鉄道が高架化される意義 ~阪神電鉄の高架事業に思う~

高架化工事の完成を祝した記念式典では関係者による鏡開きが行われた

 2019年11月30日、相模鉄道(相鉄)がJRとの相互直通運転を開始した。海老名・二俣川方面から渋谷・新宿方面へ直通列車が走り、相鉄沿線の利便性は格段に向上。JR線を走る相鉄の車両は新鮮な光景で、鉄道ファンからも注目を集めている。

 ところで、同日には関西でも大きな出来事があった。阪神電気鉄道(阪神)の芦屋~住吉間で上り線の高架化が行われ、2015年12月に高架化された下り線と合わせて同区間の高架化工事が完了。青木駅にて記念式典や出発式が執り行われた。

○ホームでのセレモニー後に記念式典を実施

管区駅長の出発合図で記念プレートを付けた祝賀列車が出発。多くの人々が見送った(写真は全て2019年11月30日筆者撮影)
管区駅長の出発合図で記念プレートを付けた祝賀列車が出発。多くの人々が見送った(写真は全て2019年11月30日筆者撮影)
出発に先立ってテープカットも行われた
出発に先立ってテープカットも行われた

 この日はまず、午前9時45分ごろから上りホームで出発式が実施された。記念のプレートを掲出した貸切列車を前に、久元喜造神戸市長や秦雅夫阪神社長らがテープカットを行い、貸切列車の運転士や車掌、青木駅を管轄する御影駅の澤昌弘管区駅長に地元中学校生が花束を贈呈。澤駅長の出発合図で列車が発車すると、大きな拍手が沸き起こった。

 続いて、同駅の高架下では記念式典が行われ、来賓や工事関係者、地元住民の代表など約200名が参列。久元市長が「この区間の連続立体交差事業は1983年に都市計画決定がなされた後、紆余曲折を経てようやく高架が完成した。長い間待ち望まれていた事業であり、これをきっかけに市東部の街づくりに取り組み、より住みやすく魅力あるエリアにしていきたい」と挨拶したのに続き、秦社長も「立体交差化により11か所の踏切が解消され、より安全な運行ができるようになった。今後も利便性向上を図り、快適な輸送を提供していきたい」と話した。

記念式典で祝辞を述べる赤羽一嘉国土交通大臣
記念式典で祝辞を述べる赤羽一嘉国土交通大臣

また、神戸市を地盤とする赤羽一嘉国土交通大臣も駆けつけ、「この事業は阪神淡路大震災によって大きな影響を受けたこともあり、この完成はいわば復興のシンボルの一つと言える。町のにぎわいにつながることを期待したい」と祝辞を述べた。

記念式典の会場には工事経過を写真で振り返るコーナーも設けられていた
記念式典の会場には工事経過を写真で振り返るコーナーも設けられていた
高架化された青木駅から魚崎駅方面を眺める。左側が2015年に高架化された下り線で右側が今回供用を開始した上り線。中央には引き上げ線も新設された
高架化された青木駅から魚崎駅方面を眺める。左側が2015年に高架化された下り線で右側が今回供用を開始した上り線。中央には引き上げ線も新設された

 前記の通り、この高架化事業は1983年の都市計画決定から実に36年という歳月を経て実現した。1992年に着手したものの、1995年の阪神淡路大震災を受けて工事はストップ。1997年に再着工し、まずは西側の魚崎~住吉間が2005年に完成した。翌年から芦屋~魚崎間の工事が始まり、2009年に上り線が、翌年に2010年に下り線がそれぞれ北側へずらされる形で仮線に切り替えられた。その後、もともと下り線があったスペースに下り高架線を建設し、2015年12月に高架化を完了。最終段階として下り仮線部分に上り高架線が建設され、11月29日の最終列車通過後に上り線の切替工事が行われた。同時に、廃止となる踏切は遮断機や警報器が撤去され、線路側を塞ぐ形でバリケードが設置されている。旧線部分は、12月7~8日にウォーキングイベントが開催された後、道路等に整備される予定だ。

高架化に伴って廃止された旧線区間と踏切。今後は道路などとして整備される予定だ
高架化に伴って廃止された旧線区間と踏切。今後は道路などとして整備される予定だ

○災害への備えとしても有効な立体化

 もともと阪神は、大半の区間が立体化されており、踏切が他社よりも比較的少ない。大阪梅田駅から武庫川駅の手前までは踏切が全くなく、その先も芦屋市内へ入るまでほぼ高架化されている。今回高架化された区間を挟んだ西側も、踏切は岩屋駅の手前にあるのみで、本線の約95%が立体化された状態だ。

魚崎駅東方の切替箇所。左側に旧線が見える
魚崎駅東方の切替箇所。左側に旧線が見える

 線路が立体化され、踏切がなくなるメリットは計り知れない。人や車との衝突がなくなり、安全に行き来できるようになるのはもちろんだが、異常ともいえる昨今の台風や豪雨対策としても有効だ。線路がいったん水没すると、バラスト(砕石)が流されていないか、その下の地盤に影響がないかの確認をする必要がある。ポイントや信号設備も、防水が考慮されているとはいえ長時間水につかるような事態は想定外のため、点検や修理が必要となれば運転再開がその分遅れる。さらに、災害などで列車が踏切上に停車した場合、住民の避難に支障をきたすことにもなる。日本が自然災害大国となりつつある今、こうした対策は費用や時間をかけてでも進める価値があるだろう。

 阪神では、今回の区間に続いて阪神なんば線淀川橋梁の架け替え工事も進めている。同橋梁は大正時代に建設されたもので、39本もの橋脚が増水時に流れの妨げとなっている。さらに、橋梁の高さ自体も堤防より低いため、高潮などの恐れがある場合は線路を塞ぐ形で防潮扉を閉める必要がある。作業の遅れが地域の浸水被害につながることから、国土交通省の河川改修事業と連動する形で高い位置に橋梁を架け替えることになった。川幅は850メートル以上あり、15年間をかけた大工事となるが、大阪の治水にとって必要な事業であることは間違いない。さらに、架け替えに合わせて周辺道路とも立体交差化されることになる。

青木駅前の弁当店には、開業を祝ったメッセージが見られた
青木駅前の弁当店には、開業を祝ったメッセージが見られた

 線路の高架化では、多くの人たちの“犠牲”もつきまとう。工事のために立ち退きを余儀なくされる人や、工事中の騒音や振動、さらに完成後は日当たりが悪くなる家もある。それでもなお必要な事業だからこそ、長い年月と莫大な費用、そして多くの人たちの理解と協力を得て進められる。

魚崎駅など3駅では、沿線に拠点を置く東洋ナッツ工業の協力を得て記念品を配布。同社のキャラクター「さかなっつ君」も登場した
魚崎駅など3駅では、沿線に拠点を置く東洋ナッツ工業の協力を得て記念品を配布。同社のキャラクター「さかなっつ君」も登場した

 高架化工事が完了した当日、沿線では多くの人が高架上を走る列車を眺め、役目を終えた踏切の写真を撮っていた。魚崎など3駅では、沿線企業とタイアップした記念品も配布され、受け取った人が駅員に「ついにできたんや!」と声を掛ける光景も見られた。変わりゆく街がより活気あふれることを願いたい。

記念式典での演奏という大役を終え、笑顔で記念撮影する中学生たち
記念式典での演奏という大役を終え、笑顔で記念撮影する中学生たち