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「原爆投下は道徳的に正しかった」と言った、超タカ派ボルトン元補佐官が大統領選出馬を示唆 その狙いは?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ政権下で国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたジョン・ボルトン氏が、1月6日、英メディア「グッド・モーニング・ブリテン」のインタビューで、米大統領選に出馬する可能性があると表明した。

「虚栄心から出馬するのではない。真剣に出馬を考えていないのなら、指名争いには出ない。(共和党の)指名を勝ち取るためにレースに入る。ずっと強固な外交政策が必要だからそうするのだ」

 その外交政策については「アメリカやその同盟国は隣国に対する理不尽な敵対行為を容認しないということが、ロシアだけではなく、中国のような場所でも理解されることが重要だ」と述べた。

 ボルトン氏は、2019年9月、北朝鮮やアフガニスタンをめぐる問題で強硬な姿勢を示していたことから、意見が対立していたトランプ氏にツイッターでクビを言い渡されたと言われているが(本人は自ら辞任したと言っている)、その後は、暴露本『ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日』を執筆したりメディアに登場したりしてトランプ氏批判を展開するご意見番的存在となっている。

 超タカ派で知られる同氏は、ロシアによるウクライナ侵攻後も、様々なメディアで侵攻を抑止できなかったNATO(北大西洋条約機構)やバイデン政権を批判したり、「プーチンは核を使ったら遺書に署名する(暗殺される)ことになる」と警告したりしてきた。

 日本関連では、6年前、原爆投下について「トルーマンがしたことは、私からしてみれば、軍事的に正しかっただけではなく、道徳的にも正しかったのです」と発言し波紋を呼んだ。

 ボルトン氏は昨年12月、すでに出馬の可能性をチラつかせている。

 トランプ氏が合衆国憲法の「終了」を自身のソーシャル・メディアで呼びかけたことに難色を示し、NBCテレビの「ミート・ザ・プレス」に出演した際には、「大統領候補になるには『憲法を支持する』というだけではだめだ。『憲法を損なう人々に反対する』と言う必要がある」と述べ、共和党の大統領候補たちが憲法を終了させるというトランプ氏を非難しないのなら「私が真剣に出馬を考える」と言及していた。

 そんなボルトン氏だが勝ち目はなさそうだ。自身は「トランプ氏の共和党内での支持はひどく衰えている」と言って、共和党の大統領候補指名争いでトランプ氏を打ち負かす自信も覗かせたが、出馬したところで指名を得られる可能性は少ないというのが識者の見方だ。これまで出馬した経験がなく、ジョージ・W・ブッシュ政権下でイラク戦争を推進したネオコンと見られている超タカ派な同氏は党内では人気がないからだ。ボルトン氏に対する支持はゼロだと指摘しているメディアもある。

 また、ボルトン氏は外交政策を強化したいと主張しているが、予備選挙では通常、経済政策などの国内政策がより重視されている。

 それでも、出馬すれば、ボルトン氏は、ある意味、選挙に貢献する可能性もある。キャンペーンや候補者たちによる討論会の席で、トランプ氏の悪政を目の当たりにした元大統領補佐官として、トランプ氏の問題を批判することができるからだ。そうすることで、ボルトン氏はトランプ氏支持者のトランプ離れを促し、出馬すれば有力な共和党大統領候補になると目されている、トランプ氏のライバルであるフロリダ州のロン・デサンティス州知事への支持を高めることに貢献するかもしれない。実際、ボルトン氏はデサンティス氏を高く評価しており、2016年の下院選では同氏を推薦している。

 ボルトン氏自身が共和党大統領候補に指名されることはないだろうが、トランプ氏が指名されることを阻止する、強力なストッパーにはなり得る。ボルトン氏自身、そんな刺客としての自分の役割を心得た上で、出馬の可能性を表明したのではないか。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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