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「岸田氏はハト派だが、タカ派以上だ」「日本は戦時体制へと転換」 米メディアは日米首脳会談をどう見たか

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 米国時間1月13日、ホワイトハウスで、バイデン大統領と岸田首相による日米首脳会談が行われた。バイデン大統領は日本の防衛力の抜本的強化や外交的取り組みを評価、日米同盟はこれまでになく強固なものとなった。

 背景にあるのは、ロサンゼルス・タイムズが「ウクライナ侵攻が、起こりうる中国の台湾攻撃に関する世界の不安を拡大させ、岸田氏に、日本の防衛政策を、リフォームさせる動機を与えた」と指摘し、ワシントン・ポストも「中国とロシアは、高まる脅威から自国民を守るためには反撃能力が必要であることを日本の指導者たちに確信させた」と述べているように、台湾有事に対する懸念や北朝鮮によるミサイル実験、ロシアによるウクライナ侵攻だ。

 12月、岸田氏は、2027年までに、歴史的にGDPの1%以下だった防衛費を2%に増額する計画を発表したが、アメリカのメディアは、第二次大戦後、平和主義を構築した日本が防衛費を大幅に増額し、「新たな国家安全保障戦略」の下、安保政策の大転換を図ろうとしている動きを「日本の新たなタカ派のスタンス」「再軍備化」「平和主義のスタンスから中国封じ込めへとシフト」などと表現し、日本が戦後維持してきた平和主義を捨て去ろうとする動きを驚きをもって見ている。

岸田氏はハト派だが、タカ派以上のことをしている

 シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所」で、アジアにおけるアメリカの防衛戦略を研究している上級研究員のザッカリー・クーパー氏はロサンゼルス・タイムズで、岸田氏による防衛力強化について「岸田氏は保守的な自民党のハト派出身だが、タカ派の安倍氏が成功できなかった点で成功したようだ」、「多くの人々が、岸田氏はこのような類いの大きなチェンジを推進しないと思っていただろう。しかし、彼は現在国内で起きている政治闘争にもかかわらず、それを実行しており、多くのオブザーバーを驚かせている」と述べているが、アメリカは、ハト派の岸田氏による安保政策の大転換を予期していなかったのかもしれない。

 また、同氏は「岸田氏は、世界の舞台でもっと積極的に行動するという安倍氏のプレイブックに従っている」と岸田氏が安倍氏の外交路線を踏襲していると指摘している。

 同様に、ニューヨーク・タイムズも、「日本の政権は、何十年もの間、国防力が憲法によって制限されている意味を再解釈してきたが、反撃能力を追求する岸田氏の判断は、何人かのタカ派の自民党議員たちが進んで公言してきたことを凌駕している」と岸田氏はタカ派以上のことをしているという見方を示している。

日米同盟は戦時体制へと転換

 実際、そのタカ派ぶりからか、日本が戦時体制へと転換しているという指摘まである。前述のクーパー氏は、安全保障専門サイトに寄稿した「戦時体制への日本の転換」という論文の中で、「日本政府とアメリカ政府は、近い将来起こる可能性がある大きな争いに対して真剣に準備している。日米同盟は戦時体制へとシフトしている」とし、「平和主義から地域を衛る国への日本の移行はまだ完了していないが、かなり進行していることは今では否定できない」と結論づけている。

 もっとも転換は日本だけではなく、アメリカでも起きたようだ。

 バイデン政権の元国家安全保障会議高官で、現在は戦略国際問題研究所の日本部門のチェアを務めるクリス・ジョンストーン氏がAP通信に対し、「ほんの数年前は、ワシントンでは、日本が軍事力を持つことにはいくらか不快感があっただろう。そういう日々は終わった」と述べているように、アメリカには、日本の再軍備化を懸念する声もあった。しかし、高まる中国や北朝鮮の脅威を前に日米がより連携する必要性から、そんな懸念は払拭されたようだ。

韓国の怒り、中国の反発

 米紙は、日本の防衛力強化が隣国に影響を与えることも指摘している。ニューヨーク・タイムズは「軍事力を増強する日本の動きは、アメリカのもう一つの同盟国である韓国を不安にさせる可能性がある。前世紀の日本による朝鮮半島の暴力的な占領をめぐり、多くの韓国人の間には長年の怒りがあるからだ。この問題は、両国の関係を妨げ続けている」とし、ロサンゼルス・タイムズも「日本の新たな闘志は、1930年代及び1940年代初期の日本の占領期の日本の軍事力への深い嫌悪がある中国で、反発を引き起こすのは避けられないだろう」と述べている。

経済政策では相違点

 一蓮托生になった感のある日本とアメリカ。バイデン氏は日米関係について「密接に取り組む方法を見つけるよりもっと難しいのは、どうやって意見の相違点を見つけ出そうとするのかということかもしれない」とまで述べた。

 とは言っても、意見の相違点は出てきそうだ。ロサンゼルス・タイムズは「意見の相違は、バイデン氏が、日本の最大の貿易パートナーである中国との経済協力を日本に制限させる取り組みの中で生じる可能性がある。岸田氏はアメリカによる中国へのセミコンダクターチップの輸出制限を支持すると述べた。しかし、日本は、同様の懲罰的措置をまだ何も行っていない」と対中経済政策の点で日米が合意を見出す難しさを指摘している。

 岸田氏が、“防衛費増税”に反対する声が多い中、バイデン氏と交わしたコミットメントをどう遂行するのかも注目されている。ワシントン・ポストは「日本の国民の多くは、より強い防衛能力を欲しているが、上がらない給料と30年ぶりのインフレ率上昇の中、大多数が岸田氏の増税計画には反対している」と国内では風当たりが強いとし、ニューヨーク・タイムズは「ワシントンでコミットメントを新たにし、バイデン氏やアメリカの高官からの支援を得たことで、岸田氏は新たな軍事的公約に縛られている。彼は国会や日本の議会に公約を果たさせるようナビする必要があるだろう」としている。

 アメリカとの同盟関係をかつてなく強固にした岸田氏。しかしそれだけに、国内でも、かつてない大仕事に直面することになりそうだ。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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