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大相撲七月場所を盛り上げた力士たち 優勝を逃しても新大関・朝乃山を称えたいわけ

飯塚さきスポーツライター
写真:毎日新聞社/アフロ

大相撲七月場所は、照ノ富士の奇跡の復活優勝で幕を閉じた。多くの人に注目された今場所。照ノ富士については多くのメディアで報じられたため、歴史に残る場所を演出したほかの力士たちについても、敬意と称賛の意をここに示したいと思う。

新大関で12勝、あっぱれ!

まずは、新大関のプレッシャーのなかで戦い抜き、12勝の好成績で場所を終えた朝乃山。照ノ富士との直接対決では、自身の得意とする右四つの形で敗れたことで、精神的なダメージを負っただけでなく、大関として結果を残せなかったことで、自責の念に駆られたことだろう。

場所後の北の富士さんのコラムでは、次のように書かれている。

12勝は星だけみると立派な及第点である。しかし、両横綱、1大関不在の場所であり、照ノ富士と照強戦の2連敗は、精神面の弱さのようなものを感じさせた。小兵の照強に足を取られ、幕尻の相手に優勝をさらわれてしまったのは、まさに屈辱的である。(中略)このところの初優勝はみな、横綱不在の場所に実現している。こんな時に頑張るのが、大切な大関の仕事ではあるまいか。その点では、今場所の朝乃山は立派に責任を果たしたとは言えないと思う。

出典:横綱不在…12勝の朝乃山は大関の責任を果たしたとは言えない、両横綱もそろそろ…だからしっかりしてもらいたい【北の富士コラム】(中日スポーツ/2020年8月2日)

北の富士さんは、元横綱として、しかも期待の念を込めてあえて厳しい言葉を選んでいるのだろう。しかし、新大関の場所で12勝である。特に中盤までは、先場所より一回りも二回りも強くなった姿を見せ続けてくれていた。あまりの強さ、右四つの盤石さに、開いた口が塞がらないほどだった。

もちろん、上を目指す者として、本人も多くの反省があることは理解するが、私は大いに称えたいと思う。彼はきっと、この成績に満足することなく成長し続け、来場所以降も私たちを魅了してくれるに違いないのだから。

奮闘した三役力士たち

さらに、最後まで優勝争いに絡んだ御嶽海、正代の両関脇。関脇が強いと相撲が面白いということを、まさに見せつけてくれた。そして、小結で初めて勝ち越した大栄翔と隠岐の海。特に大栄翔に至っては、全勝だった横綱・白鵬を堂々の押し相撲で破った上、その後も星を伸ばして二桁勝利を挙げた。殊勲賞受賞は文句なしだったと言っていいだろう。

三役力士が全員勝ち越しを決めたため、残念ながら彼らの番付が上がることはないのかもしれない。番付でいうと、筆頭で勝ち越した遠藤も、地位はそのままになるのだろうか。個人的には、小結・関脇も2人以上に枠を増やしてもいいのではないか、ぜひ全員一つ上に上げてもらえないだろうかとさえ思うのだが、はたして。来場所の番付編成も、見どころの一つとなりそうだ。

横綱大関への労い

最後に、12日目までこの場所を牽引してくれた横綱・白鵬と、ケガに向き合いながら8勝して大関の座を守った貴景勝の二人にも、本当にお疲れさまでしたと伝えたい。白鵬が今場所でケガをしたのは、4日目だったという。それでも、連日横綱相撲を見せ続け、「やっぱり横綱は強い」と思わせてくれた。

貴景勝は、誰が見ても万全ではない状態だったにもかかわらず、低くどっしりとした立ち合いと出足、その磨かれた押し相撲を貫き、8回も勝ったこと。どちらも並大抵のことではない。二人とも、最後まで取り続けてほしい気持ちはもちろんあったが、それ以上にまずはケガと向き合い、少しでもより良い状態で、次の土俵に帰ってきてくれることを切に願っている。

次の9月場所は、約1か月後。普段よりも場所のスパンが短い分、ケガを抱える力士たちには大きな負担がかかる。「無理しないで」と声をかけると、どの力士からも「無理しないでできるわけないでしょ!」と返されてしまうのだが、自らの体としっかり対話しながら、来場所また元気な姿でお目にかかれればと思う。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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