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スターバックス、“客以外でもトイレが使える”方針に終止符か? シュルツ氏が示唆 そのワケとは?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
客以外にもトイレを開放しているスタバだが、シュルツ氏は元の方針へと戻すのか?(写真:ロイター/アフロ)

 スターバックス・コーヒーCEOのハワード・シュルツ氏が、購入客以外の人々も使用可能にしていたトイレを、購入客のみ使用可能な以前の方針へと戻す可能性があることを示唆し、注目されている。

 2018年、フィラデルフィアにあるスタバで起きた事件を覚えている人も多いと思う。ビジネスミーティングに来たある黒人男性客がコーヒーを購入することなく「トイレを使えるか」と従業員にきいたところ、「トイレは客しか使えない」と言われ、その後も何も購入せずに店内に居続けたことから、マネージャーが警察に通報、逮捕されたという事件だ。人種差別だとして批判を浴びたスタバはこの事件後、客以外の人々もトイレを使用可能とする方針に変更した。

安全とメンタルヘルスの問題

 それから4年。シュルツ氏は、6月9日に行われたニューヨーク・タイムズ関連のフォーラムで、以下のように話した。

「スターバックスは100ミリオンの人々に(コーヒーを)提供している。店を公衆トイレにする人々が来ることで、店には安全上の問題が起きている。店の安全を強化して、人々に安全を提供しなければならない。トイレを開放し続けられるかわからない」

 安全上の問題というのが具体的にどんな問題なのかは不明だが、地域によっては、ホームレスの人々やドラッグ問題を抱える人々がスタバのトイレを利用することを問題視する声があがっていた。

 同氏はまた、従業員のメンタルヘルス問題にも言及。

「メンタルヘルス問題がスタッフや客を脅かしており、そのために、現在の方針ではスターバックスの従業員が店を管理することが難しくなっている」

政府が安全上の問題を解決しない

 シュルツ氏はさらに、政府が安全上の問題に取り組んでいないことにも難色を示した。

「スターバックスは政府が責任を負うべき問題を解決しようとしている。政府が問題を何も解決しようとしていないことに、私はますます気づいている。ビジネスのリーダーたちが我々の人々(従業員や客のこと)のために、より取り組まなければならなくなっている」

と政府が安全上の問題を解決しようとしないため、企業側が従業員や客の安全を守らなければならなくなっていると訴えた。

 確かに、4年前、スタバがトイレを客以外の人々に開放した時も、政府が街に公衆トイレを設置したり、ドラッグやホームレス、貧困などの問題に対処したりすれば、スタバのトイレが公衆トイレ化することにはならないと指摘されていた。

 これらの問題は、この4年間で悪化している。筆者が住むロサンゼルスでは、ホームレスの人々が居住するテントが、これまでなかったようなエリアにも次々設置されている。コロナ禍は人々のメンタルにも大きな影響を与えている。

 また、トイレが開放された後、ホームレス・シェルター近くにあるスタバでは客足が減少したという研究報告もされていた。客足減少の背後には、コーヒーを買わずに店内に居座る人々やホームレスの人々に対して人々が持っている“潜在的偏見”があると専門家は分析していた。

メンタルヘルス問題をスケープゴートに?

 シュルツ氏の発言に対し、ツイッターでは様々な意見があがっている。

「従業員のメンタルヘルス問題というのが何なのかわからない」

「従業員のメンタルヘルス問題をホームレスや身障者の人々を憎むためのスケープゴートにしている」

という批判の声があがる一方、

「政府が根本的問題に対処したり社会的弱者に基本的なサービスを提供したりしていないために、アメリカでは、チェーン店が公衆トイレになっていることに同情するわ」

とシュルツ氏の考えに理解を示す声もある。

 また、トイレを客以外の人々に開放しなくなることで、従業員は対応が大変になると懸念する声もある。

「従業員はホームレスや精神問題を抱えている人々に“購入しなければトイレを使用できない”と言わなければならなくなる。従業員と彼らの間で口論や対立が起きることになるのではないか」

 シュルツ氏が最終的にどんな判断をするのか注目されるところだ。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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