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共通利用を終了した「スルッとKANSAIカード」残ったカードはどうすればよい?

伊原薫鉄道ライター
各社の「スルッとKANSAI対応カード」2018年2月以降も一部社局では使える

 2018年1月末、関西の鉄道業界で一つの時代が終わりを告げた。私鉄や交通局が発行していたプリペイドカード「スルッとKANSAI対応カード」の、駅の自動改札機やバスでの共通利用サービスが終了したのである。

○「スルッとKANSAI対応カード」とは?

各社の「スルッとKANSAI対応カード」コレクションを目的として購入し、そのまま保管している人も多いのでは?(写真は全て筆者撮影)
各社の「スルッとKANSAI対応カード」コレクションを目的として購入し、そのまま保管している人も多いのでは?(写真は全て筆者撮影)

 「スルッとKANSAI対応カード」(以下「スル関カード」)は、関西を中心とした私鉄・バス・地下鉄事業者が集まった「スルッとKANSAI協議会」加盟各社で共通利用できる、磁気式プリペイドカードである。

 1985年に国鉄(今のJR各社)が「オレンジカード」を導入してから、全国の交通機関では次々に磁気式プリペイドカードを採用した。当初は券売機できっぷに引き換える必要があったが、その手間をなくし改札機で直接利用できる「イオカード」を、JR東日本が1991年にスタート。やがてこの方式が主流となった。だが、それら多くは自社のみでしか使えないものだったため、利用する会社ごとに複数のカードを用意する必要があるなど、いまいち利便性に欠けるものだった。そこで、阪急電鉄では1994年に、グループ会社である能勢電鉄との間でカードの共通利用を開始。1996年には阪神電気鉄道、大阪市交通局、北大阪急行電鉄も加わった。そして同時に、このシステムにつけられた名称が「スルッとKANSAI」だ。

 その後、他の事業者も次々とこのシステムを導入。最終的には関西の大手5私鉄・3交通局を含む、多くの鉄道やバスで利用できるようになった。一方、東京でも2000年に共通利用システム「パスネット」がサービスを開始し、特に相互直通運転の利用者から喜ばれた。

○磁気式カードからICカードへ

スルッとKANSAI対応カードの共通利用終了を知らせるポスター
スルッとKANSAI対応カードの共通利用終了を知らせるポスター

 転機となったのは2004年のことだ。スルッとKANSAI加盟事業者で非接触型ICカード「PiTaPa」のサービスが開始され、徐々に利用可能エリアが広がってゆく。こちらはクレジットカードと連携したポストペイ(後払い方式)がメインのため、「スル関カード」の利用はそれほど減らなかったが、2006年にJR西日本が発行する「ICOCA」と、2013年にはJR東日本の「Suica」や関東民鉄各社の「PASMO」との共通利用が始まると状況は一変。これらのICカードは全国のJRや私鉄で利用でき(もちろん導入済みの社局・エリアのみだが)、きっぷとしてだけでなく買い物などにも利用できることから、「スル関カード」の出番はめっきりと減っていった。2017年には「スル関カード」の発売を終了。そして今回、改札機での共通利用もついに終了となったのである。

○今後はどこで使える?

各事業者のカードと、2018年2月以降の取り扱いについて
各事業者のカードと、2018年2月以降の取り扱いについて

 とはいえ、今も「スル関カード」が手元に残っている人は多いことだろう。実は、改札機での共通利用が終わった2018年2月以降も、一部の社局では引き続き改札機や券売機、精算機で利用できるのだ。そこで、今後はどこで使えるのかをまとめてみた。

(1)今後も改札機や券売機、精算機で利用できる会社

 →阪急・阪神・能勢・北大阪急行

この4社では、4社が販売していた「ラガールカード」「らくやんカード」「パストラルカード」「レジオンカード」と、新たに4社共同で販売を開始した「阪急 阪神 能勢 北急レールウェイカード」を、これまで通り改札機や券売機、精算機で利用できる。ただし、この4社以外が発行した「スル関カード」は、改札機では使用できない(券売機や精算機では使用可能)ので注意が必要。また、例えば大阪市営地下鉄や近鉄など、乗り入れ先の改札機は使えないので、その場合は券売機できっぷを買う必要がある。

(2)改札機では利用できないが、券売機や精算機で利用できる会社

 →近鉄、山陽、神戸電鉄、京都市営地下鉄、北神急行

この5社では、改札機での直接利用はできないが、券売機と精算機で利用できる。なお、「スル関カード」であれば他社が販売したカードでも利用可能だ。

(3)改札機、券売機、精算機の全てで利用できない会社

 →京阪、南海、泉北高速、大阪モノレール、大阪市営地下鉄、神戸市営地下鉄、神戸新交通(ポートライナー・六甲ライナー)およびバス全社

上記社局の駅やバスでは、全面的に利用することができない。ただし、上記社局が発行した「スル関カード」を(1)(2)の会社で使うことはできる。

 …と少々ややこしいが、自分がよく使う鉄道会社をチェックしておけばよいだろう。ちなみに発行事業者はカードの裏面に記載してあるので、そちらをご覧いただきたい。

カードには必ず発行事業者名が書いてある。利用や払い戻しの際は確認しよう
カードには必ず発行事業者名が書いてある。利用や払い戻しの際は確認しよう

○払い戻しは発行事業者の窓口で。カードは回収される場合も

 自分がよく使う駅で利用できなくなったなど、今後使う予定のない「スル関カード」は、発行事業者の駅窓口や案内所などで返金してくれる。また、事業者によっては郵送で対応してくれるところもあるので、各社のホームページなどをチェックしてほしい。

 ただし、ここで注意が必要なのは、返金処理を行なって残額が0円になったカードの行方だ。近鉄、神戸電鉄、大阪市交通局、京都市交通局、北神急行の5社は、「残額が0円となったカードは回収し、返却しない」とホームページ等で明記している。また、これ以外の各社についても「原則として回収」することになっているので、返却してもらえない可能性もある。たとえば「阪神タイガース優勝記念カード」や「○○線開業50周年記念カード」など、手元にカードを残しておきたい人は要注意だ。窓口でよく確認するか、2月以降も利用可能な会社で使い切るのが無難だろう。

 ちなみに、返金対応期間は今のところ5年間の予定。一部社局での利用可能期間は今のところ明記されていないが、もちろん未来永劫使えるわけではない。2015年に利用を終了した「パスネット」は、2018年1月末をもって返金対応も終了。残額のあったカードも、いわば“紙くず“となってしまった。そのようなことにならないよう、引き出しの奥やコレクション用のファイルを早めに確認しよう。

 その便利さから多くの人に親しまれ、より便利なICカードに道を譲る形となった「スルッとKANSAI対応カード」。歴史に幕を閉じた今、それを支えてきた人たちに改めて敬意を表したい。

鉄道ライター

大阪府生まれ。京都大学大学院都市交通政策技術者。鉄道雑誌やwebメディアでの執筆を中心に、テレビやトークショーの出演・監修、グッズ制作やイベント企画、都市交通政策のアドバイザーなど幅広く活躍する。乗り鉄・撮り鉄・収集鉄・呑み鉄。好きなものは103系、キハ30、北千住駅の発車メロディ。トランペット吹き。著書に「関西人はなぜ阪急を別格だと思うのか」「街まで変える 鉄道のデザイン」「そうだったのか!Osaka Metro」「国鉄・私鉄・JR 廃止駅の不思議と謎」(共著)など。

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