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異例の1年は最後の最後にドラマ──24歳の貴景勝が魅せた「大関の矜持」

飯塚さきスポーツライター
写真:日刊スポーツ/アフロ

令和2年最後の本場所。大関・貴景勝と小結・照ノ富士が、最後の最後まで魅せてくれた。

本割で見せた照ノ富士の強さ

1敗でトップを走る大関と、2敗で追いかける照ノ富士の結びの一番。貴景勝が勝てば優勝、負ければ優勝決定戦になる取組だった。

互いに五分の立ち合い。貴景勝が照ノ富士を押し込むが、はたいて両者土俵中央に戻る。一度見合った直後、照ノ富士ががっちりと貴景勝を捕まえると、豪快に振り回して浴びせ倒した。やはり、捕まえたら照ノ富士。強さが光った。

13勝2敗で並んだ両者。決着は、優勝決定戦にまで持ち込まれた。なんと手に汗握る展開だろうか。

重圧をはねのけた大関の矜持

迎えた決定戦。どちらが勝ってもおかしくない一番といえた。固唾をのんで見守る。

時間いっぱい。仕切り線に先に両手をついて待ったのは貴景勝だった。立ち合い。当たりの強さと出足で貴景勝が圧倒し、あっという間に身長191センチの大きな照ノ富士を押し出した。まさに完璧な相撲。大関の矜持と高い精神力が、自身二度目かつ大関として初の幕内最高優勝へと導いた瞬間だった。土俵上での表情は、心なしか感極まっているように見えたのは、私だけではないはずだ。

こうして、令和2年最後の場所は、一人大関の貴景勝が、その責任を全うし、しっかりと土俵を締めて幕を閉じた。苦しい重圧をはねのけ、結果を残して来年の綱とりを見据える24歳の若き大関の姿は、多くの人の心をとらえたといえる。大きな感動を届けてくれた大関と、最後まで見ごたえのあるドラマを演じてくれた照ノ富士の両者には、心から感謝の意を示したい。

十両優勝は決定戦で翠富士に軍配

十両の土俵では、4敗で単独トップだった翠富士が、5敗で追いかける旭秀鵬と対戦し、旭秀鵬の強烈なはたきに倒れ、両者の優勝決定戦に持ち込まれた。二度目の取組では、翠富士が立ち合いを変え、相手の中に入って前みつを取り、前に出て押し出し。すでに確実視されていた新入幕に加え、十両優勝に花を添えた。

取組後のインタビューで、部屋の安治川親方(元・安美錦)から「立ち合い胸から行け」というアドバイスをもらい、その通りにして勝てたことを明かした。業師として活躍した親方からの助言で、またしても面白い小兵力士が、来年から幕内の土俵で見られることになる。

異例の一年に幕

今年は、5月場所が中止、その他5場所中4場所が両国国技館で行われた。1年の最後の場所が東京で行われ、足を運んだことに不思議な違和感を抱くと同時に、例年大相撲で1年を締めくくっている九州の皆さんからその楽しみが奪われてしまったことに、改めて心を痛めた。一刻も早く事態が好転し、地方場所や巡業を含め、通常の興行が行えることを願ってやまない。

誰も予想できない、まさに異例の年になった2020年だが、こうして無事に本場所が終了したことと、土俵上から見る人に勇気や元気を届けてくださったすべての関係者の皆さんに感謝をしたい。また、3月場所前から始まった筆者の拙文にもお付き合いいただきありがとうございました。来年からもどうぞよろしくお願いいたします。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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