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朝乃山撃破の番狂わせ演じた御嶽海に、声援禁止の館内どよめき 十日目現地レポート

飯塚さきスポーツライター
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

大相撲七月場所十日目。この日、筆者は東京・両国国技館に足を運び、取組を観戦した。今回は、実際の現地の様子をリポートしながら十日目を振り返る。

感染対策万全の館内

開場時間の13時より30分ほど前に国技館に到着。普段は入口でもぎりをする親方の姿はなく、フェイスシールドやマスクをつけて立っているスタッフにチケットを見せて入場する。13時になるまでは、足元の印の上に立ち、前後の人と一定の間隔を空けながら並んで待った。

いざ中に入ると、普段は多くの人でにぎわう相撲案内所や売店などが軒並み閉まっており、がらんとしている。売っているのは焼き鳥と飲み物、タオルやキーホルダーなどの通年売っている相撲グッズのみ。代わりに、至るところに消毒用のアルコールが置かれていたのと、換気のための大きなスポットエアコンが、1階に2台設置されていた。

席に着くと、人口密度の低さに驚く。それに相まって換気も十分に行われているため、Tシャツ1枚では肌寒いくらいだ。しかし、4人用のマス席に一人で座ると、荷物は置き放題、どんな体勢でもゆったりと座れて、これぞ贅沢の極みといったところだろうか。行事や呼出しの声、力士たちの息遣いなど、土俵上の音も本当に鮮明に聞こえてくる。生観戦の醍醐味はこの臨場感にあるが、今場所はより一層それを感じずにはいられない。普段は味わえない、貴重な体験だといえる。

ついに新大関に土

では、この日の取組を振り返ってみよう。十両の土俵では、2敗でトップを走る若元春が、動きの光る翔猿と対戦。立ち合いと同時に、翔猿がのど輪で相手の上体を起こしたところで右を差し、機敏な動きを見せながら寄り切り。若元春に土をつけた。同じく2敗だった水戸龍もこの日黒星を喫したため、3敗が天空海を含め3人となり、十両優勝の行方はまだまだ先の見えない展開になっている。

中入り後は幕内の土俵。全勝の横綱・大関を追いかける1敗の照ノ富士は、松鳳山との対戦。今場所あまり本調子を出せていない松鳳山に対し、一度立ち合いで待ったをかけるも、立った後は問題にしなかった。前への圧力をかけながら引いたときに、相手の手が前について引き落とし。またひとつ、星を伸ばした。

クライマックスは、全勝の朝乃山と2敗の関脇・御嶽海の一戦。感染予防対策で声を出しての応援が禁止され、拍手だけが許されるなか、間違いなくこの日最も大きな拍手に包まれた一番だったと言っていい。大勢の人が、「朝乃山」と書かれたタオルを掲げていた。

しかし、順調に見えていた今場所にも、番狂わせは起きた。朝乃山が土俵際、御嶽海の豪快な上手投げを食い、ついに黒星を喫したのだ。歓声を上げてはいけない現場でも、ほとんど全員がマスクの奥で「あっ」と息をのみ、そのわずかな声が寄り集まって小さなどよめきが起きてしまったほどだった。

その後、白鵬が順調に白星を伸ばしたことで、白鵬が全勝で単独トップに、1敗は朝乃山と照ノ富士の二人が続く形になった。

ファンの温かさに触れた日

今回、現地で観戦してみて印象的だったのは、テレビで見ていた以上に、お客さん一人一人がしっかりとマナーを守りながら、本当に一生懸命拍手を送っていたことだ。贔屓の力士だけでなく全員に丁寧に拍手を送る人、手のひらを真っ赤にしながら拍手を送る人が大勢いた。その音と心は、必ず土俵上の力士全員に届いているだろう。土俵上の迫力と同じくらい、ファンの温かさに心を打たれた一日だった。こうした光景が見られただけでも、今回観客を入れて開催したことの意義があるような気がしている。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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