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横綱不在の9月場所で期待の力士は──初日の取組で存在感を示した貴景勝と正代

飯塚さきスポーツライター
写真:日刊スポーツ/アフロ

いよいよ、待ちに待った大相撲9月場所が始まった。前回の7月場所に引き続き行われている、観客数の制限や拍手のみの応援といったコロナ対策は、すっかり定着してきたように見受けられる。初日からの両横綱の不在は、やはりどこか物足りなさを感じざるを得ないが、そんな心のもやを吹き消してしまうほど、土俵上の活躍が光った。まだ始まったばかりの9月場所であるが、あえていま、筆者の独断と偏見で、好成績が期待される力士を予想していきたい。

大関・貴景勝と関脇・正代

昨日の取組で目を見張ったのは、大関・貴景勝と関脇・正代の白星。場所前に婚約を発表し、明るい話題を届けてくれた貴景勝は、膝のケガで先場所途中休場したため、今場所の状態も心配されていた。しかし、先場所見事な復活優勝を遂げ、乗りに乗っている照ノ富士を相手に、立ち合いから圧倒し、得意の突き押しで一気に土俵の外へ押し出し。高い集中力を発揮し、気合の乗った貴景勝らしい相撲で、ケガへの懸念をあっという間に吹き飛ばしてくれた。横綱不在で、優勝争いは混戦が予想されているが、だからこそ大関として、その強さを見せつけてくれるだろうと期待している。

先場所では、優勝した照ノ富士に土をつけ、堂々の11勝を挙げた正代。元来の実力も申し分ないのだが、昨日の正代は特に、人が変わったように強かった。立ち合いでは、相手の隆の勝が低く鋭い当たりを見せたが、それをものともせずに強く踏み込み、圧力をかけて一気に押し出した。文句なしの素晴らしい相撲で、思わず「強い!」と叫んでしまうほど。現地観戦していたら危ないところであった。正代に昨日のような相撲が続けば、もう怖いものなしだろう。ほかの上位陣に対しても、力を発揮してくれることを願う。

初日黒星でも期待の3人

残念ながら白星発進にはならなかったが、敗れた照ノ富士も、調子が悪いわけではないように見えた。取組後の悔しそうな表情を含めて、今日からはまた締め直してくるだろうと予想している。先場所とは一転、上位陣とばかり当たる位置にいるが、それを問題にせず、元大関としてその実力をフルに発揮してほしい。

そして、今場所注目力士の一人は、なんといっても新関脇の大栄翔である。ここ1年ほどでますます力がついてきた印象だ。初日は土俵際でかわされて落ちてしまい、以前自身でも話していた「攻めていった土俵際での逆転負けが多い」という課題が残る結果にはなってしまったが、相手の玉鷲も圧力の強い力士である。ここはなんとか気持ちを切り替えて、今日からまた大栄翔らしいまっすぐな相撲を見せてほしいと思う。

結びを務めた大関・朝乃山は、昨日遠藤と対戦。互いに攻め合い、両者とも土俵際で強靱な粘りを見せたが、相手の得意とする右を取らせないようにと動き続けた遠藤に軍配が上がった。これで朝乃山との対戦成績を7勝4敗とした、まさに”朝乃山キラー”。この日最も攻防がある、見ごたえたっぷりな取組であった。初日は星につながらなかったが、個人的な期待を込めて、ぜひ大関の活躍を今場所も見たいと書いておく。

元大関と若手も活躍

この日、幕内最長の取組となったのが、高安-宝富士戦。がっぷり四つでの体力勝負になり、最後に我慢勝ちしたのは、元大関の高安だった。腰のケガに悩まされてきたが、この日の取組を見ると、下半身が安定しており、ケガの心配はあまり見られなかった。同じく元大関である照ノ富士の活躍に鼓舞され、次は自分がという闘志を燃やして結果につながってくれたら面白い。

勢いのある若手も、楽しみな存在である。今場所新入幕の豊昇龍と翔猿は、そろって白星発進。二人とも、取組後のインタビューでは「緊張していた」と話していたが、それを感じさせない堂々とした相撲を見せた。

残念ながら先場所は負け越してしまった5枚目の霧馬山も、怪力の栃ノ心を相手に力で対応。相手の形にさせないよう、力強い引き付けを見せ、見事に寄り切った。こうした若手力士の活躍にも注目しておきたい。

まだ始まったばかりの9月場所。はたしてどのような展開になるだろうか。今場所も目が離せない。また、日々の取組と併せて、筆者の記事にもぜひお付き合いください。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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