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「岸田氏は政治的私利私欲から“減税”という危険を冒した。最大の強みは代わりがいないこと」米外交誌

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 批判されている岸田氏の減税策や副大臣・政務官の「辞任ドミノ」に続き、自民党派閥の政治資金パーティー券問題や岸田派離脱表明など、日本では、岸田氏の人気の急落にさらに拍車をかけるような問題が生じている。

 海外のエキスパートは岸田氏のことをどのように評価しているのか?

 アジア太平洋地域にフォーカスした米オンライン外交誌「ザ・ディプロマット」(11月22日付)は「岸田氏は戦わずして日本をリードするのか?」というタイトルと「支持率が急落する中、岸田氏の最大の強みは代わりの候補者がいないことのようだ」というサブタイトルで、日本の政治や国際関係を専門としている、ニューサウスウェールズ大学のオルリア・ジョージ・ムルガン教授の記事を掲載している。

 ムルガン教授は「日本の岸田文雄首相の人気急落により、彼の将来性について深刻な疑問が生じている。日本を軍事大国及び世界的に傑出した外交の道へと上手く導く一方で、彼の国内における政治生命がこれほど疑わしくなることはなかった。日本の国際関係における岸田氏の成功とは明らかに対照的に、彼の国内政策の欠点リストは拡大している。しかし、明確な後任がいないため、岸田氏は戦わずして首相であり続けるのかどうか疑問が生じている」と岸田氏の人気が国内政策のために急落しているにもかかわらず、代わりがいないために岸田氏が首相であり続けることが疑問視されているとの見方を示している。

減税策は自民党総裁再選のための必要条件

 また、岸田氏の支持率が危険水域に突入したことや、その理由として、特に、岸田氏の減税策に対する期待が低いことを指摘。

 減税策が岸田氏が支持率を回復するための政治戦略であり、2024年9月の自民党総裁再選を確実にするための必要条件と見られていることや、NHKの世論調査でも人々が減税策や物価上昇に対処できていない状況に批判的であること、また、岸田内閣を支持した人であっても、その約7割が岸田氏を積極的には支持しておらず「彼らの支持は、支持政党であることや代わりになるような内閣よりも岸田内閣の方が望ましいという事実に基づいていた」と代わりがいないので岸田内閣を支持しているという仕方のない状況についても言及している。

 さらに、ムルガン教授は、エリートたちも減税策に批判的であるとし、「この措置には問題が山積しており、政策を構想する政府の能力は明らかに低下しており、特に減税の目的が明確になっておらず、税収が予想を上回った場合に納税者に還元するというのは“おかしな考え”」とする一橋大学の野口名誉教授の見解を紹介したり「保守系の産経新聞が、補正予算の歳入の7割近くが国債増発でまかなわれていることを考慮すると“還元”という岸田氏の説明は“違和感がある”と断言した」とも述べている。

 また、前例のない防衛力増強に着手するため必然的に増税が生じることや、子育て世帯への支援強化などの政策も財源が不透明であれば岸田氏の人気を損失させる可能性があるとの見方を示している。

減税策の背後にあるのは政治的私利私欲か

 ムルガン教授は岸田氏の政治的私利私欲についても指摘している。

「岸田氏の財政政策に関して、もう一つ失敗と見られているのは、麻生太郎自民党副総裁を含む党内の他の勢力と十分な協議をしなかったことである。つまり、岸田氏はあからさまな政治的私利私欲から政策を立案するという危険を冒した。その結果、党内では岸田氏のリーダーシップに対する不満が高まっており、世論調査では3分の1が即時辞任を望んでいる」

 また、副大臣や政務官の不祥事で辞任が続いていることから「岸田政権の危機管理の甘さも批判されている」と危機管理能力が問題視されていることにも言及。

 窮地に陥った岸田氏は、戦うことなく確実に総裁に再選するために、経済を活性化させたり、外交における功績をアピールしたりして政治的基盤を回復してから、衆院解散総選挙を実施するだろうというメディアの予測も紹介している。

 そして、ラストはこう結んでいる。

「岸田氏の最大のアドバンテージは、自民党総裁及び首相として岸田氏に代わる明らかな後任がいないことである。自民党の事実上の一党支配は弱まる兆しを見せていない。 野党に対する国民の支持率は依然として低い。 国内の政治的及び政策的問題にもかかわらず、当分の間、岸田氏は戦わずして首相のままである」

 皮肉にも、“代わりがいないことが最大のアドバンテージ”と見られてしまった岸田氏だが、次から次へとスキャンダルがわき起こる中、そのアドバンテージを活かして、首相の座に留まり続けることができるのか?

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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