岸田文雄氏が新首相に就任するが、今や、日本の“影の首相”は安倍晋三氏なのかもしれない。

 米紙ワシントン・ポストが「安倍氏のレガシーが日本の次期首相岸田氏にのしかかっている」というタイトルの分析記事を掲載している。

安倍氏のレガシーで前に進めない

 同紙は安倍氏の長かった在任期間が日本に残した影響力について、「安倍氏は、第二次大戦後の他のリーダーたちより長い9年間日本のリーダーを務め、メルケル氏ほど長くはないものの、去り行く同氏のように国と国際関係に大きなレガシーを遺した。今、少なくとも日本は、前に進むのに難航している」と安倍氏の遺したレガシーゆえに日本が前進できなくなっているとし、首相に就任する岸田氏について「安倍氏による暗黙の支援で総裁を勝ち取ったかに見える岸田氏は、主流派による選択だと考えられている」と同氏勝利の背後にも安倍氏のレガシーがあったと指摘している。

 また、岸田氏を選択したことは機会の喪失である可能性があると示唆。

「日本がコロナウイルスからの経済回復という新たな問題や高齢化のような昔からある問題に直面している時、岸田氏を選択したことは別の進路を決める機会を逃したことであると、すぐに見なされるようになるかもしれない」

ビジョンがないから選ばれ、期待もされていない

 岸田氏に現状を打破する力があるかについても「岸田氏のバックグラウンドは、同氏が現状を打破することをほとんど示していない」と疑問も投げかけ、“岸田氏は明確なビジョンを持っていないために総裁に選ばれたのだ”と皮肉っている英エコノミスト誌の見方も以下のように紹介している。

「岸田氏は自民党の再生を約束したが、これが何を意味するのかは不明瞭だ。エコノミスト誌は、”同氏には強いビジョンが欠如していることが選ばれた理由にはある”とし、“同氏のライバルたちと違って同氏ははるかに脅威が少なく、また順応性に富んでいると考えられているが、あまり期待はされていない”と付け加えている」

 ちなみに、ビジョンについては、菅氏も欠如していると昨年の就任当時、米紙ニューヨーク・タイムズに批判されていた。今回、同紙は、「新しい日本型資本主義」や企業利益の分配という岸田氏が掲げている政策について、野党の二番煎じのような政策を採用するのは自民党が得意としてきたところだと以下のように揶揄している。

「選挙運動中、“新しい日本型資本主義”を導入し、利益をより多く中間層の労働者に分配するよう企業にすすめた岸田氏は、いくらかは国民の不満を認識しているかに見えた。そうすることによって、同氏は、有権者の不満を鎮めるために、野党によって最初に導入された政策を採用するのを得意としてきた自民党のお馴染みの雛形に従っているのだ」

一党独裁国家に危険なほど近い

 ワシントン・ポストは、野党の弱さや選挙制度の問題のため、日本が一党独裁国家に近い状況にも言及。責任は、2009年に圧勝しても分裂と無活動のためにすぐに崩壊した民主党を含む野党や自民党にアドバンテージを与え、競争なしの民主主義を生み出している日本の選挙制度(比例代表制と小選挙区制)にもあるとし、「その結果、日本は一党独裁国家に危険なほど近づいており、自民党の総裁選の投票は民主的価値がわずかしかないのに、全国的な影響力を持っている。そのため、岸田氏のような比較的リベラルな自民党の議員は党内で力がある派閥にアピールするために、結局、タカ派よりに方針を変え、河野氏のような人気のある候補者が失速したのだ」と分析している。

 また「安倍氏による長期支配は日本の政治的機能不全を覆い隠してきたが、潰瘍性大腸炎による同氏の予期せぬ辞任以来、その徴候は明らかに見える」と今も安倍氏の支配が続いていることに触れ、「メルケル氏は(安倍氏の)倍の長きにわたりドイツの指導者を務めたが、日本は、それよりはるかに長い間、安倍氏の名残りを振り払うのに苦闘するかもしれない」と今後も安倍氏の支配が長きにわたって続くと予測している。

 岸田新内閣が発足するが、安倍氏による影の支配が続く限り、日本を待ち受けているのは前に進めない「変わらない日本」なのかもしれない。それでも、岸田氏がどこまでその影と闘うことができるか、ささやかな期待を持ちつつ注目したい。

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