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大相撲春場所は中止か無観客開催か? 力士にとって「本場所」が持つ意味とは

飯塚さきスポーツライター
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

新型コロナウイルスと大相撲

今や世界中に猛威を振るっている新型コロナウイルス。治療薬の開発と治験が進められているとのニュースも入ってきているが、人々の不安はいまだ拭われぬままだ。多くの人が集まるイベントや、スポーツ競技会の開催が、相次いで中止や延期になった。

その影響は、大相撲界にも広がっている。一門の連合稽古や、赤ちゃん抱っこ撮影会といったイベントが中止された。23日に奈良市で行われた徳勝龍関の優勝パレードこそ開催に至ったが、決定までには中止も視野に入れて検討されていたという。

さらに、日本相撲協会は26日、住吉大社の奉納土俵入りと、春場所前夜祭の中止を発表。場所前日に行われる土俵祭りは、三役以上の力士や一般客を入れずに行う。3月8日に初日を迎える春場所については、中止または無観客での開催も検討しており、3月1日の臨時理事会で対応を決定するとのこと。本場所が中止になれば、2011年春場所以来9年ぶり。無観客試合は、空襲を懸念した1945(昭和20)年5月の「非公開場所」以来で、戦後初となる。

注目が集まる協会の判断

力士たちは皆、本場所のためだけに日々の時間を費やしていると言っても過言ではない。積み上げてきたものすべてをぶつけ、培ってきた力をいかんなく発揮する舞台が、本場所の土俵なのである。その本場所がなくなってしまったときの力士たちの心境を考えただけで、胸が痛む。

一方で、無観客の本場所の様子は未知数といえる。誰しもが、その光景を想像するのは難しいのではないだろうか。どんな人気力士が出てきても、声援や拍手は一切なく、結びまで淡々と取組が進められていく――。その様子はきっと、味気ないものに映るに違いない。

しかし、今回の相手は強靭なウイルスだ。協会員だけでなく、一般のお客さんの人命にも関わる問題である。それを守るためには、味気ないなどと言っている場合ではない。無論、力士たちにとって、お客さんの声援が力になる場面は多いものだが、それがなくなったからといって、自分のやるべきことに変わりはないはずだ。

何よりも人命が最優先。そのリスクヘッジは重要である。力士や親方を含む協会員の感染を懸念して、今回ばかりは中止の決定が下ることもあるだろう。たとえ会場が無観客だとしても、支度部屋は普段通りの人口密度になるのだ。しかし、手洗い・うがいの徹底、マスクの着用、不要な外出を避けるなど、これまで一人一人が、できる限りの予防対策を続けてきた。こまめなアルコール消毒やファンとの握手の自粛など、どの力士もこれまで以上に気を使おうとしている。日々想像を絶する鍛錬を積む力士たちの努力と、その成果を目に焼き付けたいファンの気持ちを考えると、正直中止になってしまったら残念だな…というのが個人的な思いである。

力士たちの華やかな活躍が、どんよりと落ち込む日本をもう一度元気にさせてくれることを願って。さあ、コロナを寄り切れ!

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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