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大栄翔の快挙に座布団が飛ばない「新様式」 白鵬に土で優勝争いは鳥肌が立つ展開か

飯塚さきスポーツライター
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

横綱・白鵬に土!

大相撲七月場所十一日目。単独で全勝を守ってきた盤石の横綱・白鵬に、ついに土がついた。通常であれば座布団が舞う場面だっただろうが、新型コロナウイルス感染防止のため、その光景はない。勝ったのは小結の大栄翔。地道な努力を実らせてきた力士だ。

立ち合いから思い切ってぶつかり、バランスを崩した横綱が反撃してきたところを、いいタイミングでいなした。そのいなしで横綱が体勢を崩した瞬間を、果敢に攻めていって土俵外に押し出した。文句なしの勝利だったといっていいだろう。敗れた白鵬も思わず苦笑い。

プロで磨いた武器は突き押し

突き押し相撲で魅せる大栄翔。高校生までは四つで取っていたが、師匠である追手風親方に「高校生のなかでは体が大きくても、プロに入ったら小さいほうなんだから、突っ張っていったほうがいい」とアドバイスをもらい、以来稽古場で突き押し相撲を磨いてきた。

普段の大栄翔は、素直で素朴な青年だ。角界では”いじられキャラ”としても知られているが、誰からも愛されるのは、その優しさと性格のよさにある。幼少期からまっすぐな性格は変わらず、素直に監督や親方のアドバイスを吸収しながら、めきめきと力をつけてきた。

筆者が4月に取材したときには「攻めていった土俵際での逆転負けも多いので、そのあたりを克服したいと思っています」と話していたが、今場所ではあまりそういった場面は見られない。むしろ、細かい課題を克服し、以前よりも安定して相撲を取っているように見受けられる。

今場所も、勝っている相撲では、立ち合いで頭からぶつかり、前へ前へと突き進んで、自分の相撲を取り切れている。相手にいなされても落ちない。七日目に対戦した隠岐の海との一戦では、自分の形でない四つに組むも、きっちりと腰を落として寄り切った。自分の長所を出し切れている上、対応力もついてきたのではないだろうか。

無観客で開催された春場所で勝ち越し、三役に返り咲いた大栄翔。場所前は、「三役に戻れたので、次の場所は勝ち越し以上を目指したい」と話していたが、その目標を前に、ひとつ大きな役割を果たせたといえるだろう。目標である勝ち越しも、今日以降にきっと実現することになると確信している。

混戦する優勝争い

大栄翔の大きな1勝によって、白鵬・朝乃山・照ノ富士が1敗で並んだ。幕尻の照ノ富士は、いまのところこの二人との対戦はないが、このまま優勝争いに食い込み続けるのであれば、どこかで割を崩して直接対決を実現してほしいと願ってしまう。それがどうしてもかなわないのなら、上位と当たらないまま優勝することも考えられる。しかし、そんな展開を、横綱・大関は易々と許してしまうのか。今後の展開を想像するだけで、鳥肌が立つほどわくわくしてしまうのは、きっと私だけではないはずだ。

千秋楽まであと4日。中止を経て4か月ぶりに開催された大相撲の本場所は、本領発揮を続ける力士たちの真剣勝負によって、期待以上の盛り上がりを見せている。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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