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「鉄の棒やスタンガンでレイプ」米ホロコースト博物館報告書が示す中国の民族大量虐殺 外交ボイコット問題

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
中国のウイグル族への人権弾圧をジェノサイド(民族大量虐殺)と呼び、抗議する人々。(写真:ロイター/アフロ)

 北京冬季五輪開幕まで2ヶ月を切る中、アメリカやカナダ、イギリスなどの国々が、中国の人権侵害を理由に、政府関係者を開会式などに派遣しない「外交ボイコット」に踏み切った。中でも、これらの国々が問題視しているのが、中国政府がウイグル族に対して行ってきた人権弾圧である。

 イギリスでは、12月9日、独立民衆法廷「ウイグル法廷」が、中国政府がウイグル族に避妊や不妊手術を強制してウイグル族の人口を減らし、ウイグル族の文化を抹消しようとしているという報告を基に、中国政府の行為はジェノサイド(民族大量虐殺)であると認定した。

 アメリカでも、11月、ホロコースト博物館が、様々な証拠を基に、中国政府がウイグル族に対し、強制的な不妊手術、性的暴力、奴隷化、拷問、強制移転などの犯罪を行ったと信じるにたる合理的な根拠があるとする報告書“‘To Make Us Slowly Disappear’: The Chinese Government’s Assault on the Uyghurs”(我々をじわじわと消す:ウイグル族に対する中国政府の暴行)を発表、「中国政府がウイグル族に対し、ジェノサイドを犯している可能性があることを非常に懸念している」と訴えている。

鉄の棒やスタンガンでレイプ

 ジェノサイドには、その集団での出産を妨げたり、その集団の人々に肉体的あるいは精神的危害を加えたり、その集団の子供を他の集団に強制的に移動させたりするなどの行為が含まれているが、56ページにわたる米ホロコースト博物館の報告書を読むと、女性をターゲットに、不妊手術による強制的な妊娠制限をしたり性的暴行を加えたりなど、ジェノサイドに相当する拷問が行われていたことがわかる。

 収容所では100万人を超えるウイグル族が拘留されていたと指摘されているが、報告書には「女性収容者に対し、中国政府のエージェントが、レイプや性的暴行、拷問を行っていた」とある。中でも目を引くのは、収容施設に入れられていたウイグル女性の生々しい、以下の証言だ。

「漢民族の警官は私の頭を蹴り、私は倒れましたが、彼は胃や頭を蹴り続けました。胃がパックリと裂けるようでした。彼は罵り、蹴り、ウイグル族はみなこう扱われるべきだと言って蹴り続け、私は気絶しました。

 目が醒めると、部屋の中でした。死にそうで、身体の中すべてが裂けるようでした。ルームメイトは私をバスルームに連れて行きましたが、出血し続けているのがわかりました。ルームメイトは警官に出血し続けていると伝えに行きましたが、警官は気にせず、それは普通のことだと言いました。

 そんな状況でしたが、私は尋問に連れ出されました。そこには3人の警官がいて、私をやったのです。1度は一緒にやりました。その暴力の非人間的な残酷さをどんな言葉で言い表したらいいのか。彼らは私を打ちのめして性欲を満たしただけではなく、はっきりと覚えていますが、彼らは3度やったのです。1度は、鉄の棒やスタンガンを使いました。彼らは、鉄の棒、スタンガンなどの器具を私の膣に入れてレイプしたのです。1度スタンガンや鉄の棒などの器具でレイプされ、3度は人工的なレイプをされました。最初は、3人全員からレイプされました。とてもはっきりと覚えています。私は泣くことも死ぬこともできません。魂と心は死んでいます」

不妊手術やIUD装着、堕胎の強制

 報告書は「強制的な不妊手術や強制的なIUD(避妊するために膣に装着するリング状の器具)の装着も性的暴行行為になる」としているが、収容所に入れられていた人々や元新疆ウイグル自治区の住民の証言、中国共産党の書類は、何千人ものトルコ系ムスリムの女性たちが強制的に妊娠しているか検査されたり、強制的にIUDを入れられたり、不妊手術をされたり、堕胎させられたりしたことを示唆しているという。特にこれらの行為は、新疆ウイグル自治区で急増したとしている。

 例えば、2014年〜2018年をみると、新疆ウイグル自治区の女性たちのIUD装着件数は2014年だけで20万件を超え、2018年までには33万件に急増したが、同じ時期、中国のその他の地域では、女性たちはIUDを外すようになっていたという。

 2019年には、新疆ウイグル自治区の政府は、ウイグル族が集中している4つの地域に住む、妊娠可能年齢の女性の少なくとも80%に不妊手術をするかIUDを装着する計画をしたと指摘、ウイグル族の女性たちはこれらの行為を拒否すると拘留すると脅され、実際に拘留された者もいるとしている。

 報告書は、また、IUDは手術によってしか外すことができず、国の認可を受けていない医療従事者に外された場合は懲役刑か罰金刑になるとIUDを装着させられたウイグル族の女性たちが話したことや、妊娠している収容者の中には胃を蹴られて強制的に堕胎させられた者もいることなども伝えている。

 中国政府の妊娠抑制政策はどんな影響を与えたのか?

 報告書によると、新疆ウイグル自治区のウイグル族が多い2つの県では、2015年〜2018年に人口成長率が84%減少、人口の99%がウイグル族で占められている南新疆ウイグル自治区のホータン郡では、2012年から2018年の間で、出生率が70.8%も減少したという。出生率の減少はウイグル族の人口の減少に繋がり、ウイグル族に対するジェノサイドを示唆している。

 米ホロコースト博物館の良心委員会会長のトム・バーンスタイン氏は、中国政府がウイグル族弾圧に関する情報を隠蔽してきたことを問題視し、ウイグル族に対する犯罪を止め、独立的な国際調査の実施を許可するよう中国政府に訴えている。

 米国務省報道官のネッド・プライス氏もホロコースト博物館の報告書をツイートし、新疆ウイグル自治区のウイグル族や他のマイノリティーグループに対する犯罪を止めるよう中国に呼びかけた。

 日本政府は北京五輪に閣僚などの政府高官を派遣しない方向で検討しているという報道もあり、今後の動向が注目される。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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