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日本のメディアはまた見て見ぬふり? 米セレブ御用達日本料理店に対して起きた50万ドル請求セクハラ訴訟

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ハリウッドスター御用達のNobu Malibu。写真:10best.com

 ジャニー喜多川氏の性加害問題について、長きにわたり、見て見ぬふりをしてきたことが批判された日本の主要メディア。しかし、見て見ぬふりをしているのは、日本においてだけではないかもしれない。

 9月半ばのこと、ロサンゼルス・タイムズやABCテレビ、CBSテレビ、ニューヨーク・ポストなどアメリカの主要メディアが、世界的に有名な高級日本食レストランチェーン「NOBU」のマリブ店“Nobu Malibu(ノブ マリブ)”が、女性従業員からセクハラで提訴されたことを報じた。

 「NOBU」は、世界に名だたるセレブシェフの松久信幸氏が俳優ロバート・デ・ニーロ氏や映画プロデューサーのマイアー・テパー氏とともに1994年に創業、多くのハリウッドスターが訪れるセレブ御用達のレストランとして知られる。文藝春秋電子版によると、「NOBU」のマイアミ店には大谷翔平氏もチームメイトと訪れたという。

 東京を含め、世界で56店舗展開されている「NOBU」の中でも、今回、提訴された“Nobu Malibu”は、ハリウッドスターが多数居住するロサンゼルス郊外のマリブ市に立地することから、レオナルド・ディカプリオ、ジャスティン・ビーバー、ブラッドリー・クーパー、ビヨンセ、マドンナなど多数のハリウッドスターが訪れている。日本のセレブも多数訪れており、3月には、レイカーズの八村塁が同店で美女とデートしていたことをFRIDAYが報じている。

 そんな“Nobu Malibu”を相手取って起きたセクハラ訴訟について、アメリカの主要メディアは報じたものの、日本のメディアはなぜか未だに沈黙している。

 9月半ばというと、ジャニー氏の性加害問題について沈黙してきたメディアが批判に晒されていた時期だ。セクハラ問題には目を向けるべき時だったと思うが、海外で起きたセクハラ訴訟はそれが「NOBU」のような世界的に有名な日本食レストランであってもどこ吹く風なのだろうか? それとも、ジャニーズ事務所に対してしていたような忖度が働いたのか? それとも“日本の恥”となるようなケースには蓋をしておきたいのか?

ロサンゼルス郡上級裁判所に提出された訴状。
ロサンゼルス郡上級裁判所に提出された訴状。

日常的にセクハラを受けていた

 ロサンゼルス郡上級裁判所に提出された訴状によると、“Nobu Malibu”では、原告の女性や女性従業員たちが、マネージャーたちや客たちによるセクハラを日常的に受けており、マネージャーたちは性的な接待をしてくれる女性たちを優遇していたという。また、性的な接待は、店内で、勤務時間の前後に行われたとされている。

 もっとも、「NOBU」に対する訴訟が起きたのはこれが初めてではない。他のロケーションにある「NOBU」に対しても、セクハラや敵対的労働環境などをめぐって、これまでにも訴訟が起きていた。

 ちなみに、提訴した女性の仕事は、アメリカでは“ホステス”と呼ばれる、レストランのエントランスで、客を迎え入れて、席へと案内する受付のような仕事だ。日本での“ホステス”とは意味が異なる。アメリカの高級レストランでは通常、店内に入ると、ホステス専用のデスクも設置されている。

 エンターテインメント業界の人々が多いロサンゼルスでは、高級レストランで働くホステスやサーバー(ウエイターやウエイトレスのこと)は俳優を志している人が少なくなく、最初に提訴した女性も女優志願で、「NOBU」での仕事はエンターテインメント業界にアクセスする機会になると感じていたようだ。

首筋にキスしたり、ペニスを擦り付けたり

 2人の女性は、訴状で、どんなセクハラを受けたと述べているのか?

 9月13日に提訴した、女優志願の23歳の女性はマーカスというバーのマネージャーがお尻を撫でたり、電話番号を聞き出して営業時間外に会いたいと毎日のようにテキストメッセージを送ってきたり、両手を拘束して首筋にキスしたりしたと主張している。

 9月18日には、別の女性も、類似したセクハラ訴訟を起こした。訴状によると、マーカスは2021年のハローウィンの頃、この女性に興味を持ち、コスチュームとは無関係な写真を見せてほしいと言ったり、「滑らかな脚だ」と言ったりしたとされている。

 この頃、この女性はマネージメント側に、客にセクハラされたとの苦情も訴えている。客が自分の唇を舐めながら性的な誘惑を始め、いやらしい目つきで脚を褒めながら綺麗だと言ったという。彼女はそのことをスーパーバイザーに伝えたが、スーパーバイザーは「気にしないでいい、あなたの苦情を聞く時間はない」と答えたとされている。

 訴状にはまた、マーカスが彼女の後ろから歩み寄り、ペニスを彼女に擦りつけるような姿勢をとった後、女性の髪を引っ張りながら「髪を引っ張られるのが好きだって聞いた」と耳元で囁いたので、彼女は後退りして「聞き間違えよ」と答え、そんなやりとりを目撃した従業員がマネージメント側に報告したことも詳述されている。

 彼女たちが報告したマーカスによるセクハラについて、マネージメント側は調査して最新状況を報告すると言ったというが、調査状況は報告されず、彼女たちはマーカスが2022年初めに解雇されたことも他の従業員から知らされたと述べている。

 しかし、解雇された後も、マーカスが客としてレストランを訪れ続け、女性従業員の一人がそのために精神的に衰弱したことから、女性たちは、マネージメント側がマーカスがレストランに来るのを阻止する努力をしなかったと主張している。 女性たちはまた、マーカスに関する苦情を提起したことへの報復として、マネージメント側が彼女たちをウィークエンドのシフトから外したとも説明している。

性的誘惑や虐待に耐えている

 訴状ではまた、「レストラン側が従業員に客の気を引くように振る舞うよう薦めたり、“露出度の高い黒い制服”の着用を義務づけたりして、従業員を客やマネージャーによる性的誘惑にさらし、従業員の保護を規定している企業ポリシーに遵守していない」、「ハリウッドの輝けるスターたちに近いことや『お客様を第一に喜ばせる』という「NOBU」のモットーの下、原告や若い女性従業員たちは「NOBU」の華やかな評判や自分たちの仕事を維持するために、あからさまな性的誘惑や虐待に耐えている」とも述べられている。

 2人の女性は、ジェンダーに基づく従業員差別、ハラスメント、報復、性的暴行などによるダメージを受けたとして、それぞれ、最低50万ドルの損害賠償と弁護士料の支払いを求めている。

 ジャニー氏の性加害問題が取り沙汰されているにもかかわらず、日本では未だ報じられていない「NOBU」に対して起きたセクハラ訴訟。日本のメディアはジャニー氏の性加害問題について沈黙してきたという失態を反省しているようだが、果たして、本当に反省しているのだろうか?

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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