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“生き地獄”の米刑務所で起きている「ヤバすぎる性虐待」 黒人を暴行死させた元警官は収容中に刺される

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
フロイドさんを暴行死させて有罪となり、服役中の刑務所で刺されたショービン受刑者。(提供:代表撮影/ロイター/アフロ)

 2020年5月、ミネソタ州で黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人の元警官デレク・ショービン受刑者に過剰な暴行を受けて死亡した“フロイドさん事件”は世界中で注目されたので記憶に新しいことと思う。

 フロイドさんは当時警官だったショービン受刑者に、8分46秒間にわたって膝で首を押さえつけられた末、窒息死した。フロイドさんが「息ができない」と苦しみを訴える様子を撮影した動画はSNSで拡散され、世界各地で“Black Lives Matter”と呼ばれる抗議運動が起きる。ショービン受刑者は第2級殺人などで有罪評決を受けてアリゾナ州の刑務所で服役中だが、11月24日、刑務所内で刺されて重傷を負い、病院に搬送された。

 ショービン受刑者のように注目された事件の加害者は刑務所でも暴力のターゲットになりやすい。そのため、ショービン受刑者の弁護士は、ショービン受刑者が一般受刑者とは別のところに収容されるよう訴えていたという。

 アメリカの刑務所では、ショービン受刑者が受けたような暴力行為は頻繁に発生しており、シンクタンク“プリズン・ポリシー・イニシアティブ”の集計によると、州刑務所で起きた殺人件数は近年、上昇の一途を辿っている。

生き地獄だった

 受刑者が性的虐待の被害者になっている状況もある。筆者は『銃弾の向こう側ー日本人留学生はなぜ殺されたかー』(草思社刊)を執筆するにあたり、刑務所に収容されたことがあるギャングたちに話をきいたが、彼らが刑務所内で体験したことは、耳を塞ぎたくなるほど恐ろしくヤバいものだった。

 「生き地獄だった」

 15歳から21歳までの6年間、サクラメント近くの刑務所で服役していたロサンゼルス郊外のサンペドロに住むヒスパニック系のギャング、ロンはそう言い切った。身体が小さかったロンは、同じ2人部屋のセル(刑務所内の監房のこと)に収容されていた巨体のセルメイトに「舐めてくれないか」とオーラルセックスをし合うことを強要された。刑務所内では、ホモセクシュアルではなくとも、男同士でセックスすることはほとんど当たり前になっていたという。

「夜間だけではなく、昼間も、あちこちのセルから男たちが絶頂に達する声が聞こえてきた。俺も、性欲を解消するための機械的な行為だと割り切って、男同士のセックスをした。ポルノ雑誌を見ながら男とセックスすることもあった。そうすれば、少なくとも女とやっている気分に浸ることができるからね」

 エイズなどの性病防止のため、看守が受刑者にコンドームを配りに来ることもあったほど、受刑者間のセックスは普通の行為になっていたようだ。

 特に、アジア系の受刑者は入所するなりセックスのターゲットにされたという。

「新しく入ってきた受刑者は注目を浴びるが、特に、色白で痩せているアジア系の受刑者はフェミニンに見えるからか、みんな、なめ回すように見ていた。アジア系の受刑者はすぐに同じセルの受刑者にレイプされていた。シャワールームでも、看守が目を離している隙に、サッとやられていた。抵抗する気力もなくして、すすんで受刑者らのオモチャになっているように見えた。かわいそうだったよ」

エサをぶら下げてくる看守

 ロンは看守からも「やらせろ」とセックスを要求された。

「拒否すると、看守は『ポルノ雑誌を持ってきてやるからさあ。美味しいピザがいいか? テキーラを飲ませてあげるよ』とエサをぶら下げて取引きしてきた。実際、ポルノ雑誌もピザもテキーラも全ての欲望が絶たれた受刑者にとっては貴重な物なんだ。だから、看守とのセックスと引き換えに手に入れる者もいたよ」

 ロンは女性看守から誘われることもあったという。

「狭いセルの中では身体がなまってしまうから、受刑者は腹筋や腕立て伏せなどのエキササイズをして筋骨逞しくなっていく。女性看守の中には、鍛えられた受刑者の身体に魅了される者もいるのさ」

 女性刑務所の状況はもっと酷いとも、ロンは続けた。

「看守によるレイプやフェラチオの強要は当たり前。だから、女性受刑者たちは刑務所に入る前に髪を短く切るんだよ。そうすれば、看守の性欲を刺激しないですむし、レズビアンだと勘違いされるかもしれないからね。『私はHIVポジティブなのよ』と嘘をつくこともセックスを拒否する一手になっているとさ」

ザ・レイプ・クラブ

 実際、米連邦刑務所局の内部書類を入手したAP通信が「ザ・レイプ・クラブ」とさえ呼ばれているカリフォルニア州ダブリンにある連邦女性刑務所では、女性受刑者たちが看守からだけではなく、刑務所の所長からも性的虐待を受け、口外すると罰すると脅されていたと昨年2月報じている。今年3月、この女性刑務所の元所長は、3人の女性受刑者に性的虐待を行ったことで禁錮70ヶ月の有罪判決を受けた。

 また、米司法統計局が2023年1月に発表した、成人刑務所に収容されている受刑者が他の受刑者または職員によって性的被害を受けたことが立証された事件に関する報告書もアメリカの刑務所における性的被害の深刻さを物語っている。この報告書によると、受刑者により性的被害を受けた受刑者は2,666人、職員により性的被害を受けた受刑者は2,229人だった。

 受刑者から同意のない性行為をされた受刑者の61%が、また、虐待的な性的接触をされた受刑者の36%が医療機関で検査を受けていた。

 また、受刑者による受刑者に対する性的加害事件や職員による受刑者に対する性的加害事件は、ともに、その半数が監視カメラが設置されていない場所で発生していた。

 多発する性的被害から受刑者をどう守るのか? 多くの問題を抱えているアメリカの刑務所システムにとって、受刑者の安全確保は大きな課題の一つだ。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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