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北朝鮮が30日間で非核化計画を作らなければ、トランプ氏は“最大限の圧力2.0”を加えるしかない

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
史上初の米朝首脳会談は、結局、具体策のない握手だけの会談で終わった感がある。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 予想していた通り、歴史的な米朝会談は、実質のない“ご挨拶会談”で終わってしまった。アメリカのメディアも、「完全な非核化」をするという金正恩氏の確固たる誓約もなければ、どんなプロセスで、どんなタイムスケジュールで非核化をするのかという具体策の提示もなかったと批判的だ。結局、非核化の具体策は、後回しにされた格好となった。

3000万人以上の命を救うためなら

 トランプ氏は“握手するだけの会談には終わらせない”と豪語していたが、結果的には、その程度の会談で終わった感は否めない。

 とは言え、ニューヨークタイムズ紙は、両首脳が対話をしたことに価値を見出しており、「トランプー金会談では、多くを望まない方針となったが、対話をしただけでも重大なことだ」として、以下のような分析をしている。

1.会談は多くの死傷者を出すことになる戦争が起きるリスクを低減した。

2.会談の共同声明は、外交上の決まり文句を含んではいるが、大半中身がなく、問題を解決するものとはいえない。

3.米韓合同軍事演習の一時停止は、“フリーズ・フォー・フリーズ”(米国は軍事演習をフリーズし、北朝鮮はミサイル実験をフリーズする)という、緊張を緩和させるために取られるメインストリームな政策で、全然革新的なものではない。

4.韓国側は、事前に、米韓合同軍事演習の一時停止という譲歩について知らされていなかったという。アメリカは韓国に不信感を与えた。

5. 北朝鮮からのリクエストで、世界ののけ者金氏はトランプ氏と同等の扱いを受けた。トランプ氏と同じ舞台に立つことは、金氏への“大きな贈り物”となった。

6. アメリカは、部分的な非核化や非核化の検証など、北朝鮮側から、譲歩の見返りを引き出す機会を失った。

7. 敵対国に対して、北朝鮮のようにアメリカに到達できるミサイルを開発をすれば、アメリカと交渉できるというメッセージを送った。

8. 北朝鮮は、非核化に向けたステップを、口にさえしなかった。アメリカも具体的で長期的な策を示さなかった。軍事演習の一時停止は簡単に覆されうるものだ。

9. イラン核合意の破棄や同盟国との合意の取り消しなどにより、アメリカの軍縮契約への不信感は高まっており、金氏との対話にもあまり実質を期待できない。

10. しかし、会談が金氏に対して譲歩するものであったとしても、戦争のリスクは大きく低減された。トランプ氏は、金氏と会談することで3000万人以上の命を救えるなら、喜んで会談すると言う。

 会談に中身はなく、アメリカはあまり見返りも得られなかったものの、金氏と対話をしたことで戦争のリスクを大きく低減させた意味は大きいという主張だ。

 確かに、半年前までは、米朝が一触即発の危機にあったことを考えると、金氏を「才能があり、頭のいい人物だ」と褒めちぎり、具体性のない合意書に署名することで、金氏に最大限の気を遣って譲歩してみせたトランプ氏の作戦は、それが、一時的な効果を与えるか、永続的な効果を与えるかはわからないにせよ、戦争回避には貢献したのかもしれない。

トランプ氏の“弱気発言”

 しかし、今後、焦点となるのは、金氏が、本当に非核化のプロセスに入るかどうかだ。

 トランプ氏は、会談後の記者会見で、

「金氏は、帰国したら、すぐに非核化のプロセスに入るだろう。私は、金氏は非核化をすると非常に強く感じている」

と、相変わらず自身の直感を頼りに、金氏に全幅の信頼を寄せてみせてはいたが、同時に、記者会見の終わりには、以下のような“弱気発言”もしていた。

「金氏は正直非核化をすると思うよ。間違っているかもしれないがね。6ヶ月後、“私は間違っていた”と言うかもしれない。間違いだったと認めるかはわからないが、私は言い訳のようなものを探すだろう(笑)」

 結局のところ、トランプ氏も“どうなるのかわからない”というのが本音なのだ。

タイムリミットは30日

 もし、北朝鮮が非核化のためのアクションを進めない場合、どうすればいいのか? 

 シンクタンク“ナショナル・インタレスト・センター”の国防研究部長ハリー・カジアニス氏は、フォックス・ニュースで、以下のような提案を行った。

「トランプ大統領は金氏に、非核化のための具体的なアクションプランを作る時間を30日間は与えても、それ以上は与えるべきではない。金氏が非核化のステップを踏まなかったら、アメリカは、再び、北朝鮮と何ヶ月も何年にもわたり、非核化交渉を続けることになるからだ。過去と同じ過ちをただ繰り返すことになるのだ。北朝鮮が30日間で、非核化と非核化を検証するための計画を作らなければ、トランプ大統領は“最大限の圧力2.0”と呼ばれている制裁を加える以外ないだろう」

 “最大限の圧力2.0”とは、アメリカとその同盟国が北朝鮮との商取引や金融取引を一切取りやめ、完全な原油禁輸措置を取るという圧力だ。また、カジアニス氏は、これらの圧力に怒った金氏が軍事力に訴えてくる危険性に備えて、東アジアにミサイル防衛システムを構築することも主張している。そして、トランプ政権が北朝鮮にタイムリミットを与えるような手段を講じなければ、北朝鮮は核兵器を開発し続けて、アメリカを攻撃するという“悪夢のシナリオ”になるかもしれないと警鐘を鳴らしている。

 果たして、金氏は、トランプ氏の直感通り、早々に非核化のプロセスに入る動きを見せるのだろうか? 6ヶ月後、トランプ氏が「私は間違っていた」と言って、言い訳を並べ立て、軍事行動という最終手段に訴えないことを祈るばかりだ。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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