としか言いようがない。調子のほどはまだなんとも言い難いが、やはり横綱が土俵を締めてくれることは感慨深い。幸福感と安心感に包まれ、大きく胸が高鳴る。

さらに、序二段から復活劇を遂げ、再度大関の座を狙う照ノ富士にも注目だ。北勝富士と対戦した初日は、立ち合いで相手に起こされ、得意の右四つとは逆の左下手を取ったが、そのまま引き付けて豪快に下手投げ。相手を振り回すような力技でねじ伏せた。伊勢ヶ濱部屋での稽古も十分なのだろう、部屋付きの安治川親方(元関脇・安美錦)が太鼓判を押すように、二桁勝利で返り大関となるか。

三人の大関のなかでは、17kgもの減量をしたという貴景勝が光った。同じく突き押しの阿武咲に対し、立ち合い頭で当たり合うと、そのまま一気に攻め込み、押し出した。相手に何もさせない一方的な攻めで、本来の大関の姿が戻ってきた印象だ。減量したという体は、確かに一回り小さく見えるが、しっかりと張りがある。カド番脱出はもちろん、さらにその先にも、いまから期待していいだろう。

十両以下の土俵 「復活」の阿炎も

先場所はたった9番しかなかった十両の土俵。今場所は休場者ゼロで14番と、たっぷり楽しめる印象だ。相撲が見られるありがたみを噛み締めながら、一番一番食い入るように見守った。

一場所空けての出場となった小兵力士・炎鵬は、相撲勘の戻りの状態が懸念されていたが、そんな不安を吹き飛ばすような動きの速い相撲で相手を翻弄し、華麗な足取りで勝利。少し体も大きくなっただろうか。人気力士の復帰に期待が高まる。

さらに、謹慎明けで3場所ぶりに土俵に戻ってきた錣山部屋の阿炎は、幕下56枚目からの復帰となった。立ち合いから長い腕でもろ手突き、土俵際まで相手を追い込み、最後は華麗に上手投げを決めた。この番付の位置では、着実に結果が残せることだろう。会場からも大きく温かい拍手で迎えられ、土俵に上がれることがうれしかったという。心機一転、生まれ変わった阿炎の再スタートを応援したい。

まだ初日が終わったばかりだというのに、どこをとっても見どころ満載の春場所。ここからまた、新たなドラマが始まる。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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