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トランプ氏の命運 スパイ法違反で刑務所行きか、それとも大統領に再選か? FBI家宅捜索

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
トランプ氏の邸宅で家宅捜索された書類の中には、最高機密文書も含まれている。(写真:ロイター/アフロ)

 フロリダ州にあるトランプ氏の邸宅マールアラーゴにFBIの家宅捜索が入り、大きな波紋を引き起こしている。核に関する機密文書が捜索されたと報じられており、トランプ氏が国防情報の違法所持によりスパイ法違反で訴追されて有罪となった場合、最長禁錮10年になるという。一方、トランプ支持者らはバイデン政権の陰謀だと抗議の声をあげ、結束を強めている。トランプ氏は刑務所に送り込まれることになるのか、それとも、状況は大統領選再出馬が目されているトランプ氏に利することになるのか?

トランプ氏は訴追されるのか?

 トランプ氏宅の家宅捜索の際に出された令状には、国防情報の違法所持によるスパイ防止法違反(最長禁錮10年)、公文書の隠蔽・持ち出し・損壊(最長禁錮3年と公職在職の失格)、記録改ざんなどによる捜査妨害(最長禁錮20年)の3つが捜索の理由としてあげられており、米司法省は、現在、トランプ氏がこれらに違反しているか調査中だ。今のところ、トランプ氏が訴追されるかどうかは定かでない。

 法律のエキスパートは、トランプが訴追されるかについては様々な見方をしている。スパイ防止法違反により5年間刑務所で服役した元空軍のメンバーもいるとし、トランプ氏も訴追される可能性があるとみる専門家や、核関連の書類を違法所持していた場合「刑務所行きになる」と断言する者もいる。

 一方で、「誰かが利益を得るために機密情報を売らなければ、元大統領を起訴して有罪にするのは無理がある」とFBIがトランプ氏を訴追して有罪へと持ち込むのは難しいとみる法律関係者もいる。

ロシアかサウジに機密情報を売ろうとしていた?

 トランプ氏は、これらの機密情報で何らかの利益を得ようとしていたのだろうか? 

 実際、“ロシアの国営メディアは、モスクワの高官たちはすでに、FBIが家宅捜索で探した機密書類を分析してきたと言及している”ということも報じられており、米フォックスニュースの司会者も「トランプ氏はロシアかサウジアラビアに機密情報を売ろうとしていたのか? それとも、機密書類はトランプ氏が所持する権利があると考えて、悪気なく誤って保存されていたのか?」という疑問を投げかけた。

 しかし、トランプ氏は上記の法律違反で実際に有罪になったとしても、憲法は法律の上に立つことから、大統領選には再出馬できると言われている。もし、トランプ氏が再出馬した場合、この状況は大統領選にどんなインパクトを与えるのだろうか?

トランプ氏の再選を助ける?

 FBIの家宅捜索が入ったとのニュースが流れた直後は、トランプ氏に利するとする見方が多勢だった。

 ニューヨーク・タイムズは「FBIはまさにドナルド・トランプを再選させたのか?」と題された意見記事の中で以下のような見方を示した。

「トランプの調査は、完全に、凶悪な政権の陰謀と見られている。少なくとも今までのところ、捜索は、共和党の政治情勢を揺すぶっている。数週間前の世論調査では、共和党有権者の約半数がトランプから離れて前に進む準備ができていた。今週、共和党全体が彼の下で結束した」

 オンラインニュースサイト“デイリー・ビースト”も、状況はトランプ氏の再選を助けるという見方を示し、そのことを危惧している。

「トランプワールド後に最もありえる道筋は、トランプが消え失せて、(別の誰かに)置き換えられることだった。FBIの捜索が他の前代未聞のスキャンダルのように展開すると仮定すると、皮肉なことだが、その道筋はありえなくなるかもしれない。実際、FBIの捜索はトランプの再選を助け、予備選のライバルになりうるデサンティス氏(共和党大統領候補として有力視されているフロリダ州知事)の勢いを殺すかもしれない」

 政治学者のイアン・ブレマー氏も8月11日付のニュースレターの中で、こんな見方を示した。

「FBIの捜索は共和党でのトランプの力を政治的に強めるだろう。家宅捜索はトランプに対する有権者の気持ちを変えることはなく、トランプには党内で落ちていた地位を再び高め、ディープ・ステイトによる迫害だという訴えを繰り返す機会を与える。これは、トランプに対してだけではなく、民主党やバイデンが対抗している人々に対する党派的な“魔女狩り”であるという説明は、自分たちは不利な立場におり、アメリカの法の支配と制度は壊れていると信じがちな共和党支持者の共感を呼ぶだろう。彼らと共和党リーダーたちは、トランプとトランプを支持している政治家の下で結束するだろう」

 しかし、安全保障上のリスクに関わる機密情報が捜索されたことから、今では、トランプ氏から距離を置こうとする共和党議員も現れているようだ。

訴追されれば大暴動が起きる?

 それでも、熱烈なトランプ支持者たちは、バイデン政権がFBIと結託して魔女狩りをしていると主張し、各地で抗議運動を起こしている。13日には、武装したトランプ支持者がアリゾナ州フェニックスのFBIのオフィスの前で抗議活動を行った。14日にも、ニュージャージー州にあるトランプ氏所有のゴルフ場の近くにトランプ支持者らが集まり抗議の声をあげている。

 危惧されるのは、トランプ氏が訴追されれば、1月6日に起きた議事堂暴動のような大暴動が起きるのではないかということだ。実際、11日には、オハイオ州シンシナティのFBI本部に武装して侵入しようとした極右思想の男が警察に射殺されるという事件も起きた。

 トランプ氏の命運は刑務所行きか、それとも大統領に再選か。

 そんな極端な結果が生まれる可能性がある状況は、アメリカ民主政治の衰退を象徴しているのではないか。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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