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「1929年(世界恐慌)に類似」マスク氏、「銀行破綻はもっと起きる」元FDIC総裁 金融危機再来か

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の経営破綻により、信用不安が拡大している。

 米財務省は破綻の連鎖を回避するため、これらの銀行の預金を全額保護すると発表、破綻が懸念されている中堅のファースト・リパブリック銀行も大手銀行11社から計300億ドル(約4兆円)の支援を受けたものの、信用格付けはジャンク(投資不適格)級に格下げされ、株価は下落を続けて週明けの20日は約47%下落、21日にはイエレン米財務長官が同行の2回目の支援に言及したことから約30%上昇したものの、同行が危機管理のアドバイザーを雇ったとウォール・ストリート・ジャーナルが報じた後には時間外取引きで約15%下落と非常に不安定な状況が続いている。この一年で、同行の株価は90%超下落している状況だ。

 米連邦準備理事会(FRB)はシリコンバレー銀行破綻後に米国の銀行からの資金借り入れが急増し、先週、リーマン・ショック時の借り入れ額を上回ったと発表した。

 バイデン大統領は破綻後「銀行システムは安全」と国民の不安の払拭に走り、ローレンス・サマーズ元米財務長官も「破綻はシステミックな問題には繋がらない」との見解を示したが、ブルームバーグ通信によると、米格付け大手ムーディーズは、米国の銀行システムの格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ(弱含み)」に引き下げている。

金融危機に繋がる

 識者の多くが銀行システム全体の問題にはならないとの見解を示す中で、アメリカの銀行破綻の歴史を振り返りつつ、破綻の連鎖を懸念する声もあがっている。

 世界3大投資家の1人、ジム・ロジャーズ氏は「銀行の破綻は起きることなのです。これまでも起きてきました。今後、破綻は他行にも及ぶでしょう。リーマン・ショックのような金融危機も起きかねません」と警鐘を鳴らす。

 テスラモーターズCEOのイーロン・マスク氏はツイッターで「今年は、1929年と多くの類似点がある」とシリコンバレー銀行の破綻と1929年の世界恐慌は類似性しているとツイート。1929年10月、ダウ平均株価は2日で23%も暴落し、世界恐慌の始まりを告げた。

 マスク氏のツイートは、アメリカの投資家キャシー・ウッズ氏がした「ビットコインやイーサリアムのような仮想通貨の人気が、1920年代以降では初めて、前年比銀行預金高の下落に繋がった」とする趣旨のツイートに反応したものとみられているが、マスク氏は具体的にどんな類似点があるのかは明確にしていない。

1980年代に起きた銀行破綻と類似

 1980年代に起きた銀行破綻と似ているという指摘もある。

 1981年8月から1985年10月まで、預金保険業務を担う米政府の独立機関FDIC(連邦預金保険公社)の総裁を務め、破綻を監督したウィリアム・アイザック氏は、米政治サイト・ポリティコで「もっと破綻が起きるだろう。どれくらいの数の破綻が起きるかはわからない。1980年代にとても似ている」と懸念の色を示した。当時、アメリカでは、FDICに保護されていた1600以上の銀行が破綻するか、または、1980年から1994年の間に救済されたが、同氏は、1980年代に銀行危機が始まった時のアメリカの経済状況が、“その前の20年にわたって政府が行ってきたひどい財政金融政策”と“コントロール不能なインフレが起きていた”という点で、現在の状況に似ているというのだ。

 具体的には、シリコンバレー銀行の破綻は、1980年に起きたファースト・ペンシルバニア銀行の破綻と似ているという。ペンシルバニア州最大の同銀行は当時、固定利付国債に大きく投資、FRBがインフレ抑制のために大きく金利を上昇させたために、金利による圧迫に襲われて破綻した。同銀行の破綻により、アメリカでは1992年までの長きにわたり、金融システムが不安定な状況が続いたことから同氏は「今回の危機はそれほど長く続かないことを願う」と述べている。

 アイザック氏はまた、シリコンバレー銀行の状況は、1984年のコンチネンタル・イリノイ銀行の破綻とも似ていると指摘。この時、FDICは、銀行16社が準備したローンの4.5ビリオンドルを投入し、素早く同行を救済(ベイルアウト)した。しかし、取り付け騒ぎはストップすることなく同行は破産、1994年にバンク・オブ・アメリカに売却されるまで、政府の管理下で運営された。コンチネンタル・イリノイ銀行の救済以降、アメリカでは、取り付け騒ぎが金融システム全体に拡大することを回避するために、大手銀行に対しては「大き過ぎて潰せない(too big to fail)」対応が取られている。

政府の保護しすぎも問題か

 破綻したシリコンバレー銀行の預金の全額保護についても、アイザック氏は政府による“救済”という見方をしており、アイザック氏も、FDIC総裁として、1980年代の銀行破綻の際には、小口の預金者たちを救済したというが、同氏は、FDICがコンチネンタル・イリノイ銀行に対してしたようにはシリコンバレー銀行を強く保護することについては疑問視してこう述べている。

「保護されるべきでない非常に多くの人々を保護するために、我々がやりすぎることも懸念している」

 これは、シリコンバレー銀行に、IT関連企業が企業運営のために何百万ドルもの大口の預金をしていたことから出た発言だろう。

 エリザベス・ウォーレン上院議員も、富裕なIT企業の預金が全額保護されることに疑問を呈し、「何百万人もの人々が学生ローンの返済に苦労して不安定な状況なのに、莫大な資産を持つ仮想通貨企業には預金を少しも失わせないよう介入したシステムに、アメリカ人が懐疑的になるのは当然だ」と述べている。

 前出のロジャーズ氏も米政府による救済に批判的だ。

「バイデン大統領が2つの銀行を救済したことは問題です。救済は長期的には状況を悪化させます。破綻したのなら、新しく、一からスタートさせるべきなのです。政府が介入するのは大きな間違いだと思います。日本も、32年間、破綻させられずにきたことが、結果的には、今の経済状況を生み出しているのです」

 投資家ウォーレン・バフェット氏が地銀支援のためにバイデン政権と接触しているとも報じられているが、金融不安は解決に向かうのか。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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