Yahoo!ニュース

世界も見守る新天皇陛下“即位の礼” 「新皇后雅子さまのご参列は許されず」米紙が一石を投じる

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
最初の儀式「剣璽等承継の儀」に新皇后の雅子さまが参列できないことを米紙が疑問視。(写真:ロイター/アフロ)

 「令和」が幕を開けた。

 日本では202年ぶりの歴史的な儀式となる「即位の礼」が間もなく始まる。皇位継承を国の内外に披露する重要な儀式だ。世界中も儀式を見守っている。

妻は儀式に出席できない

 この儀式について、4月29日付けのNYタイムズ紙が、「妻(新皇后の雅子さまのこと)は新天皇の即位を見ることが許されない」というタイトルで一石を投じた。(As a New Emperor ls Enthroned in Japan, His Wife Won’t Be Allowed to Watch

 ご即位の様子を皇室の方々は一族であたたかくお見守りになられるものと思っていた筆者にとっては、驚くべきタイトルだった。

 NYタイムズ紙の記事は、

「近代では初めて、1人の女性が参列する。安倍内閣では紅一点の片山さつき氏が、“即位の礼”の最初の儀式に立ち会う。しかし、26年連れ添った徳仁新天皇の妻、新皇后の雅子さまは参列が許されない。皇室において女性の地位が弱まっていることを示すまたの例だ」

と問題を投げかけ、「(参列できないのは)伝統というより、政治的で男性優位的な世界観を反映している」、「新皇后が皇位継承の重要な儀式に参列できないのはナンセンスだ」など専門家の声を掲載している。

保守派に配慮

 御即位においては5つの儀式が行われるが、雅子さまは、最初の儀式である、皇位のあかしとして歴代天皇に伝わる剣や曲玉などを受け継ぐ「剣璽等承継の儀」への出席が禁じられている。皇室典範では、この儀式に参列できる皇族は、皇位継承資格のある成年の男性皇族に限定されており、皇位継承資格のない女性皇族は排除されているからだ。NYタイムズ紙はこのことを疑問視したのだ。

 昨年の日本の記事を見ると、政府では、この儀式に女性皇族を出席させるべきかが論点の一つとなっていたようである。有識者からのヒアリングでは「女子を含めた未成年皇族の参列が望ましい」という声も出ていた。しかし、昨年3月、政府は、女性皇族が参加すると「政府が女性・女系天皇の容認に転じたという印象を与えかねない」と判断、昭和から平成に代替わりした時と同様、女性皇族は参列しない方針にした。安倍政権は、支持基盤である伝統を重視する保守派に配慮したのだ。(皇位継承の儀式、女性皇族は参列せず 政府調整

 一方、ただ一人の女性閣僚、片山さつき氏はこの儀式に参列する。また、儀式の模様は首相官邸から世界にもライヴ配信される。つまり、儀式は世界にもオープンに披露されるのだ。それにもかかわらず、新皇后の雅子さまやご長女の愛子さま、上皇后の美智子さまなどご家族であられる女性皇族の方々がこの儀式から排除されているというのには、違和感を覚えざるをえない。

男女不平等な日本社会

 NYタイムズ紙は「新皇后を夫の即位の儀式の重要な部分から排除していることは、男女平等を進めている日本の取り組みと矛盾する」という専門家の指摘も紹介しているが、同時に、そんな皇室のあり方はまた日本社会を映し出しているのではないか?

 政府が、女性皇族の方々が歴史的に重要な儀式に参列できないと取り決めたことは、女性が不平等な状況に置かれているという日本の問題を反映し、それを世界に露呈しているように思える。世界的視点から行くと「女性差別」していると見られても仕方がないだろう。

 実際、日本の女性は不平等な状況に置かれている。昨年12月に発表された世界経済フォーラムの2018年版「ジェンダー・ギャップ・レポート(男女格差報告書)」によると、男女平等を示す指数は149カ国中110位。ロシア(75位)や中国(103位)、インド(108位)よりも男女平等が進んでいない。日本は、近年、このレポートでは100位以下が続いており、G7の国々の中では最下位だ。

 特に、“管理職に就いている男女の人数差”では129位、“国会議員の男女比”では130位と、政治経済分野で男女平等が進んでいない。安倍政権の成長戦略の一環である「ウーマノミクス」が成功していない証拠だろう。

女性に開かれた時代に

 1989年1月7日に天皇陛下になられた今の上皇は、御即位後に行われた「即位後朝見の儀」で、「国民と共に歩む皇室でなければならない」とお話しになられた。それは、国民に対してもっと「開かれた皇室」にしていこうというご意思の表れだった。

 それから30年。皇室は以前よりは国民に開かれた。上皇が、東日本大震災の際に、被災者の前に跪き、お手をとられた姿は大きな感動を与えた。

 しかし、皇室は女性皇族たちに開かれた状況には置かれていない。それは、女性たちにまだまだ開かれていない日本社会を映し出しているように見える。

 「令和」が、日本の女性たちが平等を獲得できる、女性たちに開かれた新時代になることを願う。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事